8話
私達はファミレスで少女漫画を読んでいた。
そして、恭子が少女漫画のあるページを開いて、指差しながら話しかけてきたのである。
「皆、ここ、ここ、こういう出会い、憧れるよな~」
そう言って、妄想の世界に入っていた。
私達はそれぞれ少女漫画を買い、読み終わったら皆で読みまわしをしていた。
そのほうがお小遣いをそんなに使わなくて済むし、合理的だったからだ。
「まだその本、読んでね~のにバラすんじゃね~よ!」
皆、一斉になってそう言っていた。
恭子は物心ついた時から両親が共働きだった。
おばあさんの家に連れられ、面倒を見てもらって育ったのである。
だが、そのおばあさんがとにかく厳しい人で、特にしつけに対してはうるさかった。
段々と嫌気がさして来た恭子は、中学になってから反抗するようになっていた。
今は1人で留守番が出来るようになったので、家で1人でいるほうが気楽だと言っていた。
しかし、かなり歳を取ってしまったおばあさん。
恭子の両親は、心配だから様子を見て来て欲しいと、頼む事が多くなって来たとの事だった。
仕方なく、渋々時々様子を見に行っていた。
その度にケンカになって家に帰っていたらしい。
恭子は私達の中で1番の妄想好きだ。
特に恋愛に関してだ。
恋愛に関しては憧れが人1倍強かった。
少女漫画を読んでは、こういう出会いがいい! と言って、自分の妄想の世界に入る。
自分の妄想の世界に入っている時はボ~ッとしている事が多かった。
少女漫画みたいな出会いなんて中々ないのが現状だ。
それでも乙女としては、やっぱり憧れてしまうところである。
私はまだ顔のあざが引いていなかった。
マスクをしていると息苦しく感じていたが、ここはやはり女である以上、あざだらけの顔を人に見られるのは嫌だったのだ。
「しばらくは、そのあざが引くまで時間かかりそうだな」
弘子が少女漫画を置いてそう言った。
「だけどよ~、マスクしてると息苦しいから取っちまいたいくらいだよ」
私がそう言うと、香奈枝が私に話しかけてきた。
「早くあざが引くといいな。髪もそうだけど、顔は女にとって命だからな」
そう言って、私の膝の上に頭を乗せて、膝枕をした状態で少女漫画をまた読み始めたのである。
香奈枝は小さい頃に両親を事故で亡くしていた。
親戚中をたらい回しにされて育ったのだ。
どこに引き取られても嫌味を言われていた。
居場所がなかった香奈枝は、寂しい思いをして育ったのである。
そして、中学になってから、親戚に嫌味を言われる度に反抗するようになっていった。
香奈枝もまた、私達の家に泊まりに来る事が多かった。
1番の寂しがり屋で、私達とつるんでいる時が今までで1番幸せを感じる。
と、言っていたくらいだ。
寂しい思いをしてきたせいか、たまに、どこか甘えん坊なところがあった。
今こうして、私に膝枕をしてきたのも、小さい頃から誰にも甘える事が出来なかったからだと私達は思うのであった。
そういう時は、皆して香奈枝の事をわざとからかったり、ふざけて笑うのであった。
私達は皆、それぞれの理由で、こうやって出会った。
一緒にいる時が1番楽しい時間だった。
家に帰る時は寂しささえ感じる程だったのである。
「そう言えばさ~。『処女同盟』の頭を決めてなかったけど、頭は楓でいいんじゃね~か?」
弘子がいきなりそう言ってきたのである。
「あ? あたしが頭?」
私は弘子のいきなりの発言に、そう答えていた。
「そうだな。あたし達は族に入ってるわけじゃね~けど、同盟を作ったからには頭が必要だよな。やっぱ楓がいいよ!」
恵理奈がそう言ったのである。
確かに私達は族に入っていない。
族だと、総長とか、頭が必ずいる。
私達は『処女同盟』を作った以上、の頭が必要だと考えたのだった。
「やっぱ、頭は必要だと思うよ! 楓、あんたが1番適任だと思う。ここは引き受けてくれよ。皆もそう思わね~か?」
恭子がそう言うと、皆は納得した様子だった。
「わかったよ。そこまで言うなら、あたしが『処女同盟』の頭になるよ」
私は渋々頭になる事を引き受けた。
「これで決まりだな」
多可子と香奈枝が声を揃えて言った。
「だけどよ~。あたしに頭ができっかな~?」
私はそう言ったが、今までの私の行動を皆は思い返していた。
それを思うと、どうやら私が1番適任しているらしいとの判断だった。
「無茶をする頭だけどさ、楓が1番正義感が強いからな。それに今までの楓の行動を考えると、楓はすでに頭のようなもんさ!」
弘子がそう言ったのである。
「わかったよ! まぁ、あたしは今まで通りにするだけさ!」
私は、そう答えたのだった。
そして、『処女同盟』の頭は私が引き受ける事になったのである。




