7話
私は次の日、マスクをして学校に行った。
顔中があざだらけになっていたからである。
皆がすぐ私に駆け寄って来た。
「楓! 顔見せてみな!」
真っ先に声をかけたのは、お節介焼きの弘子だった。
私は仕方なくマスクを取った。
「あざだらけじゃないか。楓のマブい顔が台無しじゃね~かよ」
「痛そうじゃねえか。大丈夫か?」
「こんなになるまで無理しやがって……」
皆、私の顔を見て心配してそうに声をかけてくれた。
だが、私は平気だった。
むしろ、私の顔や体中にできたあざは、先輩の思いを胸に、男とタイマンをはって勝ったという事。
それは、勝利の証だと思ったからである。
「平気だよ、このくらい。ただ、このあたしのマブい顔が! しばらくはマスクして隠しておかね~とな!」
私は仲間に心配をかけまいと、笑顔でいつもの高飛車ぶりを見せてやったのだった。
「また楓の高飛車ぶりが始まりやがった」
多可子が、いつも通りの私を見て笑ったのだった。
多可子は3人姉妹の末っ子だ。
小さい頃から姉2人に家庭内虐めを受けていた。
嫌味を言われて育ったのである。
何で嫌味を言われないといけなかったのか?
本人はわからない。との事だった。
親にその事を訴えても信じて貰えなかったらしい。
家にいる事が辛った多可子は、私達と仲間になってから、皆の家によく泊まりに来ていた。
性格は、仲間の中ではどちらかというと大人しいほうだが、とにかくよく笑う子だ。
私達は放課後、学校の屋上に先輩を呼んだ。
そして、金山 武史を呼び出し、先輩の敵を取った事を話した。
私はマスクをしていたが、瞼が腫れていたため、先輩は私に近寄ってきた。
「マスクを外してくれる?」
そう言われ、私は仕方なくマスクを外した。
「どうして、あなただけ顔がこんなにあざだらけなの? もしかして、体もなの?」
先輩は私の顔を見て、今にも泣きそうだった。
本来なら、皆でリンチするはずだった。
だが、武史に武器を持たないとけんかできないのか? と言われ、私から買って出てタイマンをはった事を話した。
そして、武史に先輩が妊娠して下した事も話したと伝えた。
だが、武史が言った、あのあまりにも酷い発言。
俺の子じゃないんじゃねぇの? って言われた事だけは、私達は先輩に黙っておこうと前もって話し合って決めていた。
これ以上、先輩を傷つけたくなかったからだ。
「私のために、こんなにあざだらけになって……ごめんね……」
先輩はそう言って涙を流していた。
「先輩。これくらい平気だよ! それより、男とタイマンはって勝ったあたしはかっこいいだろ~!」
私は自慢げに言って見せたのだった。
「先輩、楓、カッコ良かったんだよ! あたしは惚れ直しちまったよ!」
弘子が先輩に心配をかけないように笑顔で言った。
「マブい顔が台無しだけどな! つ~か先輩、楓のヤツ、自分で自分の事をマブいとか普段から言う相当の高飛車なんだよ!」
恵理奈が笑いしながら言ったのである。
「マブいもんはマブいんだよ!!」
私達の会話を見ていて、先輩はいつしか泣き止み、少しだが笑みをこぼし始めていた。
その先輩の姿を見て私達は安堵したのだった。
「楓さん、そして皆さん、本当にありがとう。何だか、凄く救われた気分よ。あなた達は私の恩人ね」
先輩は皆の顔を1人1人見ながらそう言っていた。
そして、最後に私の顔に優しく手をあてた。
「痛い思いさせてごめんね。本当にありがとう。心から感謝します」
「照れるじゃね~か先輩! つ~か、あたし達はいつの間にか先輩に対してタメ口になっちまった。先輩、いいっすか?」
私が照れながら言うと、先輩は笑顔で答えてくれた。
「そんな事、気にしなくていいのよ。それより、お友達になって欲しいの」
「じゃあ、遠慮なくタメ口って事で! 先輩、あたし達はもうダチだよ。それと、あたしの事は楓でいいよ。皆の事も呼び捨てでいいし」
皆は先輩に駆け寄って、今更だが、それぞれ名前を教えて自己紹介をした。
「呼び捨てはちょっと……じゃあ、楓ちゃん、恵理奈ちゃん、弘子ちゃん、恭子ちゃん、多可子ちゃん、香奈枝ちゃん」
先輩は1人1人顔を見ながら名前をちゃんづけで言ったのだった。
「ちゃんづけは、ち~っと恥ずかしいけどよ。先輩がその呼び方のほうがいいなら、それでいいよ」
恭子が照れながら言った。
私達も少し照れたが、先輩の好きな呼び方が1番だと思った。
そして、私達が普段何をして遊んでいるのか?
何の話が好きなのか?
色々と先輩と話をしたのだった。
先輩はいつの間にか、私達と話すのを楽しそうにしていた。
そして、部活のテニスは辞めたそうだ。
皆から無視されての部活は辛いと言っていた。
どのみち、3年生は1学期で辞める事になっているとの事だった。
就職活動や大学を受験する人達は受験勉強に専念する必要があるからだ。
きっと、先輩が笑顔を取り戻したのは、久しぶりなんだろうと思った。
その笑顔をもっともっと取り戻してやりたい。
私達はそう思ったのだった。