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クレイヴァネアス ~始まりは玉響な微睡みの中で~  作者: 沙霧 啓
終章・フェアリーテール
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83話 欠片の人間


メルラーナはニイトスを肩から下ろして其の場から離れる、サイファーの隣まで移動すると、離れた位置からニイトスを見た。

黒い霧は全身を覆っており、ニイトス自身の意識も大分虚ろになっている様だ。


「ニイトスさん…。」

もう手遅れなのだろうか?欠片を摂取してからどれ位の時間で侵食されるのだろうか?少なくとも砦に入って治療が必要と診断された時はそんな気配は全く無かったのだ、何時何処で摂取したのかは解らないが、もし摂取した直後であればまだ助けられるのではないのか?


「メルラーナさん、アレが何か知っているのですか?」

隣でニイトスを警戒しているサイファーがメルラーナに尋ねる。


「…はい、知っています、詳しく説明をしている場合では無いのと私自身がそんなに詳しく説明出来ないので割愛させて貰ってもいいですか?」

時間が惜しい…、メルラーナの言葉にはそんな意味が込められている様に感じたサイファーは。


「…助けられるのですか?」


「解りません、でも何もしないよりは…。」

助けれるものなら助けたい、そう言おうとした矢先、ニイトスの脚が変化を始まった。


「ガッ!アアアッ!!」


ソレにもうニイトスの意識は存在していなかった…。


ニイトスはメルラーナに向かって走り出す、歪に変化した脚が床を蹴ると異常な程の加速が付き、メルラーナとの間が瞬時に詰められた。


「!?」


ニイトスの左手がメルラーナの頭を捕えようとするのを上半身を後方に反らせて辛うじて躱す、しかしニイトスは止まらず、次は右手が迫って来た。


「ニイトスさん!?お願い!正気に戻って!!」

メルラーナのそんな言葉は聞こえる様子も無く、思いは卑情にも砕かれる。


再び迫って来るニイトスの手、、此以上反らす事の出来ない身体は其の手を躱す事が出来ない、只捕まえると云う行為では無い事は今までの経験から想像が付く、特に何かをされると云う事まで解っている訳では無いが、メルラーナは其の腕に危険なモノを感じ取り、咄嗟に迎撃をしていた。

突き出された右手の手首を身体が反っている状態から膝を落とし、右腕を一度左へ振ってエクスレットブレードの刃を出すと、左に振った右腕を右へと振り直す。


ザンッ!


エクスレットブレードは見事ニイトスの腕を捕えた、斬り落とした手首は先の尖った形態に変わりメルラーナの頬を掠め、一筋の赤い血が頬を流れる。


「メルラーナさん!?」


余りの早い攻防に一手遅れたサイファーがニイトスの横っ腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。


「何だアノ脚は!?其れに此の手!?」

サイファーの斬り落とされた手を見下ろす、斬り落とされた手首は未だに動いており、サイファーを狙って指が伸びてきた。


「くっ!?何なんだ此の体質は!?」

伸びてきた指を眼の前まで接近してきた時に、右手で掴んだ。

止めた、そう思われたが掴んだ位置から更に指は伸びてくる、咄嗟に掴んだ指を放して腕で払い退けた。


素手では不利だ!?何か武器になる物は…!?


手の攻撃に警戒しつつ大広間を見渡すと、装飾品だろうか、壁に槍が二本、クロスに重なって飾られていた、無いよりマシだと判断したサイファーは槍を取りに壁まで駆ける、其の背中を追うように床を這って迫る。


………えっと?此は一体何のホラー?


瞳に映った其の戦慄の映像に一瞬身体が硬直してしまったメルラーナ。


おかしい…、今まで切り離された部位が単体で動く事なんて無かったのに!?…違和感を感じる?此れまでとは何かが違う違和感、


ザワッ!


手首を見ていたメルラーナは背中に悪寒が走るのを感じた、振り返るとニイトスが元の姿が全く残っていない脚で突き出す様に蹴り入れて来る。

蹴りはメルラーナの腹部に直撃しそうになった着後、左腕の拳を立てた肘を脚の付け根まで降ろし、右腕のエクスレットブレードを交差させるように構える。


ガンッ!ズドンッ!


