卯月の息吹【2】
2【文『部』両道】
嶺嵐高校は県内有数の名門進学校として名高い、今年で創立120周年の伝統校だ。嶺嵐城跡に建っており、敷地のすぐ隣には嶺嵐城本丸御殿が現存している。男女共学で文武両道を謳っており、文化祭も賑わうため、強い憧れを抱いてここに入学する者も多い。
まあ俺はこれといった思い入れがある訳ではなく、家から近いのと、自らの学力水準に相当するというのが志望理由だ。そのため、入りたい部活も決まっておらず、そもそも嶺嵐高校にどんな部があるのかも知らない。
予め言っておくと、俺は運動が大の苦手だ。体力測定では身長以外に全国平均を超えるものはなく、中学の頃から体育の成績は悪かったため、高校受験の際には苦労した。
そしてなにしろ、俺は体力を消費することが嫌いだ。
であるから、俺の中に運動部という選択肢はない。
となると、文化部の中から探すことになる……
という話を俺はクラスで隣の席の小鳥遊沙奈枝に話していた。
……いや、何も俺からこんなつまらない話を始めた訳では無い。彼女が、俺が自己紹介を終えて席に着いた直後に話しかけてきたのだ。
「あの、部活は…どうするの?」
小さな、というより、か細い声で訊いてきた。
驚いた。自己紹介では、かなり緊張している様子だったから、大人しそうな女だと思っていたが、まさか話しかけられるとは。一応、隣の席にいるわけだ。何か話題を振ろうとは思っていたのだが、向こうから来たか。しかも、第一声は部活について。さて困ったとばかりに、この学校に入る前に考えていた上記の内容を話したのだ。
「まあそんな所だ。具体的な部活についてはおいおい考える。」
「そうなんだ……じゃあ今日の部活動説明会で決める感じかな…?」
「まあそんな所だ。」
ん?
「え、今なんて?」
「えっ!?いや、今日の部活動説明会で決めるの?って……」
「今日?」
「今日……だよ…?え、違ったかな?」
前半は自己紹介で言う内容について考えを巡らせていたため、後半は小鳥遊の突然の質問で、内藤教諭の話を全く聞いていなかった。大切な通達なら書面で配布されていたし、話す内容はただの嶺嵐高校の適当な紹介だろうとたかを括っていたからだ。
教室に内藤氏の声が響く。
「じゃあ三十分後には始まるからな。集合場所は黒板に貼っておく。」
黒板に校内見取り図が貼られ、その隣に内藤先生のご丁寧な通知が記された。
『本日11:00から部活動説明会!各部の集合場所に定刻通り向かうこと。ただし【一人につき三つの部まで】』
書き溜めていた分を一気に投稿しています。
煌めく「青春」を描くつもりは毛頭ないのですが、高校生活を送っていることそのものを青春を呼ぶのであれば、聡たちもその真っ只中に生きているということになるのでしょう。