4話
いつものように学校に行くと、もう皆来ていた。
そして、弘子が嬉しそうに何かを話していたのである。
「おはよう。皆! 弘子、嬉しそうに何話してんだよ? 何かいい事でもあったのか?」
私が聞くと、皆が一斉に話そうとしたが、弘子は自分の口から話したい様子だった。
「出会っちまったんだよ~! 運命の人に! キャ~!」
弘子は照れた様子で言ったのだった。
「運命の人?」
私は弘子に彼氏が出来たのかと思った。
そして、話を聞く事に。
弘子はいつも電車で通学していた。
毎朝、通勤通学ラッシュで大変だった事は聞いていた。
今朝、電車の中で立って乗っていたところ、電車の揺れでよろめいてしまった。
そこに、ある男性が弘子の腕を掴んで助けてくれたそうだ。
どうやら弘子は、その男性に一目惚れしたらしい。
「大丈夫? って、声をかけてくれたんだよ! あたしの乙女心にドゥキューン! って来ちまった……はぁ~」
弘子は興奮したと思ったら、ため息をついていた。
きっと頭の中は今朝の事でいっぱいだ。
「一目惚れしたヤツって、どんな感じのヤツ?」
「高校生か? それとも社会人?」
「どんなヤツなんだよ?」
「背はどのくらい?」
皆、質問攻めだった。
「多分、大学生だと思う。私服だったし……! 優しそうな顔してな~」
弘子は嬉しそうに話をしている。
私を含め、皆彼氏がいなかった。
告白される事はあっても、付き合う事はなかったのである。
いきなり付き合って下さいって言われても困ったからだ。
それに、こっちに好きという気持ちがなければ意味がない。
中には取り合えず付き合ってみる。
という人もいる。
だが、私達はそういうのが嫌いだった。
物事には順序がある。
まずは友達として……。
なら分かるが、取り合えず付き合うってどういう事?
と思うくらいだった。
私達は『処女同盟』なだけあって、律儀だったのである。
弘子は仲間の中では1番のしっかり者。
世話好きで結構お節介なところがある。
だが、そのお節介は弘子の優しさそのものだった。
いつもケラケラ笑う明るい子だ。
そんな弘子だったが、小学から中学までの長い間虐めに合っていた。
今は痩せているが、小さい頃から太っていて、それが虐めの原因だったらしい。
太っているというだけで臭い! デブ! という酷い言葉を言われ続けたとの事だった。
そして、いつも1人で友達がいなかったらしい。
そういう辛い思いをした弘子は、一生懸命ダイエットをして痩せたと話してくれた。
高校になって弘子に声を掛けたのは私だった。
1人でポツンといたからだ。
虐めに合い、友達がいなかった弘子は私達とすぐ仲良くなった。
私達は弘子が虐めに合ってたなんて信じられないくらいだった。
明るい性格を見ていて、元々は明るい子であり、虐めに合ったからこそ、優しくて、お節介なところがあるんだと思ったのである。
そして、そんな弘子の恋を私達は応援する事にした。
「もしかして弘子が1番に彼氏が出来んじゃね~の?」
恵理奈がニヤニヤしながら言った。
皆、彼氏が欲しい気持ちは勿論あった。
それより先に、恋をしたいという気持ちが大きかった。
「弘子、恋真っ只中だろ? 羨ましいよな~」
多可子が羨ましそうに弘子を見ながら言った。
「皆にもいつかそういう日が来るって! それは突然やって来んだよ。はぁ」
弘子は彼の事で頭がいっぱいなのだろう。またため息をついていた。
「進展があったら報告夜露死苦! 頑張れよ。弘子」
私は弘子の肩にポン! と手を置いて言った。
そして、皆も一緒になって頑張れ! と言ったのだった。
――それから弘子は
通勤の時に最初出会った時間帯に合わせて電車に乗る事にしていた。
そして、やっと例の彼と会う事が出来た。
恥ずかしながらもお礼を言う事が出来たそうだ。
「は? お礼を言っただけかよ?」
恭子が残念そうに言った。
「こういう時は飯くらい誘うもんだろ? それに名前とか聞いたのかよ?」
香奈枝がそう聞くと
「そんな急に名前を聞いたりとか飯誘ったり出来ね~よ。まずはお礼を言って、それから徐々にだよ」
弘子は笑みを浮かべながら言ったのだった。
「確かにそうだな。いきなり名前聞いたり飯誘ったりしたら如何にもって感じだしな」
多可子がそう言った。
そして、私も弘子と多可子の言う通りだと思った。
「悪かったよ。ここはゆっくりと進んで行けばいいさ。頑張れよ! 弘子」
香奈枝がそう言って謝っていた。
「いいんだよ。皆が応援してくれてるのは、ちゃんと分かってるからよ」
弘子は嬉しそうに笑顔で言った。
「じゃあ進展があったら夜露死苦!」
私はちょっとふざけた感じで言ったのだった。
「だけどよ~、彼の前だと恥ずかしいやら照れるわで、心臓がバクついて困っちまうよ」
弘子は照れ笑いしながら言ったのである。
「何言ってんだよ。ただでさえ羨ましいのに。なっ! 皆!」
恵理奈がそう言うと、皆して
「そうだよ!」
「ホントだよ!」
「いいよな~」
羨ましそうに言ったのだった。
「とにかく弘子の恋が上手くいくように皆で祈ってるよ! 羨ましいヤツめ!」
私はそう言って、ふざけながら弘子の頭をくしゃくしゃにしたのだった。
皆も私のマネをして弘子の頭をくしゃくしゃにしたである。
そして、皆して笑いあった。
「何すんだよ? 髪型が崩れるじゃね~かよ!」
弘子はお返しに皆の髪をくしゃくしゃにしたのであった。