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クレイヴァネアス ~始まりは玉響な微睡みの中で~  作者: 沙霧 啓
第二章 ラスティールの鼓動
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20話 エアリアルの任務


店から外に出たエアルは念話を再開する。


「申し訳ありません、お待たせしました、副長。」

開口一番に謝罪をしておく、念話先の相手は実の兄とはいえ上司に当たる、誰も聞いては居ないが、其の辺りはきちんとした応対をしなければならない。

『いや、気にするな。』

男性の様な、女性の様な、何方共言えない中性的な声がエアルの頭の中に響いて来る。

『それより急な話ですまないが、お前に別の任務に就いてもらう事になった。』

「はい、って、え!?別ってつまり、任務の変更ですか!?」

速返事をしたがあまりに唐突な内容の話であった為、思わず聞き返してしまう。


『そうだ。』

間髪入れずに返事が帰って来た。

「で、でも今の任務は?メル、メルラーナの護衛はどうするんですか?山を越えるのも危険だし、次の国はあの荒野ですよ?」

ラスタールの危険性とソルアーノ国の隣国ボロテアを、荒野と呼ぶ事で不便性を説こうとするが。

『言うと思ったよ、だが安心しろ、ラスタールを越えるのはデューテ殿に頼る事にする、後で連絡を入れるつもりだ、ボロテアの方は多少問題はあるが、暫くの間は()()()彼女(メルラーナ)と接触をせずに影から見守ってくれるそうだ。』

「あの方?…って。」

エアルは少し思考を巡らせ、直ぐ誰の事か理解した。

「あの人ですか!?まだここ(シルスファーナ大陸)に居たんですか?てゆうか、暫くってどれくらいですか?ボロテア抜けるまでまだ一月以上掛りますよ?自分の国ほっといて大丈夫なんですか?何しているんですか?あの人は?」

理解した瞬間、貯め込んでいた疑問を無意識の内に、関係の無い上司にぶつけてしまって居た。


『そんな矢継ぎ早に、しかも私に言われてもな。』

「あ!?う、ご、御免なさい。」

言われて気付くと、急に恥ずかしく成り、顔を赤くして誤った。

『あの方なら心配は無いだろう?』

「そりゃあ、私が護衛するより遥かに安全でしょうけど。」

悔しそうに呟く。


頭では理解出来ていた、あの方と呼ぶ人物が、自分よりも頼れる人物であると云う事は。

只、悔しい、と云う気持ちもある、命令とは云え、一度就いた任務を別の人に任せると云う事、任せる人物が全てに置いて、私自身より遥かに優れていると云う事。

事、戦闘に置いて多分、対一では団長でも互角に渡り合えるかどうか、いや、純粋に彼が破壊と云う行為のみを行使すれば、我がリースロートで真面に渡り合える人物は思い浮かばない。

集団に置いても優れた戦略家であると聞いた事がある、実際に戦った事は無いが、刻一刻と変わり続ける戦局を読み取り、何百、何千通りもの策を瞬時に構築し、其の中から最適解を割り出すと云う、私には全く持って理解の出来ない領域の頭脳戦を繰り出してくるらしい、時間があれば何万もの案を出せるらしいが、結局絞り込めるのはほんの一握りだけだし、最適解は一つだけなのであまり意味が無いとか、そして其の能力は、当然乍ら戦闘以外でも発揮すると云う。

