29話 武器商人と…
メルラーナ達はザッと見て2~30人位の男達に囲まれてしまっていた、其の手には様々な獲物を持っている、中には銃を持っている男も居た。
「くそっ!時間を掛け過ぎたか!鍵はどうだ?」
丁度その時、ガチャ、と云う音と共に鍵が外された。
「今開けた所だ。」
扉を開けて少女に出てくる様に促すが、動く様子が無い。其れを見たメルラーナは檻の中に入り、少女の目線まで屈んで微笑む。
「大丈夫、怖くないよ、此から安全な所に連れて行ってあげるから、ね?」
諭す様に語り掛けると、少女はメルラーナの言葉よりも、別の何かを感じ取った様で、小走りで近づき抱き付いて来た。少女の行動に少し驚いたが、怯えた様に身体を震わせていた為、直ぐに抱きしめて頭を撫でて落ち着かせる。
「おや?懐いたと云うののですか?・・・変わった娘ですね?」
黒い正装の男はそう言うと。
「其の娘も捕えましょうか、高く売れそうだ。」
・・・今、此の人何て言ったの?・・・売る?・・・何を?・・・・・・・・・私、を?
「・・・気持ち悪い。」
「は?」
メルラーナの突然の言葉に其の場に居た全員が一瞬停止してしまった。
「子供を売って金儲けなんてして楽しい?売る人も売る人だけど、買う人も買う人だよね?ホント最低!奴隷商人とか格好いいと思ってるの?屑!こんな可愛い子に何をするつもりよ?変態!豚!黒いから黒豚だ!お前なんか一生牢屋に入れられて干からびちゃえばいいんだ!」
少女を力強く抱きしめ、黒い正装の男を睨み付け、黒い正装の男を指差して思った事を思いっ切り叫ぶ。
「…ど、…奴隷商人、だと?私は武器商人だ!!あ、…あんな屑共と一緒にするなあぁぁぁぁぁぁっ!!」
黒豚が怒鳴り散らす、どうやら間違われた事が癪に触った様だが武器商人と名乗られても、メルラーナには一切そう云うのは関係無く。
「一緒じゃない!子供を売ってる時点で下郎でしょ!」
「キ、貴様ぁっ!!其の小娘と冒険者共を殺せ!!」
黒豚の額に血管が浮き出る。
「「ぶっ!はははははっ!」」
そのやり取りに、二人の冒険者達が笑いを堪え切れず吹き出した。
「いや、いいね、お嬢さん最高だ。」
「状況は最悪だが多少気が紛れた、さて、俺達は冒険者だ、一般人を守る義務が有る、退路を開いて君達の逃がす、冒険者ギルドの場所は解るか?」
「え?ううん?労働者ギルドなら知ってるけど、それに…。」
「なら大丈夫だ、労働者ギルドの真裏が冒険者ギルドになっている、それと安心しろ、冒険者ギルドは一介の武器商人如きにどうこう出来る程、柔な組織じゃない。」
メルラーナの言葉を遮ってギルドの場所と心配していた冒険者ギルドと云う、解りやすい場所に逃げても大丈夫か?と云う疑問を見事に言い当てられた。冒険者の二人はメルラーナと少女を護る様な配置に付き、襲って来た集団に立ち向かう、メルラーナも戦闘に参加しようとするが子供を抱きかかえている為止められてしまう、二人は極力攻撃する事を避け、路を開く事に専念する。
………
……
…
時間にして10分程経ったが、流石に30人相手では分が悪かった、冒険者の二人が何とか凌いではいるが相手の数が多過ぎる、唯一幸いしたのが、銃による攻撃が無かった事だ、こんな乱戦状態の、味方の数の方が多い中で発砲すれば間違いなく同士討ちになるだろう、そこを突いて何とか凌いでいる、10人程倒した其の時。
「騒々しいな、何の騒ぎかね?獣の騒音では飽き足らんのか?」
「閣下!入ってはいけません!」
戦闘中とは思えない様な言葉が聞こえる。
(かっか?閣下って言った?)
奥から出て来たのは煌びやかな鎧を身に纏った筋肉質の良い巨漢の老人だった、年は60代位、白髪に太い眉が特徴的で鋭い眼光でメルラーナ達を見つめていた。
この時メルラーナは何となく悟ってしまう。
(………、こ、此奴かー!?偉い人ってのは!?)
