表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クレイヴァネアス ~始まりは玉響な微睡みの中で~  作者: 沙霧 啓
終章・フェアリーテール
84/98

84話 ゼノディス=ブロウバル


「ハァ、ハァ。」

激しく息を切らせるメルラーナとサイファー。


「お、終わった?」

ピクリともしないニイトス=キーマロア=トメスだったモノが倒れている。

動かない事を確認しようとサイファーが近寄ろうとすると。


「サイファー、近寄らないで。」

背中から呼び止められて足を止めて振り返り、警告を発した当人であるメルラーナを見た。

其の(まなこ)は自身にでは無く、生命維持が完全に停止したであろう筈のニイトスに向けられていた、其の瞳には一切に緩みが無く警戒心を剥き出しにしている状態だった。


「…、此奴、まだ生きているの?」

自身の警戒を最大限に強めメルラーナに尋ねてみる、欠片のモンスターに対しての知識を一切持ち合わせていないサイファーには当然の疑問ではあったが。


「ゴメン、其れは私には解らない、けど、テッドは前にこう言ったの。」



『欠片の侵食具合がどれ程かが解らないからね、完全に消滅させておかないと後で動き出されちゃあたまらない。』



「…!?」

サイファーは其の言葉の意味を理解して眼を見開らき驚いた後。

「…つまり、此の確実に死んでいるであろう筈の人物の身体を、完全に消滅させておかなければ動き出す可能性がある…って解釈でいいのかな?」

自分なりの考えを一纏めにして言葉にしてみるも、言葉にしている本人ですら理解出来ない事を口走っているのはハッキリと解る。

生命反応が停止しているのだ、生きている筈が無い、其れが動く等、あり得る筈が無いのだ、いや、動いていい筈が無いのだ、ゴーレムの様な無機物魔法生物でも魔力と云う名の命を原動力にして動いている


「多分…ね。」

其の時、二つの足音が近付いてきている事に気付く。

向かって来る音の方へ振り返ると、カルラとミューレィがいた。


「…ふむ、此の程度か、…適正が無ければ思っていたより役に立たなかったな。」

ミューレィを連れて戻って来たカルラの第一声が其れだった。


「カルラさん?」

メルラーナはカルラが何を言っているのか解らなかったが。


「メルラーナ様!サイファー様!御無事でしたか!?」

ミューレィが駆け寄って来た事で気に成らなくなってしまった。


「ああ、メルラーナ様、御身体が傷だらけです。」

心配そうにメルラーナの身体を優しく触るミューレィ。


「駄目ですよ?貴女の様な美しい方が御怪我をされる様な無茶をなさるなんて…、御自愛なさって下さい。」

自分より美しい人に対する敬愛の眼差しをメルラーナに向け、少し窘めるミューレィに押され。

「え…えっと、…はい、すいません。」

素直に謝ってしまった、そんなメルラーナを見て微笑むと。


「サイファー様も御無事で何よりです。」

ミューレィはメルラーナの傍を離れてサイファーに駆け寄り、メルラーナよりも傷を負っている身体を見て辛そうにしていた、メルラーナに対する態度とは明らかに違い、瞳が少し濡れている。

そんなミューレィの様子を見ていたメルラーナは。


…あれ?…あれあれ?ミューレィさんひょっとしてサイファーさんの事…。

そっかー、ミューレィさんってばもう。


「…あ、…ニイトス様…。」

ふとニイトスの亡骸が眼に入るが、直ぐに反らした。


コッコッ。


其処で歩いて来ていたカルラが漸くメルラーナ達の傍を横切って行き、ニイトスの亡骸の傍まで来ると、地面に片膝を付いてニイトスに触れる。


「カルラさん!?危ない!まだ動くかも!?」

メルラーナが叫んで止めようとしたが、カルラの手はニイトスに触れ。


ビクンッ!


とニイトスの身体が跳ねる様に痙攣した。


「!?」


其の光景を見たメルラーナとサイファーは警戒心を最大限にまで上げる。


が、其の痙攣を最後に、ニイトスは一切動く事が無かった。


カルラは立ち上がると、ニイトスの身体から取ったのだろうか?大人の親指ほどのサイズの黒いガラスの結晶の様な物を手に持ち、頭上に掲げて見つめ始める。






ドクンッ!






メルラーナの胸の鼓動が急速に早まった。


「カ、カルラさん、…其れは、…何?…い、…石?…何かの破片?に見えるんだけど…?」

途轍もなく嫌な予感がした、其れがメルラーナ自身の本能から来る感覚なのか、体内に宿っているガウ=フォルネスが何かに反応したのか、其れとも4分の1とはいえ魔人の血が警戒しているのかは解らないが、何とも言い様の無い恐怖の様な感覚を覚える。

まるで悪鬼羅刹を目の当たりにしている様な感覚。


「ん?…ああ、メルラーナさんは見るのは初めてかい?」

そう言ってメルラーナの方へ振り向き、手に持っている物を此の場に居る全員に見えやすい様に親指と人差し指で挟み、自身の目の前に持って来る。


「此はね、君達が欠片のモンスター、若しくは霧の魔物と呼んでいる化け物を生み出している元凶となっている欠片だ。」




ドクン!




