妹によるドラゴン討伐(後編)
.神の意図、およびドラゴン討伐
俺達は魔の森へとやってきていた。
「さすがに不気味ですねえ……」
周囲に生い茂る真っ黒な葉っぱ、紫の木に生えていてとても気持ちが悪い。
「言っててもしょうがない、ちゃっちゃとシャドウドラゴンを討伐するぞ」
――
妹バフを使用します
――
現在のステータス
力「A」
体力「A」
魔力「B」
精神力「A+]
素早さ「A」
スキル「爆発系魔法」
――
あるだけ破壊力のありそうなものをマシマシに盛っておいた、これだけ力があればまず負けないだろう。
シャドウドラゴンの生態については詳しくないが精神攻撃への対処のために魔力を少し削り精神力を上げておいた。
「さて……どうやって探すかな?」
「簡単じゃないですか?」
「えっ!?」
「エクスプロージョン!」
ドカーン!
着弾地点が焦土と化した。
「なにをやって……」
「BLAVE!」
「出てこないならあぶり出せばいいんですよ! こうやってぶっ放していれば魔の森が消える前には出てくるでしょう?」
驚くほどの脳筋思考だった。ドカンドカンと妹が森を削り続ける、ぐわんと俺の視界がにじむ、コイツはどれだけ魔力を使ってるんだ?
「ギャオオオオオ!!!! 下等生物ごときが! 我が住処をあらしおって! 生きてかえさんぞ! 劣等種!」
ドラゴンさんもあまり気が長い方ではなく二、三回目の爆発でその大きな姿を現した。
「さて、お兄ちゃん? 今回もらったスキルは?」
「任せろ」
――
「時空破断魔法」を付与しました
――
頭の中に響く声、その声にはいつもと違ってその後に続く言葉があった。
――
この魔法は周囲を広域にわたって破壊するため使用においては注意が必要です
――
その警告はあきらかにやばい魔法であることを示していた。
「なあドラゴン?」
「なんだ、命乞いか! せいぜい我に喧嘩を売ったことを悔やむがよい!」
「いまさあ、派手なやつぶっ放せる状態でさあ……後が怖いからお互いにここから去ってドラゴンなんていなかったってことにしない?」
ドラゴンは低く唸りながら不快そうに笑う。
「人間ごときが我と交渉だと! なんともつけあがっているようだな!」
「でもお前さっきの爆発にビビって出てきたじゃん? あれより遙かに派手な奴だぞ? 後悔しないな?」
「ふん! 下らん、死ぬがよい!」
「長話はもういいです! あなたはおとなしく死になさい!」
「ディメンションブレーク!」
ピシリ
空間に亀裂が走った、そこからすべてが闇に飲み込まれていく。
「ぐげええ! 人間! 何をし……」
最後まで言い終わることはなくドラゴンはその生涯を終えることになった。
「お兄ちゃんは少々人情家が過ぎますよ! あんなトカゲ一発で消し飛ばせるじゃないですか!」
まあ確かに消し飛んだな……
「さすがに意思疎通ができる相手を容赦なくぶち殺すのはちょっと引くわ」
俺達は魔の森にできた日光が差し込む場所で少し休み町へと帰っていった。
「今回はドラゴン相手にしたんですからもちろんランクが上がりますよね」
「…………」
「なんで黙るんですか!?」
「いやあ……お前学習しないなあって……」
「は!? なにがですか? 完璧な戦いだったでしょう?」
そう、”完璧”だった、「なにも残らない」くらいの圧勝だった。
「でさあ、あのドラゴン跡形もなく消し飛んだけどどうやって討伐を証明するんだ?」
普通このクラスの魔物なら死体の一つでも残るだろう、今回は跡形もなく空間ごと消し飛ばしたので牙も鱗も爪も、何一つとして残っていなかった。
「え? ああ、それは……ほら! 多分セシリーさんがいい感じにしてくれますよ?」
「その希望的観測がうらやましいよ」
呆れながらも二人でギルドのドアをくぐった。
ゴルドさんとウルドさんがこちらを奇妙な目で見てくる。
「おお! よかった! 生きていたか! 本当によかった! 魔の森の方から衝撃が伝わったときは生きた心地がしなかったぞ! さすがドラゴンの攻撃だが、君たちが生きているということは討伐できたのだな?」
