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クレイヴァネアス ~始まりは玉響な微睡みの中で~  作者: 沙霧 啓
終章・フェアリーテール
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77話 鬼と呼ばれた子




少年、サイファーが何の事を言っているのか気になったが、其の言葉の意味を聞いている暇は無かった。


パキッ!ミシミシミシ!


メルラーナとサイファーの耳に、氷が割れ始める音が聞こえる鬼を凍らせた塊の表面に(ヒビ)が入った音が聞こえる。


「割られる?やっぱり普通の氷じゃ抑えきれないか。」


何となく感じ取っていた感覚、カルラさんは『鬼』って呼んでた、『鬼』が何なのか解らないけど、今氷を割ろうとしている此の化け物は今まで私が戦ってきたモンスターの中で間違いなく一番強いって事だけははっきりしている、まあ巨神さんは1人で戦った訳じゃ無いから別だけど。


「さてどうしようかな?まさか1分も持たないとは思わなかったんだよね?」


そんな事を言ってる割には全然焦っている様に見えないですけど?と云うか此の状況で何故そんな緊張感の無い台詞が出てくるんだろう?ジルラードさんの様な人を父親に持つと感覚が痲痺するのだろうか?


氷は完全に砕け散り、鬼は一瞬でも凍らされた事に対して、まるで何事も無かったかの様に活動を再開する、のっそりと首を回して標的の居場所を探し、サイファーの姿を捕えたのと同時に、瞬時にサイファーの目の前まで飛んでくる。


さっきと同じか!?只の突進なら!


サイファーは先程と同様に、鬼を飛び越える様に空に向かって飛ぼうとした、…が。


ガシッ!


「いっ…ぐっ!?」


先程のサイファーの動きが見えていたのか、鬼は飛び上がったサイファーの右脚を左手で掴み取ると、そのままサイファーをまるで棒を振り下ろすかの様に地面に叩き付ける。


「ガハッ!?」


「サイファーさん!?」


メルラーナはサイファーを掴んでいる鬼の手を狙って左腕のエクスレットブレードに付いている機能の一つのフックショットを放つ、放たれた爪は見事に鬼の手首に突き刺さり、ワイヤーを巻き取るとメルラーナの身体は鬼に向かって引っ張られた。

メルラーナは引っ張られると同時に右手のエクスレットブレードの刃を出して鬼の腕を叩き切ろうと試みた。


バッ!


腕に痛みが走ったからなのか、メルラーナの動きを見たからなのかは解らないが、鬼はサイファーの脚を躊躇する事無く手放してフックショットの爪を右手で引っこ抜き、メルラーナの身体毎ワイヤーを力一杯引いた。


「ええ!?」


メルラーナの身体は宙に舞い、鬼の居る方へ吸い寄せられる様に引っ張られる。

身体が地面から離れている為に踏ん張る事も出来ずに成されるがままに鬼に近付いて行く、鬼はメルラーナを待ち構えるが如く左手で握り拳を作っていた、殴り倒す気満々である、必死にもがいて抵抗しようとするも何も出来ず、鬼の目と鼻の先まで来ると。


ゴッ!!


鬼の拳はメルラーナの顔面に直撃した、激しい痛みが走ると同時に身体が来た空より更に上空を、弧を描いて吹っ飛ばされ、受け身を取る事も出来ず地面に叩き付けられると、そのまま身体が地面を跳ねながら転がり、破壊された家の中に突っ込んで行った。


「メルラーナ様!?」

ミューレィの叫ぶ声が微かに聞こえるが。


「ゲホッ!ゴホッ!」


顔面の激しい痛みに加え、全身にも痛みが走り咳き込んでいて何を言っているか解らない。


メルラーナの事が気にはなったものの、先程の行動で鬼に出来た隙を見逃す訳には行かないと、サイファーは鬼の顔の側面に全力の蹴りを入れる。


ドガッ!!