「………え?今…何て?」




ドクン!




「か…、欠片?欠片って言ったの?」




自分の耳を疑うメルラーナ。

「欠片…、確かにそう言いましたね。」

サイファーの一言がメルラーナの聞き違いでない事を証明してしまった。


「此の欠片を摂取する事によって脅威的な戦闘能力と再生能力を得る事が出来るんだ、まあ大抵は意識が飛んでしまって…、いや、欠片の意思に乗っ取られるって言った方が正しいか、兎に角、只暴走するだけの破壊者になってしまうんだがね。」

感情の無い表情で淡々と語り出すカルラ。


「か、欠片の意思?…ち、違う、そうじゃ無くて、カルラさんがどうしてそんなに欠片の事に詳しいの?」

モアムダンでカルラと再会した時に欠片のモンスターについて根掘り葉掘り聞かれた筈なのに、何故メルラーナより詳しいのか、実際にメルラーナ自身あまり詳しく無い欠片に対する事実を開示され、脳内の処理が追い付かずに其の場に膝を落とし、へたり込んでしまう。

旅を初めてから此処まで、メルラーナがこれ程あからさまな動揺を見せたのは初めての事であった、自身が魔人の混血と云う事実を突き付けられた時も、今ほどの動揺は無かった、其れはリシェラーゼと云う魔人の少女が側に居て、少しの間ではあったが共に過ごす日々を重ねる事で魔人と云う種に対する抵抗が薄れていたからだった、事前に知識として脳にすり込まれた情報があったからこそ衝撃ではあったものの、割とすんなりと受け入れる事が出来たのである。

それが今、メルラーナは混乱状態に陥ってしまった。


「欠片に付いて詳しい…か、残念だがメルラーナさん、欠片の事はまだ其れほど詳しくはないんだ、目に見えている範囲の事位しか実際には解ってはいない、欠片が生命にどれだけの影響を及ぼすのか?摂取以外で欠片を取り込む事は出来ないのか?ありとあらゆる方向性を鑑みた様々な実験は行われてはいるんだが、結果は散々なもんだ、摂取する分量の違いで変化する度合いが変わると云う事、一度摂取してしまえば二度と元には戻らないと云う事、知的生命体が摂取しても略100パーセント種としての意識が失われ暴走してしまうと云う事、摂取した者同士は争わないと云う事、摂取した生命体の八割以上に身体の一部が触手の様な形に変化する事、触手とは云ったが触手では無く尻尾の可能性が高いがね、現状体内に取り込む事以外で欠片の能力を活用する方法は無い…等、まあ今回の実験は摂取では無く傷口から体内へ侵食させてみたんだけど、余り有益な情報を得られなかったかな。」


《《今回の実験》》?


ザワッ。


サイファーの背筋に悪寒が走る。

「なあ、カルラさん。」

実験だって?じゃあつまり、…いや、そんな事、有り得ない、あっていい筈が無い、けど、確かめないと。


「ん?何だ?サイファー君?」

サイファーは口の中が乾いていくのを感じ、舌で口内を湿らせて唾を飲み込む。


「む、…村の皆が死んだのも、貴方の言う其の…、実験の結果の内に入っているのか?」


「「!?」」

サイファーの口から発せられた言葉は、混乱状態に陥っていたメルラーナの意識を一瞬取り戻させ、ミューレィの言葉を失わせる程の衝撃的な無い様だった。


「何だ、そんな事か。」

其のサイファーの言葉を何事も無かったかの様にサラッと一蹴する。


「そ、そんな事だって?」

サイファーは自身の身体に起きている悪寒から怒りの感情に変化するのを感じ取っていた。


「我々は実験の為にトムスラルと云う国にクーデターを引き起こした事もあるんだが、たかが20~30人程度の村人が全滅した事位一々気にしていられない。」


「ア、アンタは!」

サイファーは両手の拳を力いっぱい握る、握った拳から血が滲み出てきていた。

其のサイファーの怒りを余所に…。


………え?


「…カ………ルラ…さん?何の…?事…?」

混乱している脳内を何とか落ち着かせ様として簡単な言葉を絞り出す。

「其のまんまだよ、君の故郷であるトムスラル国で内戦を勃発させたんだ。」


「トムスラルで…、内戦?…ど、どうして、…何でそんな事を?」

気持ちが悪かった、吐きそうだった、頭の中がグチャグチャにされた気分だった、何?何故?どうして?そんな簡単が単語しか出て来なかった。

「どうして?言ったろ?実験をしていたって、後は君を、メルラーナを手に入れる為だ。」


「………は?私…?」

又訳の解らない事を口走った、何で私?私なんかを手に入れて何になるの?


