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クレイヴァネアス ~始まりは玉響な微睡みの中で~  作者: 沙霧 啓
終章・フェアリーテール
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78話 ………さ、……いふぁ?




『…あああ、………はらがへった。』


は?


はらがへった?腹が減ったって言ったのか?


其れが最初に聞いた鬼の言葉だった、此の鬼が村人を全員喰ったのだとしたら、カレーパゴ村の人口は40人程度だが、其の全てが鬼の胃の中に収まっていると云う事だ、其の後で僕達を襲おうとした騎士達も喰っている上にまだ腹が減っていると云う。


「お、おかしくない!?」

メルラーナは素直な気持ちを率直に声に出す。


「…。」

そんな中、サイファーは1人不思議な感覚に捕らわれていた。



何だ?何処かで聞いた事のある声に聞こえた…けど?



鬼は大きな目玉を動かしてミューレィを見た。


「…ひっ!?」


恐怖からミューレィの全身に冷や汗が流れ、身体が硬直する。


『…お、…おいし…そ…う。』


「…!?不味い!?」


サイファーの脳裏に浮かんだ疑問を振り払い、ミューレィに向かって走り出す、鬼と大分距離が離れていたミューレィだったが、鬼が次に喰らう標的に選ばれた様だ、先程まで止まっていた筈の場所には既に其の姿は無く、一瞬でミューレィの眼と鼻の先まで来ていた。


「くっ!?早いっ!?」

あの人を庇うとしても、間にに立ち塞がるにしても間に合わない!だったら!!


「ミューレィ!?」

ギルバレア伯爵が娘の名前を叫び、誰もがミューレィが喰われる、そう思った時。


ドンッ!メキメキメキ!


鬼の右横っ面をサイファーの右脚から繰り出した飛び蹴りが見事に貫いた音だった。


「「「おおっ!!」」」


ギルバレア伯爵とニイトスを含む生き残った騎士達から歓声の声が上がる、しかし鬼の巨体は止まる事は無かった、僅かに失速したものの留まる事は無かった、どれだけ鍛え上げられた肉体を持っていたとしても数百メートルも離れた場所へ1秒足らずで移動する其の速度を止める事等は不可能と云うものである、頑丈な障害物に衝突すれば止まる事はあるがそんなモノは無い、一切の被害を出さずに止める事が出来る人物は居るには居るが今現在此の場に居る訳では無いので例外でしかない、自身単独で踏みとどまった位で止められはしない速度で動いていた巨体を横から蹴り飛ばした程度で止まる事は無く、鬼の巨体はバランスを崩して地面に突っ伏して数件の家を破壊しながら転がって行き、(やが)て失速して止まる。


歓喜の声が一瞬にして静まり返ってしまった。


しかしミューレィが居た場所には誰も居らず、鬼の左側の少し離れた場所でメルラーナに抱きかかえられる傷一つ負っていないミューレィの無事な姿が在った。


「「「おおおおおっ!!」」」

再び歓喜の声が湧き上がった。


「メルラーナ様?」

ミューレィは瞳を大きく見開いて頬を赤らめさせている、メルラーナは見つめられている事に気付かずミューレィの身体を見回して。


「…うん、怪我は無さそうですね?良かった、何処か痛い所はありますか?」

「え?…いえ、大丈夫です、何処も痛い所は在りません。」

云われてから自身の身体の様子を確認した、強いて云うならメルラーナがあの場所から抱きかかえられた時に少し痛かった位だったが、そんな些細な事はミューレィの頭の中ではどうでもいい事となっていた。


「メルラーナ様、…あ、有り難うございます。」


「お礼なら後でサイファーさんに言ってあげて下さい、彼があの蹴りを喰らわせてくれていなかったら正直どうなっていた事か…。」

メルラーナは鬼の動きを止めると云う事が頭に無く、ミューレィをあの場から離れさせなければ…と云う考えで動いたのだ、実際にサイファーの一撃がクリーンヒットしていなかったらミューレィを助け出す事は出来なかっただろう、逆にメルラーナがミューレィを抱えて其の場を離れなければ此も又助け出す事が出来なかった、2人が別々の行動を起こしたお陰で救出する事が出来たのである。


