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クレイヴァネアス ~始まりは玉響な微睡みの中で~  作者: 沙霧 啓
終章・フェアリーテール
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90話 クレイヴァネアスの欠片



「ゴホッ!ゴホッ!」


全身、特に腹部に激痛が走っている、ゼノディスは痛みを堪え上半身を起こして腹部に手を添えた。


「…!?」


触れようとした腹部に手が触れる事は無かった…。


「ゴフッ!!ゲホッ!ゴホッゴホッ!ハァ!ハァ!」


大量に吐血し激しく咳き込む、腹部の傷を凍らせていた血で出来た氷が溶け出して血が一気に吹き出し床が真っ赤に染まる。


「…カルラ…さん。」

瀕死の状態のゼノディスを呼ぶメルラーナ。


「ゴホッ!ゴホッ!…ま、…まだ其の名前で呼ぶのか、ゲホッ!ゴホッ!ハァ、ハァ、…い、…言った筈だ、俺はゼノディス、ゼノディス=ブロウバル、レシャーティン八鬼将の1人だと…。」

吐血で血みどろになった顔を上げてメルラーナに向けて真っ直ぐに眼を見つめると、自分がカルラ=トネルティでは無くゼノディス=ブロウバルである事を改めて強調した。


「でも、私にとってカルラさんはカルラさんだよ。」


「………そうか。」

喋るのが苦しいのか、ゼノディスは俯く。

掠れて行く瞳に血で染まった床が映り、其の中に光りを反射する物を見つける。


「…。」

ゼノディスは無言で光る其れを手にする。


「…其れは!?…欠片!?」

メルラーナは険しい表情でゼノディスの手の中にある物に警戒をする。


「…クレイヴァネアスの欠片。」


ドクンッ!

胸の鼓動が急激に高鳴る。


「え?」

何?何て言ったの?


聞き覚えのある名前だった、何処かで聞いた事がある気がする名前…、何時聞いたのか?何処で聞いたのか思い出せなかった。


「…クレ…イ?…何?」


「ゴホッ!ゴホッ!ハァ、ハァ、…ク、…クレイヴァネアスの欠片…だ。」

突然降って沸いた様にゼノディスの口から吐き出された言葉。


「クレイヴァネアス…?其れが…、其の欠片の名前なの?」


「…欠片…の名前…か、…そう…だな、其れが欠片の名前だ…。」

言葉を濁して肯定するゼノディス。


「クレイヴァネアス…。」

何処かで聞いた事がある様な…、無い様な…、そんな気がする…、何処かで聞いたのだろうか?誰かに聞いたのだろうか?思い出せない…?気のせいなのだろうか?


夢の中で聞いたのだがメルラーナは目を覚ました時は殆ど其の内容を覚えていない。

なんとなくの記憶はあっても細部までは一切と云って良い程忘れ去っていた。


「…名前が、有るんだ、…じゃ、じゃあ欠片って一体?」

思い出せない名前を探るよりも欠片そのものに名前が有る事に対して。


欠片とは何なのか?何故存在しているのか?何の為に有るのか?名前が有ると云う事は何かをする為に誰かが作り出したのか?だとしたらどうしてこんな危険な物を作り出したのか?


そんな疑問が生まれる。


「…フン、其れを教えれる程の時間は、俺には残されていない。」


メルラーナが与えた致命傷がゼノディスの残された時間を奪って逝く。


「…ぁ。」


其の時。


「メルラーナ様!!」


呼ばれて振り返るとミューレィが崩壊した大広間に足を引き千切られたサイファーに肩を貸して共に入って来た。


「ミューレィさん?」


ミューレィ達の後ろからマオとシグも入って来る。

2人は入って来て早々にゼノディスの状態を確認し。


「…終わった…のね?」


マオの問いにメルラーナが答える事無かった。


「…。」


マオはメルラーナの表情から気持ちを考えて其れ以上問いかける事はしなかった、瀕死の状態で上半身を起こして床に座っているゼノディスに警戒心を解かず、大広間の現状を確認し始めた。

