4話 アサシン
俺とリッチーはいざという時のために一旦準備をし、数時間後にミリアと合流した。
昼間のチンピラが言った2ブロック先の廃工場は、俺とリッチーには他の工場とさほど外見に差異は無く見分けがつかなかったが、ミリアの下調べのおかげで迷う事はなかった。
廃工場へ向かう途中、俺達はミリアをべた褒めした。
俺とリッチーの作戦はいつも「とりあえず力業で突っ込んでみて、どうにか押し切る」というものだった。
「にしてもミリアの作戦は心が躍るぜ」
「そうそう!これぞ作戦!って感じだよね」
「あんたら一体どんな作戦にする予定だったのよ?」
俺が答えた。
「まずはここのアジトにいるチンピラ共を片っ端から始末し、ボスのアジトを吐かせる」
「それじゃ昼間のチンピラから聞き出したやり方となんら変わりないじゃない」
「まぁ、そうなるね」
「相手が弱いと、どうも考える事を放棄してしまうんだよなぁ」
「そうそう!」
「そうそう!じゃないわよ!あなた達、ちゃんと作戦通りにできるの?」
正直、今回ミリアのおかげで作戦っぽい作戦をする事ができて、少し浮かれていた。
「任せとけって!いざとなったら力で押し切ればいいんだろ?」
「そうならないように作戦をたててるのよ!!もう、いざとなったらそれでいいから、その時はちゃんと私を守ってね!チームなんでしょ!!」
ミリアが諦めた。
ミリアの作戦通り、ミリアは廃工場が見える位置に移動した。どこにいるのか俺にはわからなかったが、限定強化しているリッチーにはギリギリ見えるらしかった。
俺とリッチーは廃工場から少し離れたところで待機していた。
2時間くらい経った頃、ミリアが動き出した。
どうやらリーダーがボスのところへ向かうようだ。
ミリアの移動に合わせて俺達もつかず離れずを繰り返す。
廃工場があったところからさらに人通りがすくなくなり、港に辿り着いた。
海に面した倉庫が並び、そのうちの1つの倉庫の前でリーダーと誘拐された女性達を乗せたであろう馬車が停まった。
辺りは暗かったが俺からでもうっすらと馬車らしきシルエットが視認できる程度の距離にいた。
さすがにあちらからは物陰に隠れているこちらには気付くまい。
ミリアはどこにいるのだろう?
あれだけ可愛いのだ、後光ぐらいさしていてもいてすぐにわかってもいいものだったが見つけきれないでいた。まぁ、潜入したいのだから見つかっては元も子もないのだが。
しばらくするとミリアが俺達と合流した。
いきなり足音も無く横の路地から現れて驚いた。
「馬車が停まった倉庫に奴らが入って行ったわ。私は倉庫の2階の窓から侵入して、中を少し確認してくるわね」
「了解した。俺達の突入合図はどうする?それにもしミリアに何かあった場合も心配だな」
「10分したら戻るわ。もし戻らなかったら助けに来てもらえるかしら」
ミリアの提案にリッチーが意見を述べた。
「いや、それよりもあの2階の窓から見える位置にいてもらえるかな?そうすれば何か起きる前に僕が動けるから」
ミリアと俺は、リッチーが指差した方向を見た。
「……窓?」
俺には暗くて2階まで続く壁だけしか見えない。
ミリアにも見えていないようだった。
「す、すごい視力ね。私はさっき倉庫の近くにいたから窓を確認出来たけど、ここからじゃ何も見えないわ。わかった、あなたの言う通りにするわね」
ミリアはそう返事をし、倉庫へ向かった。
来た時同様、全く足音がしなかった。きっとアサシンのスキルなんだろう。
私が倉庫に到着すると、倉庫の手前に停められたら馬車には運転手以外にもう一人護衛の男がいた。
二人とも尾行されている事にも全く気づいてないようで、警戒している様子も無い。
私はアサシンのスキルで足音と気配を消し、二階の窓までジャンプした。
窓はところどころ割れていたおかげで潜入は容易かった。
倉庫に潜入し、辺りを確認する。
倉庫は吹き抜けの2階建てになっており、壁面にのみ通路があった。通路は、人が2人横並びで歩ける程度の幅で、上から倉庫全体を眺める事ができる構造になっていた。
倉庫を見ると真ん中辺りに男が一人、向かいには男3人と誘拐された女性達が4人いた。
間違い無い、ワンチャイだ。
細い目、なんとも言えないダサい髭。確かに賞金首の似顔絵と一致している。
ここからでは会話自体は聞こえない。アサシンのスキルがあれば聞こえたかもしれないが私はそれを習う前に学校を辞めたのだ。
しかし、会話などどうでもいい。ワンチャイがいるというだけで十分だ。私は、私の友達がどこに行ったのか聞き出したいし、リッチー達は彼を捕まえさえすればいいのだから。
そういえばリッチーにはここが見えていると言っていたわね。
ここから合図を送れば来てくれる、って事かしら。
試しにリッチーのいる窓の方を向いてみようとした、その時だった。
「ほぉ……サイレントとシャットアウトのスキルかぁ……ケケケケケ」
聞き覚えの無い男のかすれた声が耳元で聞こえた。男の生暖かい息が左耳に当たる。
い、いつの間に?耳元で私が使っているスキルを口にした。振り向けない。一歩も動く事が出来ない気がした。きっと動いた瞬間に私は殺されているだろう。
「お嬢さぁん……お一人かなぁ……?」
「いや、あいにく僕もいるよ」
私の左後ろにピタリとくっついているであろう男のすぐとなりから声がした。
「……ッッッ!!!何者だ!!??」
男が一瞬で私の右側に跳躍し距離をとった。
私は術でもかけられていたかのように動けなかったが、男が離れた瞬間に解放された気分だった。
左を向くとリッチーがいた。
いつからいたのかすらわからなかった。
「お、おのれぇ……貴様もアサシンなのかぁ……?」
男の声は囁くようにほとんど聞こえないような話し方なのだが、不思議なもので5mほど離れているにも関わらず耳元で聞こえてきた。
その証拠に
「いや、残念ながら僕は戦士さ」
リッチーの声は声のトーンを下げているだけで普通に聞こえてくる。
「バ……バカな!?戦士にそんなスキルがあるはずがぁ……このオレサマに気づかれずにこんな近くまで忍び寄るなんて考えられない!サイコキネシスの瞬間移動だとしてもオレサマの射程内ならば察知できる!貴様、一体どうやったぁ!?」
アサシンは動揺を隠せずにいる。
恐らくこの男は一流のアサシンなのだろう。
三流の私にはもちろん、リッチーがいつ現れたのかわからなかったが、一流のアサシンすらも気づかれずに、リッチーはいつの間にか隣りにいた。
「忍び寄るも何も、今来たところだからね。キミがその子の横に立ったのが見えたから僕が駆けつけたのさ」
リッチーはそう言いながら私の方へ歩いてきた。
「ケガは無い?キミの隣りにそこの彼が見えたってアレンに言ったら、アレンがすぐに助けに行けってうるさくてさ。お待たせしたね」
リッチーは笑いながら話した。
「リッチー、ど、どうやってここへ?」
「アレンが言っていただろう?あそこからここへ、走ったのさ。最後はジャンプしたけどね」
「ほ、本当だったのね、あの話……」
「本当さ。だって僕は限定強化戦士だ」
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8話からヒロインが本領発揮いたします