98話 路導~みちしるべ~
サーラ=ルーネリティス=シルヴィアナ=リースロート王女殿下(姫姉様)との邂逅から10日程が経過していた。
メルラーナは手術の後遺症が残る事無く、順調に治っている、と云うかもう完治していると云ってもいい、魔人としての再生能力の賜だろう…。
部屋に籠っていても暇なので、お城の中を探検中である、10日間の間にも探検はしまくっていたのだが、いかんせん広すぎる、未だにメルラーナが入る事を許された場所の全部を回れてはいなかった、しかも下手をすれば迷ってしまい、近くに居るメイドさんや騎士達に道を聞いたりしていた。
街にも出かけたい処だが今はまだ禁止されている為に大人しく城の中を彷徨いている、城の中で二回程フィリアさんと出会って少しだけ話をした、あれから姫姉様とは一度も会ってはいない、元々迚も忙しい方なのだそうで、あの時の時間も私の為だけに空けてくれた時間なのだそうだ、何か申し訳なく思ってしまう、気にしなくてもいいと言われた、団長、つまり私の父親が将軍と云う地位に居る事や五大英霊の1人である事から私の身の安全は最優先で保証されているそうだ、…やっぱり何か、…申し訳ない。
姫姉様と云えば、本人とは会えなかったがお兄さんやお姉さん、弟さんや妹さんとは何度かお会いした、ただ誰が誰だか覚えられなかった、会った回数が少なかったのが主な原因だが、会う人会う人が違う人なのだ、同じ人に会う事等滅多になかったりする、其れも其の筈、姫姉様の御兄弟はお兄さん3人、お姉さんが5人、此処で数字が少し…、大分?おかしくなるんだけど…、弟さんが24人、妹さんが18人居るらしいのだ、王族って子沢山だなぁ…、あれ?弟さん妹さんが合わせて42人…?えっと…?姫姉様って今お幾つ?
流石に聞けなかった…。
年齢は聞けなかったがメイドさん…、おっと、此の国では使用人と呼べなければいけなかったんだ、お国柄で色々とあるらしい、使用人さんが教えてくれたのは、前王陛下、姫姉様のお父さんには奥さんが沢山居るそうだ。
考え事をしていたら外に出た…、庭だ、最初に使用人さんに連れられて歩いたあの立体で出来た広い庭…、の何処に出て来たのか解らない。
此の庭は色んな処に繋がっているそうだ、何故こんなに複雑な構造になっているのか聞いてみた事がある、城とは元々敵に攻められた時に攻めにくい様に作られるものなのだそうだ、此の庭は広くて見通しが良い、更に色んな場所と繋がっているので防衛兵や騎士が集めやすく一方的な迎撃が出来るのだとか。
庭を少し歩いて塀から見える街並みを眺める。
街の屋根が雪で真っ白に染まり、日の光が反射して輝いていた。
そう云えば部屋を出る時に使用人さんによく厚めの暖かそうな衣装を進められて着せられそうになるけど、やっぱり此の国って寒いのかな?私には余り感じないんだけどな?
遠い処まで来たな…。
私は…これからどうすればいいんだろう?フォルちゃんを取り除く方法は姫姉様でも解らないと云っているし、フォルちゃんが居ても特に不便な事なんて無いのよね、別に取り除く必要も無い様なきがする…、かといってカノアの町に帰る気にもならないし、大体此処で帰ったりしたら今まで世話になった人達に申し訳ないものね。
「メル?」
背中から聞き覚えのある声で呼ばれた。
「エアル?」
振り返って声の主を確認する。
「どうしたの?こんな寒い処で…って、メルは此の程度の気温じゃ寒くないのか…。」
振り返ったメルラーナの表情や身体の様子を見ると寒さを殆ど感じていない様に見えた、北国のリースロート王国では夏の真昼でも氷点下になる事がある、極寒の地と云っても過言ではない国なのだが。
「うん、寒さ事態は感じてるんだけど、其れで身体に何かしらの負荷を感じる事は無いよ。」
氷の魔人としての能力の事は聞いていたけど直接見るまで実感が沸かなかった…、まさか此程とは…。
「そっか…、其れで?どうしたの?何か考え事をしている様に見えたのだけど?」
「…うん。」
私はさっき考えていた事をエアルに話してみた、此の10日の間にも色々と思い出しては考えて、考えていると何か身体がムズムズして、其れを少しでも解消したくて身体を動かし乍ら城を探索していた事も話した。
話終えるまで何も言わず静かに聞いていたエアルが口を開く。
「メルは、サーラ王女殿下の事どう思ってる?会って感じた事、話をして感じた事、何でもいいわ。」
「姫姉様に感じた事?」
…姫姉様って、やだメルってば、やんちゃだなぁ、もう。
とても良い人?優しい人?…そんなありきたりな言葉じゃない、多分エアルはそんな事を聞きたいんじゃないと思う…。
じゃあ好きとか嫌いとか…?嫌いになる訳が無い、寧ろ好きだ、何だろう?傍に居て欲しい感じ…かな?そう…まるで。
「お母さん?」
突拍子もない事を口走ってしまった。
「…。」
エアルは瞳を大きく見開いて瞼をパチパチと動かしている。
「…は!?い…いや、あの。」
両手をバタバタさせて言い訳をしようとするが。
「…プッ、アハハハハッ!」
笑われた。
「むぅ、エアル酷い!」
頬を膨らませて抗議するも、顔が真っ赤で熱くなってしまっていて余計に恥ずかしい。
「ゴメンゴメン、違うのよ、私も初めて会った時にそう思ったから…。」
…エアルも?私と同じ事を感じたんだ?
