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すいている終電

結局、違法な事務所からは何度か逃げ出せたが、足は挫くし腕はすりむくし散々だった。


そしていま、私は相変わらず、大手事務所で埋もれている。己の分を知ったわけだ。ときおり、ネットチラシなどのモデルがくるがそれどまり、あとはエキストラで糊口をしのいでいた。



 世のまともな人たちはそんな私を現実が見えないどうしようもない奴だと思うだろう。でもね。それは仕方がない。だって私は高校すら出ていないのだ。まともな仕事につけつわけない。

 散々馬鹿をやって周りに迷惑をかけまくった元ヤンだ。



 三年前にやらかして、高校を中退した。それから、今は通信で学んでいる。来年の三月でやっと卒業だ。そうしたら、私は……。


 ガタンッと電車が激しく揺れて驚いた。揺れが収まり、慌てて周りを見回すと一人の男性と目がった。年は二十歳くらい、同い年だろうか? なんだか、私をじっと見ている。一見こざっぱりとして爽やかさを装っているが、どことなくオタク臭が漂っていた。


 私は彼を睨みつける。すると慌てて目をそらした。なんだか怪しい。派手な外見のせいか良く勘違いされて、「一万でどう?」などと勘違いされて声をかけられる。オタクのミソジニーだろうか。


 まったくなんなのだろう。私はスマホで時間を確認する。


㏂1:00


 あれ? おかしい。この終電は12:35分発だ。乗る前にネットで調べた。いま乗ったばかりなのにもうこんな時間がたっているの?


「ねえ。おかしいよね?」

「は?」


 さっきじっと見てきたオタクが馴れ馴れしく話しかけてきた。私はつい昔の癖でがんを飛ばす。


「いや、あの、俺、不審者じゃないよ。君、佐藤さんだよね?」


 私は即座にそいつと距離をとる。


「え、ちょっとやだ。気持ち悪いんですけど。あんた誰よ。なんで私の名前知ってんの?」


 こういう時は強気に出るのが一番だ。この車両には誰もいない。いたって助けてはくれないだろう。

 怖くないと言ったらうそになる。背は相手の方が少し高いくらい。十分気迫でおせるはずだ。


「ちょっと待ってよ。僕、同じ高校だった金井だよ。ほら、オタクの金井だって!」


 相手の若い男はタジタジとなった。


「え?」

「君、ヒナさんのもと親友の佐藤里紗さんでしょ?」


 ヒナの名前で思い出す。暴言を吐いて傷つけた友人。苦い高校時代。そういえば、こいつ理科室にくすぶっていたオタク。


「なんだ。金井じゃん。あんた何してんの? ってか、私に気安く声かないでよ」

「いや、あの、駅のホームで気付いてたんけど、もちろん、そのときは声をかけようとは思ってなかったよ。でもいまは緊急事態だから」

「はあ?」

「やだなあ。そんなに凄まないでよ。というか佐藤さん気付かない? もう十分もたつのにこの電車どこにも止まらない」


 そうだ。私も気になっていた。


「急行なんじゃないの?」


 言ってみたものの自信がない。


「いやいや、この電車最初は地下だけど5分もすると地上にでるでしょ?」

「え……」


 そうだ。まだ、地下を走っている。


「車庫にむかっているんじゃないの?」

「車庫は地上駅にあるよ」


 それを聞いて軽くパニックになる。


「ちょっと、あんた一体何したのよ!」


 私は、金井の胸元を掴んでゆする。


「知らないよ。俺のせいじゃないって。ちょと離してよ」


 その瞬間、突然ガクンと電車が激しく揺れた。私の体は放り出される。視界が反転し、激痛が襲う。気づくと私は列車の床にひっくり返っていた。


「いたたたたっ。重いよ。どいて」


下から、金井のうめき声が聞こえてくる。


「あっ!」


 私は慌てて金井からどく。


「ひどいな。里紗さん、俺をクッションにするなんて」

「しょうがないじゃない。いきなり電車が止まったんだから。ってか名前呼びやめてきもいから。それに重いってなんなのよ。失礼ね。私重くないから」


 何が起こっているかわからない恐怖も手伝って、金井に八つ当たりする。


「さっきから、ひどくない? いや、むしろ高校の頃からひどいな」


 金井が情けなさそうな声を出す。


「そんなんどうだっていいわよ。それより、急停止って、どうなってんのよ。なんかの事故?」

「さあ、俺に聞かれても分からないよ」

「あんた、頭だけはいいんでしょ?」


 名門私立校をすべて落ちて、二次試験であの高校に入ったと聞いたことがある。


「うん、頭は佐藤さんよりいいのは確かだけど」

「その言い方、いちいち腹が立つわね。この状況どうにかしなさいよ」


 オタクの金井は肩をすくめる。ああ何だかオタクのこういう仕草って、イラつく。


「とりあえず、運転手の様子を見に行こう。酒酔い運転かも知れない。それかポイント切り替えが間違っいて、別の線路にはいったとか」


 金井の提案に乗ることにした。 


「いい迷惑だよ。文句のひとつも言わなきゃね」


 私は金井と一緒に先頭車両に向かった。すると列車の中に乗客の姿がない事に気付く。


「そういや、おかしくない? 私の経験だと、終電でもっと混むよね?」


「うん、僕もそれを考えていたんだ。

この路線の終電は午前0時35分。今日は間に合わないかもと思ってきたら、ちょうど電車がホームに入ってきたんだ。それが午前例0時40分。電車が遅れてくれて来てラッキーだと思ったんだ。

で、駅でしばらく停止、出発間際に佐藤さんが駆け込み乗車してきたのが42分。そういえば、発車のベルなった?」


 覚えていない。あの時は電車に乗るので必死だった。


「で、それが何?」


 イライラとした調子で私が尋ねると、少し前を歩いていた金井が突然止まる。その陰で彼のせにぶつかりそうになった。


「ちょっとなんで、急にとまるの! 危ないじゃない」


 すかさず文句を言う。


「いや、佐藤さん、これちょっとおかしくないか?」


 その時、私たちは二両目に差し掛かっていた。金井の声は真剣だ。


「なにが……」


 彼の指さす方を見て呆然とした。なぜなら電車のドアが開けられていたからだ。金井が突然先頭車両にむかって走る。


「ちょっと金井、待ちなさいよ。何なのよ!」


 私は慌てて後を追った。こんなところで一人にされるのはさすがに怖い。


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