6話
私達は次の日学校が終わると山下高校に向かった。
武器は前もって、山ヶ丘公園に隠しておいた。
そして、山下高校のテニス部の方に行く事にしたのだが、全員で行けば怪しまれると思い、私が代表として行ったのである。
部活の真っ最中だった。
私は1人の人に声をかけた。
「あの~金山 武史さんは何処ですか? 実はこの前、落とし物を拾ってもらっちゃって、お礼が言いたいんです」と……
すると、すんなりと教えてくれた。
「ああ、金山なら、あそこで素振りをしてるよ」
私はお礼を言って、武史の元に行った。
そして、声をかけた。
「あんたが金山 武史かい?」
すると、武史は素振りを辞め、初めて見る私の顔を見てポカンとしていてが、口を開いたのだった。
「誰?」
「誰? じゃねえよ! あんた、鳥山 加奈子って子、知ってるだろ? ここで大声であんたがした事を言われたくなければ、今すぐ山ヶ丘公園に来い。待ってるからな!」
私はそう言って、その場を離れた。
そして私達は武器をそれぞれ持ち、武史が来るのを皆で待っていた。
しばらくすると、武史がやって来た。
「ふ~ん。部活の皆にバレるのがそんなに怖いのかあ?」
1番最初に恵理奈がチェーンを振り回しながら武史の事を上から下まで眺めて、そう言ったのだった。
「なるほどねえ。何喰わぬ顔してテニスかよ。いいご身分だね~」
次は弘子が鉄パイプを右肩にトントンと当てながら、嫌味ったらしく口を開いたのである。
「レイプしといて楽しくテニスかよ!!」
恭子が怒りを抑えられず、右手に持った木刀を武史に向けて強い口調で言ったその時だった。
「レ、レイプなんかしてない。俺と加奈子は付き合ってたんだ!」
今までリンチしたヤツも最初は誤魔化そうとしていた。
何て愚かなんだろう?
私はヘドが出そうだった。
「あんた!! この期に及んで嘘つくんじゃねぇよ! 先輩はな! あんたのせいで妊娠までして1人で下ろしに行ったんだ!!」
多可子がキレた様子で怒鳴ったのだった。
「自分のした事がどれだけ酷い事か、わかってないみたいだな!! 女を舐めんじゃねえよ!! このクズが!」
私も怒りが抑えられず、木刀を武史の腹に突き付けた。
先輩が妊娠と子供を下した事を聞いて、武史はビックリしている様子だった。
が、とんでもない事を言い出した。
「妊娠? 俺の子じゃないんじゃねえの?」
それを聞いて、皆唖然としたのである。
「ふざけんじゃねえよ!! このクズが!! こいつ、完全に開き直ってやがる!!」
真っ先に怒鳴ったのは恭子だった。
そして、私も怒りで黙っていられず、武史に向かって怒鳴った。
「あんた! それでも男かよ!! レイプした挙句、俺の子じゃねえだと!? よくもそんなひでぇ事が言えたな! 先輩がどんだけ辛い思いをしたか、思い知らせてやる!! 覚悟しな!!」
私はそう言って、木刀を地面に叩きつけたのだった。
今までにない怒りがこみ上げてきて、抑えられない程だったのである。
「武器を使わないとケンカ出来ないのか?」
武史が笑みをこぼしながら言った。
「何だって!? てめえっ!! ふざけた事言って笑ってんじゃねえよ!!」
弘子がキレて武史に向かって怒鳴ったのだった。
私は武史の言葉に怒りが頂点まで達していった。
「ふん!! じゃあタイマンはろうじゃねえか!! 女とタイマンはるなんて、みっともねえヤツ!!」
私は怒りで我慢出来なくなっていったのである。
「男とタイマンはるなんて無茶だよ! 楓!」
「楓! 無茶するなって言っただろ?」
「辞めときなって!」
皆がそれぞれそう言って止めに入った。
「皆、ここはあたしを信じてくんねぇか。こんなヤツのために……先輩があんまりにも可哀そうだ! 絶対に勝つからよ!!」
私がそう言うと、皆は何とか納得してくれた。
「覚悟しな!!」
私は木刀を投げ捨てた。
「このあたしを舐めんじゃねえよ!! 相手が男だろうが、あたしには怖いものはないんだよ!!」
私は武史に向かって行った。
すると武史が私の顔を思いっきり殴ってきた。
私は殴られた勢いで倒れかけた。
だが、武史にしがみついて、短い髪の毛を掴み、思いっきり引っ張ったのだった。
そして、男の急所を蹴った。
痛がっている武史を私は押し倒し、馬乗りになって何度も何度も顔を殴ったのだった。
すると、今度は武史が私の髪を掴んで強く引っ張った。
私を押しのけると、また殴ってきたのである。
皆はその間、一生懸命私を応援していた。
中には見てられなくて、手を貸そうとするものもいたが私は断った。
「手を出すんじゃねえっ!! これはタイマンだ! 手を出したらこっちが負けになっちまう!!」
私は武史に殴られたせいか、いつの間にか口から血が出ていた。
その血を左手で拭ったのだった。
そしてまた武史にしがみついて、髪を引っ張った。
私は武史に何度も何度も殴られ、倒れては起き、を繰り返していた。
だが、私も武史に何度もしがみつき、右手で髪を引っ張り、足で急所を蹴った。
次第に武史は息を切らし始めたのである。
とにかく私は諦めなかった。
「こ、こいつ、しつこい!!」
「ふん!! 先輩と約束したんだ!! 先輩の代わりに仕返しするって!」
私は先輩との約束を果たそうと無我夢中だった。
「わ、わかった。も、もういい……」
私があまりにもしつこかったせいか、武史は倒れこんだ。
そして、皆が私に駆け寄って来た。
「大丈夫か? 楓!」
香奈枝が声をかけてきた。
他の皆も心配そうに私に声をかけてきたのである。
「先輩の大切な乙女の純情を汚しやがって!! この人間のクズが!! いや、クズ以下だな! あんたは女とタイマンはって負けた。恥を知りやがれ!! 男らしくきちんと謝れよ!! 今度は皆でリンチだぞ!」
私がガンつけながら言うと、武史は悔しそうに
「お、俺が悪かった……」
そう言い残し、帰って行ったのだった。
「また無茶しやがって……楓」
恵理奈が今にも泣きそうな顔で私に声をかけた。
「あたしは子供の頃からクソ親に殴る蹴るの虐待を受けてきた。こういうのには慣れてんだよ」
私は平然とした顔で言った。
「そんなのに慣れんなよ! 馬鹿野郎!」
弘子は目に涙を浮かべながら、そう言ってくれたのだった。
他の皆も涙を浮かべていた。