軌道を反らされた脚は石で出来た壁を粉々に破壊した、脚が壁まで伸びたのだ、更にニイトスの左腕が変化を始める…。


「…又!?…何で!?こんなの知らない!?」


傷付けた部位が変化して再生される事は知っているが、何もなっていない部位が変化するのは初めて見た。

此の変化が何を示しているのかは理解出来る筈もなかったが。


「…早く倒さないと手に追えなくなるような気がする。」


メルラーナの本能がそう訴え掛けている、もう助ける事は出来ない、時間を掛けずに仕留めなければ、心に誓い、速攻でニイトスを討伐する決心をした…。


…。


大広間を出て廊下に集まり、砦内での異変を報告する為に数人の騎士が其の場を離れて行く。


「メルラーナ様…、サイファー様…。」

ミューレィは心配そうに広間の扉を見つめていた。

騎士の1人がミューレィに避難するように訴え掛けるが、此の場を動きたくない様だ。


「…?………ミューレィさん済まない、少し外すよ。」


首だけ回してカルラを見たミューレィは、顎を引いて何も答えず又扉に視線を戻した。


「待たせたな…。」

カルラが誰も居ない廊下で誰かに喋り掛けると。


『其れで?君は一体何処で何をやっているんだ?』

カルラの脳内で男性とも女性とも思える抽象的な声で誰かが語り掛けて来る。


念話で誰かと交信しているのだ、念話は魔法の一種だが、魔力は誰の体内にでも存在しているので使おうと思えば誰でも使う事は出来る。


「今はディアレスドゥア公国とリースロート王国の国境の砦に居る。」

カルラは素直に事実を伝える、声の主に偽りを答えた処で嘘だと見抜かれるのが目に見えているからだ。


『…そうか、もうそんな所まで来ているのか、…此処までだな。』


「何?」

声の主の意味深な言葉に反応してしまうカルラ。


『此処までだ、此以上放置する事は出来ない。』


「ま!?待ってくれ!?」

異議を唱えようとするも。


『いいかい?もう終わりだ、戻って来なさい。』


「しかし!?」


『言い訳はよろしい。』

反論を一切許さない…、声の主はそんな圧をカルラに掛けて来る。


「…くっ!」


『いいね?速やかに帰還し賜え、我々は有能な人材を遊ばせて置く程の余裕は無いのだよ。』


「…分かり、…ました。」


『宜しい。』


一方的に要件だけを並べられて一方的に念話が切られた。

悔しそうに波を食いしばるカルラは、ミューレィ達の待つ廊下へと戻って行った。


…。


一方、大広間の中ではメルラーナとサイファーが欠片のモンスターなのかどうかも判断出来ない者との奮闘を続けていた。


戦っている内にメルラーナとサイファーは眼だけで連携を取れるまでになっていた、前日まで戦闘のせの字もしらない少年が一夜で急激な成長を見せている。


サイファーが正面から攻めると同時に、メルラーナは背中から挟み撃ちにしたり、左右に分かれて波状攻撃を加える。


メルラーナは違和感の正体が何か分かり初めていた。

今までは怪我をしたヶ所から姿を変えて再生されていたのに対し、ニイトスは傷からの再生が非常に遅く、代わりに何もなっていない部位を変質させる事が出来るのだ

何よりも、霧が薄い気がする、まるで最初に戦ったあの時のゴブリンのような…。

それともう一つ理解した事もあった、意識が無いと云う事、何故なら眼の前のニイトスだった者には、生命が感じられないのだ、命の灯火が、とっくに切れていた、あの時、最後にメルラーナを逃がそうとしてくれた言葉は、もう聞こえないのだ。


メルラーナはニイトスと正面から向き合う。


ニイトスがメルラーナに向かって来る。


「ゴメンなさい、ニイトスさん。」


メルラーナは向かって来るニイトスの懐に飛び込んだ。


メルラーナの動きを捕えられる程、ニイトスの動きは速く無くなっていた。


右手の拳をそっとニイトスの顎に当てる。


ニイトスの背中にはサイファーが回り込んでいる、背中から突けばメルラーナ共々刺し兼ねない、其の為に大きく飛び上がり、ニイトスを眼下に見下ろす状態に持って行く。


「「さようなら。」」


ドシュ!


エクスレットブレードの刃がニイトスの顎から脳天を貫き、サイファーの槍が脳天から胴体にかけて貫いた。


そして…。


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