「え?…あ、はい。」

ミューレィはメルラーナに抱きかかえられていた身体を下ろして貰い乍らサイファーを見つめていた。


「処でミューレィさん?」


「うひゃい!?」

変な声が出た。


「…?」


「な、なんでしょうか!?」


「…えっと、カルラさんがさっきアレを鬼って云ってたけど、鬼って何か知ってますか?私そういう事に疎くて。」


破壊された家の瓦礫がガラガラと音を立てて、鬼が立ち上がる。


『…お、…おまえ、…じゃま。』


其の姿を見たミューレィは背筋に悪寒が走る、自身の知りうる鬼と云う存在の記憶を手繰り。


「鬼…ですか、私も本で読んだ程度しか知りませんけれど、多分アレは鬼では無いかと思われます。」


「…え?」

ミューレィの口から思いがけない言葉が零れる。


「鬼とは人が恐れる存在の事をそう呼ぶんです、ゴブリンの事を子鬼と呼ぶのが其れです、少なくとも私の知りうる限りでは鬼と呼ばれる種は恐らく存在しません。」

ミューレィの言葉に少し驚く、カルラはあの人型のモンスターを鬼と呼び、ミューレィは鬼等存在しないと云う、しかし鬼は存在しないが鬼と呼ばれるモンスター達は居る、其れがゴブリンやオーク、オーガやトロルと云ったモンスターの事を指すとか…。


「え…えっと?」

戦闘が継続中であるにも関わらず、理解不能過ぎて思わず小首を傾げてしまった、幸いにも鬼と呼ばれたあのモンスターは未だにジッとしている、腹が減ったと言ったからエネルギー切れでも起こしているのだろうか。

メルラーナは鬼が何時動いてもいいようにミューレィを何時でも逃がせられるように身構える


と云うかミューレィさんて貴族の御令嬢じゃなかったっけ?本で読んだとは言ってたけど何でそんなに色々と知ってるの?


「例えばメルラーナ様の御父上、ジルラード様が闘神と呼ばれておられるのは御存知でしょうか?」


「え?…あ、うん、何となく?」

テッドからそんな話を少し聞いた様な気がする。


「闘神とは五大英霊と呼ばれる英雄の1人に与えられる称号の一つです、其の中の一つに、【鬼神】と呼ばれている方がいらっしゃいます、名は確か…、リークス=ジースザーン様、リークス様は《《鬼の様にお強い》》事から其の称号を付けられたとお聞きしています、リークス様は五大英霊の中でも最強と謳われておられる方、ならばそんな御方の称号に喩えたれた《鬼》とはリークス様よりお強いのでしょうか?…そうは思えません、あくまで喩え…と云う事なのだと思います、少なくとも私は…。」


「喩え…、そ…そんな、じゃあアレは!?」


「解りません、新種のモンスターなのかも、身体の大きさから最初は巨人と思いましたけれど、巨人の胃袋の構造は人の其れと同じだと聞いています、だから、此の村の人達全員を…。」

ミューレィは言葉を詰まらせる、口に出す事事態に拒否反応を起こしているのだ、しかし勇気を振り絞って言葉を綴る。


「此の村に居た人達全員を食べたのだとしたら、あの大きな身体の中に有る胃袋でも入りきる筈が無いんです、だから、少なくとも巨人では無いです、トロルも大食漢である事は有名ですが、同じ理由で違うでしょう、亜人間の一種だとは思いますけれど、あれだけの量を口にして喩え胃の中で消化したとしても其の質量は一体何処へ消えたのか…。」

少しでもメルラーナの手助けになればと思い、詰め込んできた知識をフル稼働させて可能性を絞り出す。


「…えっと、しつりょうって何?」

メルラーナには何を言っているのかさっぱりだった。


「ミューレィさんって、少しテッドに似てるかも?」


「え?テッド…様、ですか?」



そんな話をしている間にも鬼は瓦礫に埋もれていた脚を一歩前に出した、地面に足がめり込み、鬼の姿が突然消える。


「消え…!?…え!?」


消えたと思った鬼がサイファーの目の前に現われた。


「最初の時より早い!?いや!?早いなんてもんじゃ…!?」


ドッ!!


考える間も無くサイファーは鬼の右手から繰り出される一撃を受ける。


ミシミシ!


「ぐっ…っ!?」


まるで鬼の速度のギア一段階分上がった様な感覚に襲われる、攻撃を受けたサイファーは勿論だが,警戒していたメルラーナも衝撃を受けていた。


「ど!どう云う事!?さっきまでは全力じゃなかって云う事!?」

驚きを隠せないメルラーナ、本人は強敵との連戦を重ねた経験から相手の強さをある程度は感覚で計れる様になっていた、しかし鬼の強さは計り知れなかったのだ。


『…お、…おま、…おま…え、…じゃ…じゃま、…じゃま?』


サイファーの顔を間近で見た鬼が首を傾げる。




『………さ、……いふぁ?』





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