話が大分反れてしまったが、世界にはそう云った異常な程の規格外に人物が居ると云う事だ。




『まぁ、国の事は大丈夫だろう、あの方一人居なくなっただけで傾く様な国じゃあないさ、それとも何か?そっちの心配では無く、もしかして寂しいのか?』

「な!?ち、違っ!?」

あれこれ其れらしい理由を並べて自身を納得させてみたが、図星を指されてしまった。

『はっはっはっ、私はお前の兄だぞ?隠しても解るさ。

そうか、メルラーナはお前に良い影響を与えてくれているのだな、何時も殺伐とした任務ばかりだものな。』

「そんなつもりで言った訳では無いんですが、そうですね、何か、一寸した休息の様に感じる任務でしたね。」

感傷に浸る様に感想を述べるエアル。

『そうか、…すまないな。』

「いえ、大丈夫です、任務内容を聞けせて頂けますか?」

副長では無く、一人の兄として謝罪された事、此の人に心配させまいと、気持ちを切り替えて、肚を括るのだった。


『…ああ、解った。』

念話先の人物は兄から上司と云う立場に切り替え。

『火竜騎士団第七師団、師団長エアリアル=シルフィ=ジースザーン中佐に命じる。』

「はっ!」

『トムスラル国にて欠片の魔獣が出没したらしい。』

「!?」

エアルの脳裏に一瞬、遺跡で戦った男の姿がちらついた

まさか、あの男の仕業では。

『トムスラルは今とても不安定な状態だ、国と冒険者達が対立しているらしい、其処に欠片の魔獣が放たれたと成れば。』

エアルは聞き取った情報からあらゆる可能性を導き出す、やがて、一つの結果が頭を過った。


『まさか、…内乱(クーデター)!?』




メルラーナ達が店内に戻って来ると、丁度エアルも店内に戻って来た所だった。

しかしエアルは浮かない顔をしている。

「エアルちゃん?どうしたんじゃ?」

デューテ爺が心配になってエアルに声を掛ける。

「え?」

そんなつもりは無かったのだが、顔に出ていたようだ。

「エアル?」

メルラーナもエアルに気付き近付くと。

「メル…その、私、別の任務に就く事に成って。」

当然の事だが詳しい事は話せない。

「…え!?」

驚くメルラーナに何か言おうとするが、言葉が出て来ず、少しの間、店内に静寂が訪れる。

「………そっか。」

その静寂を遮る様、メルラーナが言葉を切り出し、寂しそうに微笑む。

「メル、御免なさい、一緒に行けなくなって。」

「ううん。」

首を左右に振ったメルラーナが。

「どうして謝るの?お仕事でしょ?仕方ないよ、それに元々一人で行くつもりだったんだし、ルートは変わっちゃったけど、多分大丈夫?心配しないで、ね?」

メルラーナは寂しさと涙を堪え、笑顔を崩さない様、言葉を絞り出す、その姿を見たエアルは自身の目から涙が零れそうになったのを必死に堪え、代わりにメルラーナを力強く抱きしめる。

「…!?…エ!エアル?」

「有難う、メル。」

「ううん、私の方こそ、ホントに有難う、色々助けて貰って。」

メルラーナの頬を一筋の涙が伝う。


二人の様子を温かい眼差しで見守っていたデューテ爺が、そっと部屋を出て行った。

………

……


「…半月程の旅だったけど、凄く楽しかったよ、メル。」

寂しげに、其れでも優しく微笑えむエアルに。

「私も楽しかったよ、色んな事を一杯教えて貰って、聞いてばっかりだったけど。」

涙を拭いて、笑みを浮かべ答える。

落ち着きを取り戻した後、二人は別れを惜しむかの様に話をしていた。


「そっか、明日鉱山にアダマンタイト取りに行くんだ、凄いね、アダマンタイトなんて冒険者達が憧れる金属じゃない、…鉱山の事は私には解らないから、気を付けてね?ちゃんと此処の人達の言う事を聞くんだよ?」

「うん。」

「其れからまだ先の話に成るけど、此の山を越えるともうボロテアって云う国に入るんだ、ソルアーノと違って荒れた大地が広がる国なの、麓に町があるから、其処で水と食料を一週間分程確保する事。」

一人に成るメルラーナの事を心配し、進むべき路と最低限の必要な物の簡潔に話し出す。

「い?一週間分も?」

驚くメルラーナだが、理由が有るのだろうと悟り、エアルの声に耳を傾ける事にした。

「そう、一週間、準備が出来たらその後は馬車を借りて北西の町へ向う事、其処からは一直線に北へ、町や村を何個か通るけど、向かう場所はエバダフって云う都市、覚えて置いてね?」

「エバダフだね、分かった。」

馬車には苦い思い出があるが、其れは其れとして置いて置き、しっかりと其の都市の名前を頭に叩き込む。

「其処まで行けば後は何とか成るから。」

「え?行けば何とか成るの?」

どう云う事だろう?