「倒しましたよ! 褒めてください! 存分に!」
調子に乗るミントだったが……
「あのとんでもない威力の攻撃に耐えるとは……噂は本当だったようだな」
すっかり二人ともあの衝撃がドラゴンのものと勘違いしている。
俺はどうにも言いにくいことを話すことにする。
「それでですね、ドラゴンが綺麗さっぱり消し飛びましてね……その……証拠になりそうなものは無いんですよ」
二人が口をあんぐりと開けていた。
「……うせ……ハッタリ……嘘……って」
「いや……本当みたいな……」
めっちゃ疑われている。
まああんな派手な魔法を使いこなすFランク冒険者など到底想像もできないだろう。
「ま、まあ……その、なんだ。もう魔の森に脅威はないんだな?」
「はい! 綺麗さっぱり吹き飛ばしました!」
「そ、そうか。討伐の証拠を探索させてからの報酬払いでいいかね?」
「はい、構いませんよ」
「む、しょうがないですね」
ミントは納得していないようだが、証拠が無い以上しょうがない。
「では、調査団を向かわせることにする、数日で調査結果は出るので待ってくれたまえ」
そう言って二人はギルドを出て行った。
よくよく周囲の声を聞いてみると結構な言われようだった。
「さすがにドラゴンが気の毒……」
「あの兄妹がこの町にいたのが運の尽きだな……」
「というか衝撃がここまで伝わるような魔法って普通に怖いんですけど……」
等々と散々な言われようだった。
俺達は帰宅してからあの森の空白地帯を見つけたとき調査団がどう考えるだろうかと話し合っていた。
「今回こそ! ランクアップでしょう! 間違いないですね!」
「どうかなあ、魔の森自体そんな調査したことが無いから自然にできた森の空白地帯と判別できないんじゃないか?」
「お兄ちゃんは悲観主義ですね、もっと気楽に行きましょうよ!」
この楽観主義は魔法ではどうにもならないものだった。
――数日後
俺達はギルドから「至急ではない」呼び出しがカードに送られてきたのでそこを訪れていた。
セシリーさんは申し訳なさそうにこう告げた。
「その……一応森の中に強大な魔法を使った痕跡はあるのですが……なにぶん、何一つ残っていなかったので……謝礼金という形で報酬は払うそうですよ」
ミントが目を細めて言う。
「ギルドのランクは? 上がらないんですか?」
それに対して言いにくそうに語った。
「申し訳ないのですが、証拠が無いとランクは上がらないんですよ。お二人ともあれは本当に誰かが消し飛ばした後だと主張したようですが、死体の一つも無かったので上層部からランクアップは見送るように、だそうです」
「そんなー……」
ミントが肩をシュンと落とす、まああれだけ頑張ったもんな。
「ところでなぜ報酬が出るんですか? 証拠は見つからなかったんでしょう?」
「これは報酬ではなくあのお二人の個人的なお金です。二人ともあなた方のやったことに間違いないと主張してくださったそうで、報酬を出さないというのはあなた方に悪印象だろうということで私物から出したものです」
なるほど、俺達の印象が悪ければあの魔法が自分たちに向く可能性もあるわけで、確かに出して穏便に終わらせた方が自分たちにメリットなのだろう。
「あと、お二人が討伐軍への入隊ならいつでも歓迎するとおっしゃっていました」
心底興味なさそうな顔でミントが返答した。
「めんどくさいんで断っておいてください!」
「ハハ……」
セシリーさんも乾いた笑いを浮かべていた。
「結構好待遇を保証すると言ってましたよ?」
「私の待遇はお兄ちゃんの妹がベストですから! それ以上もそれ以下も存在しませんよ?」
周囲が凍り付いた空気の中、ホクホク顔で報酬を受け取ったミントが俺に向かって言った。
「お兄ちゃん! これでショッピングしましょう!」
どうやらこの日は長い一日になりそうだった。