「こいつぁ参ったな、とんだ大物が出て来やがった。」
「??」
冒険者は二人共額に汗を浮かばせている、戦闘をしていたからも有るだろうが、それ以上に今此の場に現れた人物に対して、冷や汗が流れ出したのだ。
「冒険者か、困ったモノだな、人の家に土足で入って来た挙句、知らなくてもよい事まで嗅ぎ付けようとする、本当に仕方のない連中だ、さっさと始末し給え、冒険者如きにこれ以上邪魔をされては敵わん。」
「招致いたしました閣下。」
黒豚が閣下と呼ばれた老人に敬礼をする。
「間違っても魔人の娘は殺すなよ?」
「勿論で御座います。」
老人は踵を返して此の場から離れて行った。
「さあ、とっとと侵入者共を始末してしまいなさい!」
黒豚の命令が飛び、配下達は再びメルラーナ達を襲い掛る。
「此れは、大変な事に成ったね。」
冒険者の一人が呟くのを聞き逃さなかった。
「大変、ですか?」
確かに今の状況が状況だ、大変なのは解る、しかし二人の冒険者は目の前の状況に集中出来ていない様子だった、先程の老人を見た時から何か、心此処に有らず、と云った感じだ。
「ああ、一番安全だったギルドに逃げ込むのが危険に成った。」
安全な場所が危険に?其れってつまり。
「さっきの人がギルドに影響を与えれる人、って事?」
そんな人って、国の偉い人とかだけじゃないの?
「………あ!?。」
そう云う事か、あの人は偉い人でギルドに圧力を掛ける事が出来る人なんだ?何でそんな人がこんな少女を監禁する様な怪気な所に居るんだ?いや、お忍びだからいいのか?そう云う事じゃ無い様な気がする、黒豚は武器商人って言ってた、じゃあ此処に居る獣達は、…武器?去り際に魔人の娘は殺すなって言ってた、つまり、此の子が目的で此処に来たって事?
「そう云う事だね。」
「一気にキナ臭く成って来やがったぜ、兎に角今は此処から脱出しないとな。」
当初の予定通り退路を作り、メルラーナと少女は無事脱出する事に成功した、二人の冒険者は殿を務める為テントに残ったが、彼等と再会する事は二度と無かった。
メルラーナは少女を抱きかかえ、昼間歩いて来た道を暗闇の中、走り続けていた、暗闇とは言っても街頭や店の灯りが辺り一面に広がっていて、とても夜とは思えなかった、此処の都市の人達にはまだ眠るには早い時間なのだろう、昼間と同じ位、むしろ多い位の人で溢れ返っていた、そんな中、自分達を追いかけて来る足音は後ろから徐々に近付いて来る。
「駄目だ!振り切れない!」
人混みに紛れて移動しているがやはり子供を一人抱えているのが原因だろう、走り乍ら少女に話し掛ける。
「そう言えば名前聞いて無かったね?何て呼べばいい?」
「………リゼ。」
「リゼ、良い名前だね、リゼ、…あのねリゼ、お願いがあるの、少しの私に間しっかり捕まっていてくれない?」
リゼは顎を大きく引いて頷き、力一杯しがみ付く、それを確認したメルラーナは両手を放し、篭手に手を添える。
(フックショット、初めて使うけど、お願いね、ファル。)
足を止めずに撃つ位置を確かめる、頑丈そうな所を見つけ篭手に付いてある出っ張りを摘み、発射した、篭手から放たれたフックは飛び出したと同時に爪が三又に開き、目標とした位置に引っ掛かり固定された。
「やった!」
もう一度出っ張りを摘まむと。
「え?」
ワイヤーが巻き取られ、急に身体毎持って行かれる。
「いっ!?いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ドンッ!
「い、たた。」
引っ張られた身体は勢いよく家の2階の壁に衝突する、ギリギリで受け身を取ってベランダに降り立つ、痛みは最小限に抑える事が出来たが痛いものは痛い、此の機能は練習して慣れてから使おう。
「リゼ、大丈夫?」
目を見開いて大きく何度も頷く。
「いい子だね、此処は他人の家だから早く移動しないと。」
直ぐに其の場を離れる事にした、只、先程の場所から大分移動してしまった為か追手の状況が完全に解らなくなってしまった。
建物の上を渡り歩き、何とか冒険者ギルドの近くまで辿り着く、ギルド前を影から覗き込んで怪しい人物が居ないか確認をした後、ギルドの中へと入って行った。その姿を見られていた事にも気付かずに………。