「エバダフはボロテア一の貿易都市なの、後は其処でリースロート領に入る路と方法を決めればいいよ、移動手段やルートは幾つもあるから。」

「成程、…へ?ボロテアの次はリースロートなの?」

驚きと期待に目を輝かせるメルラーナにエアルは。

「ああ、そっか、そうだね、期待させて御免ね、国にはまだ着かないわ、リースロート王国まではボロテアから後二つ国が有って、其の二国はリースロートの傘下国だから一応はリースロート領に成るのよ。」


ふと疑問が生まれる、それって確か、幾つもの国が集まって一つの国として成り立っている、確か公国?とか云う。そんな事を考えていると、心を読まれたかの様に。

「言っとくけどリースロートは公国じゃないからね?」

「え?あ?そ、そうなんだ…。」

何で考えてる事が解るんだ?

「四大国家で公国はシュレイツだけだから。」

四大国家、偶に聞く名前だけど、詳しくは知らないな。

「シュレイツって、何トカ機構とか云う?」

「あら?良く知ってるわね?そうよ、シュレイツ公国の別名は、総統科学機構シュレイツ。」

…聞くからに何か、凄そうな名前だな。

「ん?科学?此の国(ソルアーノ)も科学が発展した国だよね?ひょっとして競争相手とか?」

本当に良く頭の回る娘だな、感心するエアルは。

「うーん、競争相手、てのは少し違うかな、此の国は兵器を作らないのを矜持としてるけど、シュレイツは化学を軍事力として運用してるからね。てゆうか、話が反れてるから戻すね、リースロートの参加国の二国を越えると要約リースロート王国、入国しても目指す場所までは順調に行っても一月位は掛かると思うから、覚悟はして置いてね。」

「う、…そっか、先は長いなぁ。」

と落ち込んでしまったが、ふと我に返ってエアルに尋ねる。

「そう言えば、目的地ってリースロートの何処なの?」

父親にはリースロートへ行け、としか言われて居なかった。

「状況が状況だったからね、ちゃんと説明出来なかったのは無理無いか、メル、此れから貴女が向かう冪、都市の名は。」


『王都バストゥール。』


……


「お金は渡しておくね?団長、メルの御父さんから預かってる物だから、気にせず使ってもいいけど、無駄遣いはしちゃ駄目よ?」

「え?あ、うん。」

「無茶は絶対しない事、身体には気を付けて、ご飯はちゃんと食べるのよ?」

何か、母親に良く言われそうな事を言われた。

「うん、大丈夫。」

「…それじゃあね、次会う時はリースロートで。」

「リースロートで会えるの?」

「勿論。」

即答で返って来た返事に、メルラーナの表情は明るくなる。

「分かった。」

伝えたい事を伝えると、エアルは踵を返し、歩き出す、其の背中に向かってメルラーナは。

「エアル、行ってらっしゃい。」

満面の笑みを浮かべて手を振って見送った。

振り返ったエアルも笑顔で手を振り。

「行って来ます。」

そう言い残し、其の場から姿を消した。





気持ちを切り替え、エアルと別れた後、店内に戻って来たデューテに連れられ別の部屋に案内された。

部屋の中は5メートル四方程の広さで、中には武器や防具、色んな道具が無造作に置かれていた。

「この中から適当に選んで持って行っていいんじゃよ、ソードガントレットは無いけどね。」


メルラーナは無造作に置かれた装備品の中から使い易そうな武器を見繕い色々手に取ってみた。

「うーん、どれが良いか分かんないなー。」

ソードガントレットしか使った事が無いメルラーナにとって武器を選ぶと云う行動を行う事が無かった為、何を基準に選べばいいのか当然分かる筈も無く。

「これで良いかな?」

其の手の中には小振りの剣が収まっていた、其れは短剣より大きく、剣より短い、所謂ショートソードと呼ばれる分類に成る剣であった。

選んだ剣を持ち出す為、部屋から出ようとした時、メルラーナの耳に何かの音が聞こえた様な気がした。


「え?」

振り返り、部屋の中を見渡す、しかし、部屋の中は静まり返っており、何かが居る様な気配もしない。

「…気のせい、かな?」

メルラーナは踵を返し、部屋を後にした。

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