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クレイヴァネアス ~始まりは玉響な微睡みの中で~  作者: 沙霧 啓
終章・フェアリーテール
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73話 貴族


「其処の2人!動くな!」


騎士の鎧を身に纏い、完全武装をした者達が十数名、サイファーと白衣の青年、カルラを囲む様な陣形を取り、隊長と思わしき人物がそう叫んだ。


動くなって言われても、一歩たりとも動いてないんだけどな、これって決まり文句なのかな?


明らかに自分達の身が危険に晒されようとしている此の時に、サイファーはそんな事を考えていた、とは云え、実際に動いていないので動くなと言われても止まりようが無いのも又事実なのである。


「お前達は何者だ!こんな所で何をしている!?」


「…はぁ。」

サイファーは大きな溜息を大げさに付く。


「貴様!?何だ其の態度は!?」

あからさまに人を馬鹿にした様な態度を取ったサイファーに牙を向ける。

そんな騎士の怒りを余所にカルラは名前も知らない少年の横顔を見つめていた。


…此の少年、貴族が嫌いなのか?何か理由がある様だが、そんな挑発するかの様な態度を取っていたら命が幾つあっても足らない気がするが?


「しかしまあ、騎士って云う者達は行動も選別する言葉も国が変わろうとも一緒なのだな。」

カルラが呆れた様子で少年を援護し、騎士達の感情を逆撫でする様な言葉を綴る。


「口だけは偉く達者のようだが其の服装、君は学者かな?」

騎士達とは違う場所から大人びた男性の声が聞こえて来た。

「?」

墜落した飛行艇がある場所から40代位の正装を着た男性が此方に向かって歩いて来る、どうやら近くに潜んでいた様だ、カルラ達を見定めていたのだろう。


如何にもと云う感じの服装と成りだな、少年は此処がギルバレア伯爵領と言っていたが。


「其方の少年は我が国の民であるな?では其処の学者が其処で鉄の塊となっている飛行艇に乗っていた乗組員と云う事でいいのかね?」


少年は鋭い眼光で男性を睨み付けている。

睨まれている事に気付いた男性は目線をカルラから少年に切り替えると同時に、騎士の数名が。


「小僧!?貴様!何を睨んでいる!此の御方を何方と心得ているのか!?」

少年の眼光を敵意と判断し、持っていた槍を構えて少年に突き付けて来た。


「待ち賜え。」

男性は騎士達に控える様に促すと。


「何かな少年?何処かで会った事があったかね?私には記憶に無いのだが。」


「でしょうね、一度も会った事などありませんから。」

少年の発する言葉には怒りにも似た感情が籠っていた。


「では何故私を睨むのかね?会った事も無い人間に恨まれる筋合いは無いと思うのだが?」


「…筋合い…ですか。」

だから少年よ、そんなあからさまな態度を取っていたら命が幾つあっても足りないぞ?面白そうだから少し此のやり取りを見届けてみたい処ではあるが。


「少年、すまないが話に割って入らせて貰うよ、俺はソルアーノ国で学者として仕事をしているカルラ=トネルティと云う者ですが、貴方は何処の誰で何故此の少年と俺が騎士達に囲まれる事態となっているのか説明を求めたいのですが?」

カルラは此のまま少年と男性の話を広がれば後に引けなくなる状態に陥ってしまう予感がしたので強制的に話を切り替える事を試みる。


「ほう?ソルアーノの学者殿とな?ひょっとしてあの飛行艇に乗っていたのは学者殿なのかな?」

やれやれ、質問を質問で返してくるか、話が進まないし面倒臭いな。


「確かに乗っていましたが、質問の答えを貰っていませんよ?」


「き!?貴様!?」

カルラの反論に先に反応したのは騎士隊長だった。


…騎士の態度、此の男、かなり位が高いとみえる。

「騎士隊長、よい。」

男性は右手を挙げて騎士隊長を征する。

「残念だが学者殿、其の方の質問を答える義務は私には無いのだよ。」


「………成程、俺がクトリヤ国の飛行艇に乗っていたと云うだけで学者かどうかも怪しい男には何も答える気が無い、と云う事ですね?」


「!?」

カルラの言葉に男性の表情が変わる。


「敵国の軍用機に乗っている人間に安易に答え宇事が出来ない、情報漏洩を防ぐ為か…、少年と俺の言動に対する騎士達の反応から考えるに、ギルバレア伯爵とお見受けしますが?」


「な!?」


「驚いた、何を根拠に其処まで推理出来たのかね?」

男性の言葉に予測から確定に変わるのを確信し、口の端をつり上げてニヤリと微笑む。

抑もカルラは推理等一切していない、カルラは自身が思った事を素直に口に出しただけである、そして其れは相手が驚いた事で事実と成ったのだ、簡易的な誘導尋問である、カルラには此の男がギルバレア伯爵其の人であると確信していた。

カルラは其の道のプロでは無いが誘導尋問を行う時は必ず自分の身と成りをある程度開示する、此は詐欺師が良く使う技術に『嘘を語る時は嘘の中に少しだけ真実を混ぜて語る』と云うモノがある、そうする事で相手の脳内を嘘が事実の様に植え付けるのだ。