直撃した顔は少しだけ右に向き、頬に入った蹴りで多少は歪んでいるものの、あまりダメージは無い様に見える。


「くっ!効いてない!!」

サイファーは生まれながらにして体力があった、だから何となく自己流で鍛え上げたりもした、個人的には長物の武器が扱い安く、短めの武器は苦手だった、剣やナイフ、斧等の武器を使う位なら体術で殴り飛ばした方が遙かにマシだった、今の蹴りも自信があった、サイファーは今の蹴りならば鬼の出現前まで偉そうに吠えてた騎士達なら一撃で仕留めれる程には…、しかし鬼には通用しなかった、いや、通用しなかった理由なら解る、躊躇したからだ、村人達が嫌いでは無かった、むしろ好きだったかも知れない、孤独だった自分を見捨てる事も出来た筈なのに見守ってくれたから、友人が好きだった、放っておいてくれればよかったのに無視してもずっと構い続けてくれたから、だから村の皆を、友人を喰った此の化け物に対して怒りが込み上げて来る、込み上げて来ている筈なのに…、カルラと云う名の学者が言った言葉が脳裏にこびり付いて離れない。


【鬼】。


アレが鬼だとしたら、鬼があんな化け物だったとしたら。


サイファーは捨て子だった、本人が其の事に気付いたのは物心付いた頃、当時は今の村では無く街に住んでいた、ある日、夜遅くまで友達と遊んでいたサイファーは友達共々ある事件に巻き込まれる、其の街では夜な夜な子供が神隠しに遭うと云う事件が起きていた、消えてしまった子供は発見する事が出来ず、捜索を打ち切られてしまう事も多々あった、人員が足りなかった事が原因だったのだが被害者が多すぎる事とクトリヤ国とのイザコザの方に力を入れている事が人手不足の理由だった、其の為か、此の国では犯罪が絶えない、神隠しも人攫いが関与している考える人達が殆で、実際にサイファーと其の友達は人攫いに合っていたのだ、だが其処で、人攫いにとっても予想外の事態が発生する、遊んでいたサイファー達の前に現われた見知らぬ大人達に抵抗空しく連れ去られ、何処かの大きな建物の中にある牢屋の様な部屋に放り込まれた。

寂しさや恐怖から泣きじゃくるサイファーと友達、更には他にも似た境遇の子供達が其処には大勢居た、攫われてから何日か経った頃、1人の大人が牢屋の中に入って来て、友達の腕を掴み連れ出そうとした、嫌がる友達の姿が眼に焼き付いた時。


其れは現われた。


サイファーは只、友達を助けたかっただけなのだ、だが其の願いは違う形で実行される、人の命を奪う、と云う形で…。


其れの力は圧倒的だった、人としての身体能力を遙かに超越していた、友達の腕を引っ張っていた大人の腕は、根元から引き千切られた、其れの手の中には大人の千切れた腕が残っていた、激しい痛みに涙を流し乍ら逃げようとする大人の後頭部を足で踏み、堅い岩で出来た地面に叩き付け、そのまま潰した、まるで柔らかい球形の果物が踏み潰された様に中身が一面に飛び散った。

其れは容赦しなかった、騒ぎを聞きつけて牢屋までやってきた大人達を次々と殴り殺して行った、そして最後に殺した大人が口走った。


「ひっ!?…お!?お前!?鬼の子か!?」


グシャ。


…おに?ぼくが?おにのこ?


それ以来、両親は僕を連れてカレーパゴの村に引っ越した。


【鬼】。


だとしたら、《《僕はアノ化け物と同じだと云う事か》》?


カルラはアレを鬼と呼んだ、ゴブリン等の事を鬼と呼んだりするが、其れは喩えとして名付けられた鬼であって本当の鬼では無いと云う。


だとしたら僕が小さい頃に呼ばれた鬼はカルラさんの云う処の冠詞と云う意味の鬼なのだろうか?僕は一体何なのだろう?


其れを答えてくれる人は此処には居ない。


鬼は激しい攻撃を一定時間繰り出し続けた後、突然其の動きを止めた。


「?」

メルラーナとサイファーは不可思議なモノを見る様に鬼を見つめる、鬼はジッとしたまま動こうとする気配が無い。


「えっと、何をしてるのかな?」

「さあ、何をしているんでしょうね?」


『う…うあ…、…ああ。』


「「!?」」

「鳴いた!?喋れるの!?」

出現を確認してからずっと一言も声を出さなかった、だから口はあっても発声器官が無いものだと思い込んでしまった。


『…あああ、………はらがへった…。』


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