「解っているとは思うけどあの方はね、メルがどんな道を選んでも背中を押してくれるわ。」
…うん、解る。
「自分自身が理不尽な運命に翻弄されているのに、他人の心配ばかりしているのよ。」
うん、私の心配もしてくれてた。
「だからこそ…かな?私はあの方が好き。」
…うん。
「あの方の力に成りたい、…だから私は騎士になった、出来うる限り傍で護りたかったから…。」
…そうか、其れがエアルが選んだ路なんだ。
「私もメルが此からどう云う路を進んでも応援するし力を貸すわ、けれど、敢えて云わせて欲しい、メルラーナ、どうか、貴女の力を貸して欲しい、私達と一緒に、サーラ王女殿下を護って欲しいの…。」
私が…、姫姉様を…?
「…少し、考えさせて。」
そう云って踵を返して其の場を去って行った。
数日後、メルラーナは庭を散歩していた、勿論エアルに誘われた事を考え込んでいる、悩みが増えて更にムズムズしていた、世界の命運とか云われても話が飛躍し過ぎて訳が解らないと云うのが正直な処だ、庭の地形は大体把握出来てしまった、何日も探索しているのだから当然と云えば当然か…。
身体を動かして汗を流せば少しはスッキリするだろう…、そう思い訓練場に続く通路へ向かう。
訓練場には先客がいた、身長よりも遙かに長い弓の弦を引き、標的である的を狙って…撃つ、矢は弧を描いて的の中心へ吸い込まれるように貫いた。
おお!?凄い!
「メル?」
見つかってしまった。
別に避けるつもりは無いので少し話しをした。
「ゴメンね?変に悩ませてしまったわね。」
違う、エアルは悪くない、私がハッキリしないから…、しっかりとした目的も無く此処まで来てしまったから…、だから悩んでいるんだ。
「ねえ?少し手合わせしてみない?アレからどれ位成長したのか見てみたい。」
特に断る理由も無く手合わせをする事となった、全快したメルラーナの力は絶大だった、絶対零度をあっと云う間に到達し、更に超低温を叩き出す、だがエアルには通用しなかった、あっと云う間に地面に叩き付けられた。
叩き付けられた身体を旋回させて立ち上がり体勢を立て直す、距離を取ればエアルに一方的に攻められる、懐に入り込んで接近戦に持ち込んだ、しかし其の考えが浅はかであった事を思い知らされる、エアルはメルラーナの接近戦に対応してきた。
手合わせを初めてから小一時間、メルラーナは敗北した。
此の手合わせを見学していた騎士達は口を揃えて云った、アルテミスのエアルにアレだけ前線した人を見たことが無い…と。
負けるのは解っていた、でも全力で立ち向かったつもりだ、始めからやる気が無かったら今此の場に居ないから。
ゼノディスを倒した実績はあったものの、エアルの強さとゼノディスの強さは全く別物だ。
負けたけど…、心はスッキリしていた。
「エアル…私、決めたよ。」
後に…、メルラーナ=ユースファスト=ファネルはリースロートの騎士と成る。
其の日、世界の命運を分ける戦いに巻き込まれた少女は、自らの意思で其の戦いに挑む路を選んだ…。
其れは又、別の物語である…。
クレイヴァネアス ~始まりは玉響な微睡みの中で~ 完。
第一部、完です!
長い間お付き合い頂き有り難う御座いました。
執筆速度が遅い癖に予定より大分長くなってしまいました。
此でも大幅にカットしたんですけど。
2章と3章の間に実はもう1章あったとか。
終章のディアレスドゥア公国内で戦争に巻き込まれる話とか。
一応此の第一部は起承転結で云う処の起の部分になるので余り長くなるのはどうかと思い、バッサリと切らせて頂きました。
此から書き溜めするつもりなので第二部開始までは暫く掛ります事を此の場で申し上げておきます。
其の上で云うのも何ですが、今後とも宜しくお願いします!
クレイヴァネアス
第二部
翼を捥がれた愚者達の果てしなき歩み
乞うご期待?