外気温よりも低くなっている部屋の温度に先の戦いの異常性が窺えた。

吐く息は白く、氷の結晶となって落ちて行くのが眼に見える、寒いとか云うレベルを遙かに凌駕している惨状に息を呑んだ。


「欠片の事を説明している時間は無いが、鬼の事ならば話してやろう…。」


「え?」


「…ゴホッ!…一度しか言わないし質問も受け付けない。」


今から一方的に自分の秘密を暴露してやろう…、聞きたければ邪魔をせずに静かに聞く事だ。

メルラーナにはゼノディスがそう言っている様に聞こえた。


コクン。


と顎を引いて頷くメルラーナが肯定の意を示したと捉えたゼノディスは…。


「クレイヴァネアスの欠片は摂取すれば意識を失い暴走し始める、脅威的な再生能力と圧倒的な力が生み出される、体内に入り込んだ欠片は意識を奪われ真面な判断や思考が出来なくなってしまい暴走を始める、其れがお前達が欠片のモンスターと呼ぶ魔物の事だ。」


其れは知っている…、ビスパイヤから聞いた話を合致していたが、メルラーナは黙ったまま聞き入れる事を選択した、話の腰を折ればゼノディスはもう何も話してはくれなくなる気がしたから。

否、何も話せなくなる気がしたから…だ。


「其のクレイヴァネアスの欠片が生み出す能力を意識を失わずに利用出来ないか…、と云う研究から誕生した生命体。

意識を失わない様にするには…、胃の中では無く身体の中に直接埋め込む、そうすれば埋め込まれた部位が活性化を始めて圧倒的な力を得る事が可能となった、再生能力は有るが摂取した時とは違い瞬時に再生するものでは無く徐々にしか再生されないが、其の変わり変化はせずに元の姿に戻る。

但しニイトスの様な失敗例も存在する、クレイヴァネアスの欠片は埋め込まれた瞬間から其の身体を洗脳しようとしてくる、其れは決して嫌なモノでは無く心地良いモノだ、だから意思の弱い者は直ぐに折れてしまい身体を乗っ取られる、意思が強くても時間を掛けてジックリと洗脳してくる、其れは無意識下で行われていて、埋め込まれた者達には心地良いと云う以外何かをされていると云う感覚は存在しない、嫌、心地良い感覚でさえ何かをされているとも思わないだろうな…。

俺の両足首には一つずつ、二つのクレイヴァネアスの欠片が埋め込まれている、埋め込まれた場所によって其の人物と能力、部位に応じた力を得る事が出来る、俺の早さは其処から生み出されているが其れを使いこなせるかどうかは俺自身の問題だ、扱えなければ洗脳されてしまい欠片のモンスターの様な末路が待っている、洗脳される事無く意識を保っていられ続ける事が出来る者…、其れが鬼だ。」


衝撃的な内容だったが納得がいく部分が多かった。

あのスピードは欠片が引き出した力だったと云う事か…。


「…ハッ!?」


一通り話を聞き終えた時、メルラーナは急に振り返ってサイファーを見た。

鬼が欠片を埋め込まれて誕生した存在ならサイファーは?其れにサイファーの友人は?


「サイファー君は左膝に欠片が埋め込まれていたので引き千切っておいた、後遺症は残るだろうが洗脳される事は無いだろう…、助けた訳じゃあ無いぞ?我々の敵に鬼が居ると色々と面倒な事に成りかねないからな。

彼の友人は鬼のなり損いだ、完全に洗脳はされていないが身体は乗っ取られている状態、其れが村を襲った鬼の正体。」


「ふ、巫山戯るな!村を襲った?襲わせたの間違いだろう!?」

怒りを露わにしたサイファーがゼノディスに突っ掛かろうとしたのを。


「サイファー様!?」

ミューレィが制する。

ゼノディスは其の様子を視線だけで捉え、直ぐに反らしてメルラーナを見る。


「話は以上だ…。」

最初の発言通りに一方的に話終える。


「…欠片は、鬼を生み出す為に存在しているの?」


「最初に言った筈だ、質問は受け付けない。」

其れはゼノディス自身の命の灯火が消えかかっている事を意味する言葉だった。



「ゴホッ!ゴホッ!…志半ばとなってしまい申し訳ありません、…ゴホッ!ハァ、ハァ、…ど…どうか、…我が命、…我が魂を貴方と共に逝かせて戴きたい。

ゴフッ!ゴホッゴホッ!…我が兄弟、……我が父、………我が王。




………先導者………。」





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