卯月の息吹【5】
5【文芸部にて】
『多目的室2』
確かにそう書かれている。ここが文芸部の説明会場で間違いない。
小鳥遊が扉を開くと、既に数人の生徒が席に着いていた。黒板の前には男女一名ずつ立っている。恐らく彼らが文芸部員だろう。
ひとまず、俺らも手近な席に座った。
「それでは、時間になったので文芸部の説明会を始めます。」
女子の方が話し始めた。
「文芸部長の佐々木です。文芸部は今、私たち三年生の二人のみで活動しています。」
えらく零細なようだ。
「二年生はいないため、今年どなたかが入部してくれないと部員がいなくなります。是非、検討してみてください。以上です。何か質問はありますか?」
これで終わりか?活動内容や実績については話さないのか?それとも部活動説明会とは、こんなものなのだろうか。
横を見ると案の定、小鳥遊は質問をしたいようで、手を挙げようと試みているが勇気が出ない…といった挙動をしている。
「代わりに訊いてやろうか?」と言おうとしたところで、前の方に座っていた男子が手を挙げた。
「はい、どうぞ。」
「あの…普段はその、どういった活動をしているんですか?」
小鳥遊が少なからずほっとしたような表情を見せる。
「普段…ですか。特にこれといったことは何も。けやき祭の前には文集づくりのために何度か集まりますが、それ以外ではないですね。」
正直なところ、文芸部なんてそんなものだろうと思っていた。本を読んだり、書いたり。それを目的として入る者より、もともと部活動に熱意のない者が「暇そうだから…。」みたいな理由で入るような部、という印象がある。
しかしこれは、全国に幾つかは存在するであろう、文の道を志し、活字を愛する誠の文芸部らに失礼なのだろう。
この一つの質疑応答で全てを察したのか、その後質問をする者はおらず、説明会は終了した。結局、もう一人の男子部員は名乗りもせず沈黙を貫いていた。彼は何のためにあの場にいたのだろうか。
「短かったな。」
教室を出て、小鳥遊に話しかける。
「そうだね…。」
「どう思った?文芸部。」
「普段からの活動とかはないみたいだったよね。私は折角入るんだったら、ちゃんと活動したいかな…。」
正直、俺は悪くないと思っていた。普段の活動がないのであれば、それはそれで楽である。しかし、難点が一つ。「二年生はいないため、今年どなたかが入部してくれないと部員がいなくなります。」と佐々木は言っていた。即ち、俺が入部し、他に誰も入らなければ必然的に俺が部長になるのだ。あの説明会の様子を見る限り、誰も入部しそうにない。責任ある立場というのは、得てして面倒事が多いものだ。避けるのが賢明だろう。
「そうだな。俺は取り敢えず、残り二つを見てから考える。」
「次は演劇部だね。」
「そういえば、お前……失礼。小鳥遊の先輩とやらはどんな人なんだ?」
先輩のことを訊かれたからか、小鳥遊の肩が僅かに動いた気がした。
「……うん。先輩はかなり…その、奇妙な…というか、不思議なというか…。」
「要するに変人か。」
「わ、悪い人じゃないよ!明るいし…。」
『明るい変人』か。
俺が最も関係を持ちたくない人種だ。まあ構わない。説明会を受けるだけだ。それに、演劇部だから劇の一つでも披露するかもしれない。途中で眠らないように、くれぐれも気を付けるとしよう。
実は私、生粋のメガネストでして眼鏡をこよなく愛しています。正確には「眼鏡を掛けた女性」を。
性癖やフェチズムといったものを告白するのには、多少の勇気が必要かもしれませんが眼鏡は「太もも」や「鎖骨」などと比べると、幾分か健全な印象を与えると思っているので、身近な人間には臆することなく言いふらしています。
俗に言う「布教」というやつです。