今回の場合だと此処がギルバレア伯爵領である事に当たりを付けて虚偽を並べただけである。

カルラが何故此の様な技術を身に付けているのかは追々語る事になるので今は置いておこう。


「其れは御自身がギルバレア伯爵であると認めると云う事で宜しいですかね?」

カルラは更に質問に対する質問返す事で確信から確定に変えようとした、繰り広げられる質問返しに先に変化を付けようとしたのはギルバレア伯爵と目される男の方であった。

「質問を質問で返さないで頂けるかな?」


どの口で言っているんだか…。

サイファーが素直に感じた感想である。


「最初に言った筈です、俺はソルアーノ国の学者、其方の勝手な想像と物差しで此方を測らないで欲しいものですね。」


「ふむ、カルラと云ったかな?君の言いたい事は理解出来なくもないが、此処はディアレスドゥア公国・ギルバレア伯爵領である、例え君がソルアーノの学者だとしても敵国に当たるクトリヤ国の飛行艇に乗っていたと云う事実は君がクトリヤの密偵では無いと云う理由にはなるまいよ、私から話を聞きたければ君の存在自信の信用を認めさせる事だ。」


相も変わらず頭の固い人種だな、貴族って云うのは…、いつまで経っても結論を出さない、いや、話を自分が優位に立てる内容でなければ話を纏めようとすらしない、虚偽で身を固め、冤罪を作り出して罪を被せる、今僕の目の前に居る男は正に其者だ。


「閣下、其の学者の言葉、強ち嘘では無いかも知れませんぞ?」


伯爵と目される男が現われた場所から、別の若い長身の男が姿を見せた。

其の後ろから2人の騎士が付いて来る、2人の騎士はカルラ達を囲んでいる騎士とは鎧が異なっていた。


此の男も貴族か…?

正装を着こなし、佇まい、雰囲気からそう読み取ったカルラ。

次から次へと面倒臭いな。


「ほう?其れは何故ですか?」

伯爵が現われた男に尋ねる。


「飛行艇の中で操縦士が息絶えておりました、騎士や貴族といった身なりでは無く、技術者の様な格好をしていましたよ。」


「!?」

カルラは表情を少し変えた。

カルラ達がバルデンウィッシュの砦を脱出する際に、マオに乗せて貰った飛行艇で出航させようとしたが、操縦士が居なかった為に断念しようとしていた。

其の時にカルラ達に声を掛けて来たのが飛行艇技師の男であった。


『俺が操縦するので此の船に乗せてくれないか?』


飛行艇が借り物である事を了承して貰った上でカルラ達は其の技術者に操縦を任せる事となったのだ。

しかし脱出の際にディアレスドゥア公国の軍用飛行船に発見され、追撃を受ける事となり、撃墜されて今に至る。


「確か本日、クトリヤ国の国境バルデンウィッシュを攻め落とす計画があった筈、恐らくですが其処から飛行艇を奪い逃げて来たと云う解釈を私はしてみましたが、如何かと思われますか?閣下。」


「ふむ、確かに其の作戦は聞いております、しかしバルデンウィッシュから此処までかなり距離がありますが?其れに飛行艇を奪ったとなれば放置するには些か不安要素が多い気がしますな…。」


「其れはそうですね、では捕えて尋問…は人権侵害だと騒がれそうですな、本人がソルアーノの学者と云うならば…。」


若い男が姿を現して早々、閣下と呼んだ男とコソコソと密談を始める。

其の様子を見ていたカルラとサイファーは…。


「「面倒臭いな…ホント。」」


と小声で溢したのがハモってしまい、互いに顔を向き合わせる。


「「プッ。」」


思わず吹き出してしまった。


「貴様等、巫山戯ているのか!?」

おっと、俺達は今武器を突き付けられているんだった。


「処で恩人君、先程あの男に名前を明かしたが、俺はカルラだ君は?」


「恩人と言われる程は何もしていませんよ、僕はサイファーです、サイファー=ロドゥキルト。」


「ふむ、恩人云々は取り敢えず置いてくとして、ではサイファー君、今の状況、君ならどう見る?」


「…まあ、最悪ですね、最初に出て来た男は貴方の予想通り、ギルバレア伯爵と思います、後から出て来た男の後に付いて来た騎士、鎧の胸に刻まれている紋章に見覚えがあります、記憶に間違いが無ければキーマロア公爵家の紋章です。」


「…公爵家?公国で寄りにもよって公爵と来たか、つまり其処の若い男は此の国の頂点の一角を担う一族って訳か…。」


公国とは公爵が国を纏める王としての役割を持った国の事である、国によって公爵の人数は違うが、此処ディアレスドゥア公国には5つの公爵家があり、其々が其々の領地と周辺の領地を纏める事で、一つの国として成り立っている、つまりディアレスドゥア公国には5人の王が居る、と云う解釈を持って貰えば解りやすいかもしれない。

地位や権力を掲げ、派閥を生み出す元凶とも云える貴族の頂点の一つが今、カルラ達の目の前に現われたのだ。


「…いや、もう、…本当に面倒臭い。」


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