33話 現状報告
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失った筈の意識の中で、誰か、男の人の声が聞こえる、様な気がする。
「床一面に広がったあの大量の血が本当に此の少女のものだったとしたら、此れは重度の貧血で間違いないだろう、輸血をしなければ。」
「しかし輸血用の血液など医師にしか手に入れる事は出来ないぞ?血液にも種類があるし、…魔法で血液を作れないのか?」
「少量であれば作れます、但しそれは本人が自身の体内で血液を作り出して補うまでの一時的な処置になります、魔力で作った血液は時間が経つにつれ薄まって行き、最後には消滅します、完全な血液を作れるとしたら其れはアルケミストの専門領域になりますね、素人が手を出せばどうなるか、想像出来かねますよ、下手をすれば命に係わるかと。」
そんな誰かの言葉を聞き乍ら、再び意識が遠のいて行った。
あの襲撃事件から早4日が経とうとしていた、其の日の早朝に漸く目を覚ましたメルラーナは、現実を突き付けられていた。
ま、また気絶してしまっていたのか、と思い乍ら項垂れている。
何か、旅をし始めてからよく意識を失っている様な気がする、大丈夫なのか?私?
「う…ん、め、るら、な。」
「?」
近くでまるで寝言の様な声が聞こえる、見るとベッドの傍でリゼが眠っていた、ずっと傍に居てくれたのか、リゼにも大分心配させてしまったな、リゼの頭を優しく撫でる。
其の時、部屋に入って来た女性がメルラーナが目覚めている事に気付くと、直ぐに部屋を出て行き、少しして医師と思われる男性が入ってきた、お医者さんはリゼが寝ているのを見て起こさない様に静かにメルラーナに話し掛けて来る、今回の倒れた原因は出血多量との事だった、体内の血液が一定量外に排出されると様々さ体調不良を起こすそうだ、お医者さんには「後数刻、処置が遅れていたら間違いなく死んでいたよ。」と言われた、血液を作り出すのは専門の魔術師でないと無理らしく、そう云う魔術師は基本的に冒険者ギルドには所属していないのだそうな、なので専門外の魔術師さん達が力を合わせて魔力による疑似血液を生成して体内に注入したらしい、魔力で作られた血液は時間が経つと消えて行ってしまうので其の間に医師の元へ連れて行き、適切な処置をして貰って一命を取り止めたと云う。
気を失っただけでなく色々な人達に迷惑を懸けてしまった、後でちゃんとお礼をしておかないと。
因みに私が気絶している間に大分状況が変わったそうだ、まずは冒険者ギルド本部が襲撃された後、動ける人員が直ぐに件のテントへ乗り込む算段を立てたのだが、テントの建てられていた場所は既に蛻の殻、と云うか、テント毎跡形もなく消えていたらしい、何時の間にか現れた時と同様に何時の間にか消えた…か、怪しさ満載だなぁ。
テントの行方と其の組織と件の偉い人の調査は継続中との事、此れ等は私が係わる冪案件では無いだろう。
次に捕らえた男、シラズだが、両腕が失ったものの命に別状は無いみたい、腕に張り付いていた氷が止血していた事が命を救った様だ、更に其の氷は未だに溶けていないらしい、其れ所かどんな事をしても解けなかったと云う。
簡単に砕けたのに溶かす事が出来ないと云う事だろうか?いや、何となくだけど解る気がする、私が溶ける様に願っていなかったからだ、うーん、何だかフォルちゃんの事がますます解らなくなってしまった。
残念乍らシラズからは何の情報も得る事は出来ないまま、自害したらしい。
一方で、逃走した男の行方も解らないままと云う、つまりは何の進展も無いと云う事だ。
只一つ、気になった事が有ると云う、捉えたシラズの実力を計ってみた所、どうやらさほど強くは無さそうだと判断されたらしい、実力とか計れるモノなのだろうか?とか、色々突っ込みたい所は有ったが、其処は飲み込む事にして。
どう云う事かと云うと、部屋の護衛に付いていた3人の冒険者は7次席の実力者達で、例え不意を付いたとは云え、シラズの実力如きでは一瞬で3人を絶命させる事等出来る筈が無い、と云う事だった。
「はあ。」とメルラーナは言っている意味が理解出来ずに、間の抜けた返事をすると。
つまり、7次席を3人も殺した者は、逃走したもう一人の男の方かも知れない。
もう一つ、リゼの父親が迎えに来る、と云う話だったが、今の所まだ来ていない様だ、正直、リゼが攫われてどれ位の時が経過したのか解らないけど、少なくとも4~5日は経っている筈なのにまだ迎えに来ないのは何か理由があるのだろうか?今の所、依頼内容に変更は無いとの事だ。
最後に常闇の森に向かうメンバーだが、既に8次席が20人程集まっていて、何時でも向かえる状態に成ってはいる様なのだが、私が気を失っていたので動く事が出来なかった、との事、ううう、本当に申し訳ないです。
と思っていたのだが、行く場所の危険性が異常に高いので万全の体勢を整える為、私が動けない間に国内の他の街や国外の冒険者も募っておいたらしい、其のメンバーが後数日で到着する予定になっている様だ、なのでそんなに気にする必要な無いと言われた、彼等が来るまでの間にもまだ都市内からも集まるだろうとの事、何か、私はとてつもなく凄い事に首を突っ込んだのではないだろうか?