「メルラーナを手に入れる為にソルアーノの街の地下水路にゴブリン共を大量に呼び寄せた、だがアルテミスのエアルに邪魔をされて失敗に終わったよ。」


「な!?」

あの時のゴブリン!?あの騒動でどれだけの死傷者が出たかは直ぐに街を去ってしまったメルラーナには解らないが…、其の原因がカルラであり、其のカルラが自分を狙って起こした事態だと云う事実を突然突き付けられた。


カルラは独り言を呟く様に自身が行って来た行為を淡々と語り始める。


「ミスリル鉱山でオーク一匹とトロルに欠片を喰わせ襲わせたのも、メルラーナを手に入れる為だ、けど君は自分の力で其れを退けた、アレには驚いたよ、其の後に邪魔が入ったな、あの銀髪の青年、見たのは初めてだが、白風(はくふう)の傭兵団に所属している《銀戦のアルフレイド》と呼ばれている有名人が居るが、恐らく彼がそうだろう、何故ラジアール大陸三大傭兵団の一角がシルスファーナ大陸の問題にしゃしゃり出て来たのかは解らないが、流石に面倒毎が起きたと焦ったよ、その後は何処へ消えたか解らなくなったから気にもしなくなったがね。」


「!?」

一瞬ではだったが、ハッキリと意識を取り戻した。


銀髪の?あの時のお兄さんだ…。


トクンッ、トクンッ。


少しだけ胸の奥が暖かくなる、そんなメルラーナの様子を見たカルラは。


「…チッ!やはり面倒臭い奴だったか…。」

聞こえない様に小声で呟く、気を取り直してメルラーナを追い込みに掛る。


「エバダフの冒険者ギルドの襲撃に紛れ込んでメルラーナを手に入れ様とした、思った以上に手強かったよ、君は、だから黙らせる為に君の胸を刺した、俺が此の手で…。」


「!?」

取り戻しかけた平静に追い打ちが掛けられる。


刺した?刺された?あの時、あの場所で、確かに私は刺された、けど、私を刺したのは長髪の髭を生やした男。


「幻術使いが居ただろう?ド三流の魔術師が。」


幻術!?見た目が変わっていた!?


「まあ俺も幻術は使えるけどな、其れもあの三流より遙かに高度な幻術をな。」


「聞いてもいない事をべらべらと、よく喋る人だな。」

サイファーが聞いて居られないと重いカルラの話を遮ろうとする。


「クーデターを起こす為に魔人の娘を武器商人に攫わせる様に仕向けたのも俺だ、但し其れはメルラーナとは関係無い実験の筈だったんだが、まさか自ら飛び込んで来るとは流石に予想していなかった。」


「!?…魔人の娘を…攫った!?其れって…リゼの事!?」

カルラに対して徐々に怒りが込み上げて来る。


「じゃ、じゃあ巨神さんに欠片を食べさせたのも…?」


「巨神?…ああ、巨神ローゼスに欠片を喰わせる様に仕向けたのはレシャーティンの計画の一つだな、あの巨体にも影響があるかどうかを確かめる為だった筈。」


「レシャーティン!?レシャーティンってテロリストの!?」


「テロリスト?違うね、レシャーティンは…、《《我々はテロリストじゃ無い》》。」


「われ…われ?我々?我々って?そ…んな、う…嘘、カルラ…さんが?…レシャーティン?」


「メルラーナさん!耳を貸すんじゃ無い!カルラさん!いや!カルラの!此奴の言葉は毒でしか無いよ!あの時助けるんじゃなかったって後悔してる!」

サイファーがメルラーナの耳に自身の声を上乗せさせて混乱から開放しようとするが、聞こえていない、実際にサイファーはもっと前からメルラーナに向かって叫んでいた、しかしカルラの語った内容が衝撃的過ぎて耳に入らなかったのだ。


「言っておくが俺は君に助けられたなんて微塵も思っていないが?自分で何とかなったからな、お前があの場所にいたのは只の偶然にしかすぎなかったんだ、ああ、其れと、カルラ=トネルティは偽名だよ、無論ソルアーノの学者と云うのも嘘だ。」

更に追い打ちを掛けるカルラ。

「っ!?」


ズクンッ!


メルラーナの胸に痛みが走る、思ってもいなかった処で疑問に思っていた事の殆どが今明かされた、其の事実は傷付いたままのメルラーナの心臓には文字通り毒でしか無かった。





「俺の名はゼノディス=ブロウバル、レシャーティン八鬼将が1人、暗殺者(アサシン)のゼノディスだ。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