兎に角、今はリゼを親元へ返す事が重要だと思う、リースロートへ向かうのは少し先に成りそうだ、まあ何方にせよ今は都市から出る事が出来ないからいいんだけどね。
リゼが目を覚まし、手で目を擦り乍ら眠気眼でメルラーナを見つめる。
「………めるらーな?」
私の名前を呼んだと同時に、其の頬を涙が伝う。
「リゼ、…おはよう、…有難う、傍に居てくれて。」
心配してくれるリゼを見てると何だかとても愛おしく思い、優しく微笑み抱き締める。
暫く抱擁していると、ぐ~、とお腹の虫が鳴いた、2人は顔を合わせ。
「「ぷっ!あははははっ!」」
お互い笑いあった後。
「わたしもおなかすいたの。」
「じゃあご飯食べに行こうか。」
「うん!」
重たい身体に鞭を打ち、部屋から出て一階へ向かう、まだ足が覚束ないが転げ落ちる事が無い様に階段をリゼと共に降りて行く、一階に辿り着くと冒険者達で賑わっていた。
2人の目的は朝食を取る事であった為、1階を通り過ぎて地下へと降りて行った。
まだ目を覚ましたばかりなので少量で軽めのものを注文する、少しでもお腹に何かを入れて鋭気を養わないと、配膳されてきた料理を無理矢理胃の中に放り込み、飲み物と一緒に流し込む。
「めるらーな!おそといきたい!」
食事の後、リゼが唐突にそんな事を言い出す。
「え?外に出たいの?」
聞けば此処に保護されてから一度も外に出ていないと云う、4日間も籠りっ放しだったのか、それは流石に辛いかも、空に興味を持っていたし、…うーん、あんな事があった後だし出して貰えるのだろうか?聞いてみるか。
地下の食堂を出て階段を上り1階に辿り着く、其処は相も変わらず冒険者達で騒々しかった、降りて来た時はお腹が空いていて気にも留めていなかったが、此れまで見て来た冒険者達とは何か雰囲気が違う人達が1階のホールにちらほらと目に映る、一人で座って居たり、3人でテーブルの椅子に腰を掛けて雑談していたり、そう云う人達が複数人居た。
何だろう?と思い、ギルドに訪れた時に話を聞いてくれた受付の女性(名前はエリンさんと云うらしい)がカウンターの向こうに居たので尋ねてみる。
「エリンさんお早う御座います。」
「えりん、おはよー。」
2人は仕事の邪魔に成らない様に朝の挨拶をする。
「はい、お早う御座います、メルラーナちゃん、リゼちゃん。」
其の挨拶に笑顔で対応するエリン。
「あの?あそこに居る人達は誰なんですか?」
「ん?誰の事かな?」
エリンはメルラーナの視線の先に居る冒険者達を見る。
「散らばっているんですけど、あの人達です、下にも何人か居た様だし、何か、マスターさんやガノフォーレさんに雰囲気が似てる様な?」
メルラーナはエリンに見つけやすくする様に指を指した。
「ああ、彼等ね?…え?メルラーナちゃん、彼等の雰囲気とか解るの?」
エリンはメルラーナの質問に答えようとしたのだが、発言が気に成り質問を返してしまった。
「え?あ、いや、何となくですよ?何となく。」
エリンは瞳を大きく見開き驚いている。あれ?何か拙い事を尋ねたのだろうか?
「メルラーナちゃん、冒険者の登録はしてないんだっけ?良い機会だからしてみればどうかしら?貴女ならきっと凄い冒険者に成れると思うのだけれど。」
冒険者稼業を進められてしまった。
「御免なさい、お父さんに冒険者には為るなと良く言われてたので…。」
丁重に断っておいた。
「そっか。」
しょんぼりするエリン。
「あの人達の事ね、あそこのテーブルで雑談している3人はね、筒状の銃を背負っている人がスナイパーのパイラ、ローブを纏って腰に短めの杖を差している人がウォーロックのサレイル、椅子の隣に1メートル位有る大きな盾を置いている傍で座っている人がディフェンダーのゾルト、あっちの壁に凭れているのがアレルタのベノバ、それにあっちは………。」
エリンは淡々と呪文の様にクラスと名前を教えてくれたが、半分以上頭に入らなかった。リゼに至っては何の事かすら解っていない様子だった。
「今此処に居るメンバーは以上、貴女が彼等に何を感じたかは私には解らないけど、今紹介した人達は全員、常闇の森の依頼を受けて集まった人達よ。」
「え?じゃあ。」
驚いた表情をしたメルラーナを見てエリンはクスリと微笑む。
「そう、彼等がエバダフの誇る8次席の冒険者達。」
一通りの話を聞いた後、メルラーナ達はギルドマスターの執務室の前に来ていた、リゼの外に出たいと云う要望の許可を取る為だ、扉を軽く2回、コンコンとノックすると。
「はい。」
中から返事が返って来る。
「メルラーナです、一寸相談が有るんですけど。」
「メルラーナ君?どうぞ。」
「失礼します。」
入って良い許可が出たので扉を開き、リゼに「もう少し大人しくしててね?」とお願いをして共に中に入る。
「お早う御座います。」
「うむ、お早う。目を覚ましたとは聞いていたが、もう動いても平気なのかね?」
「はい、ご心配お掛けしました。」
軽く挨拶を済ませて本題に入ろうとしたのだが、部屋の中を見ると左右の壁一面には本棚が置いて有り、其の中には無数の本が隙間なく詰め込まれていた、そう言えば此の部屋に入るのはまだ2回目で1回目は緊急事態だったから余り部屋の中を見て居なかった。
正面には長方形の大きな机が有り、其の向こう側でギルドマスターが質の良い皮で覆われた高級そうな椅子に腰を掛けている、奥の壁には窓が左右に二つ有って中央は壁に成っている、壁には長さの違う杖が2本掛けられてあった、はて?こう云う部屋に掛けられてあるのって普通は剣とか槍とかじゃないのかな?そう云うのって勝手な思い込みなのだろうか?
メルラーナの視線が自身の後ろにある杖に向けられている事に気付いたギルドマスターは。
「杖が珍しいかね?此れは俺が現役だった頃に使っていたモノだよ。」
ああ、成程、自分の使っていた武器だから壁に掛けてあったのか。
「へー、って、あれ?じゃあギルドマスターさんは魔術師なんですか?」
「俺の事はラウルで良いよ、そうだな、一応7次席のハイウィザードだったよ。」
ギルドマスターさん、ラウルさんって云うのか、魔術師でもギルドマスターに成れるのか、ん?7次席?え?
「はは、魔術師、其れも7次席でもギルドマスターに成れるのか、って顔をしているな。」
あう、顔に出てた。
顔を真っ赤にして俯くメルラーナ。
「マスターに為るには実力よりも実績の方が必要になのだよ、一方次席を上げるには其の両方が必要になるんだ、だから次席が多少低くてもギルドマスターには為れるのさ、其れが戦士だろうとハンターだろうと魔術師だろうと…ね。」
はー、成程、次席が高ければ実力が伴っていると云う訳では無い、と云う事だろうか?うーん、難しいな、まあ、私は冒険者に成るつもりは無いし、次席を取る為のギルドに所属する気も無いから関係ないか。
「其れで?相談と云うのは何かね?」