35話
私達はずっとICUの部屋の前で明の様子を見ていた。
「楓、1度家に帰ってゆっくり休めよ」
恭子が心配して、休むように言ってくれたが、私は明の側を離れたくなかった。
「あたしは、ここにいる。皆こそ家に帰って休んでくれ。それと、浩司、誠。明日の夜、族の皆を集会所に集めてくんねぇか。皆に話がある」
「でも、楓も休まねぇと。体が参っちまうじゃないか」
弘子と皆も心配してくれていた。
だが、私は明の側にいたかった。
「あたしは大丈夫だ。ここに居させてくれ。それより皆、今のうちに体を休ませておいてくれ。明の敵を討つ。今度こそケリをつけてやる。それまで十分気をつけてくれ」
「わかった。また顔を出すよ。けど、ケリをつけるなら楓も休まねぇと」
皆の気持ちは嬉しかったが、ここを離れるつもりはなかった。
「じゃあ楓、今日はもう遅いから帰る。また明日、顔出すから」
恭子が心配そうに言った。
「楓、あんまり無理すんなよ! 明はもう大丈夫だ。俺達もまた顔を出すよ」
浩司がそう言ったが、私はガラス越しに明を見ていた。
そして、皆は帰って行ったのだった。
「明、あたしが必ず敵をとるからよ。今度こそケリをつけるから、だから頑張れよ」
私は今まで怖いものはないと思っていた。
親から愛情を受けずに育ったからだ。
だけど、明と出会って、明から愛され、そして私は明を愛した。
愛というものを今まで知らなかった。
でも今は違う。
愛を知った私は、明を失う事が怖かった。
生まれて初めて、怖い。という気持ちになったのだった。
「今度はあたしが明を守る……明の女として恥じないように、頑張るよ明」
私は一晩中、ガラス越しから明を見ていた。
――朝になって、私の仲間達と浩司、誠がやって来た。
「楓! ずっとそこに立ってたのかよ? 少し休め!」
恵理奈が心配して言ってきた。
そして、他の皆も心配していた。
「あたしは大丈夫だ……」
夕べたくさん泣いて、一晩中立ってガラス越しから明を見ていたせいか、急に眩暈がして倒れそうになった。
倒れそうになった私を浩司が支え、近くにある椅子に座らせたのだった。
「楓、明の事が心配なのは分かるが、今夜集会に顔を出して話をするんだろ? 少しは休め!」
弘子にそう言われ、私がこんなんじゃ敵を討つ事が出来ない。
やはり少しでも休まないと……。
明のために……。
看護婦さんから空いているベッドを借りて少し休む事にした。
「明が目を覚ましたら起こしてくれ。頼む」
私は皆にそう言うと、深い眠りに入っていったのだった。
――目が覚めると、窓の外は夕方になっていた。
私はすぐ明の元に行った。
「明は? 何で起こしてくんなかったんだよ」
「明はずっと寝てるよ。大丈夫だよ」
香奈枝が笑顔で言ったのだった。
「少しは眠れたか?」
弘子の問いに頷いたのだった。
「楓、族の皆を待たせている。そろそろ行こうか」
浩司と誠が皆を集めてくれたんだろう。
私は皆と一緒に集会所に行く事にした。
病院から出ると、族の皆が50人位待っていた。
あいつらがどう出てくるか分からないからだった。
皆、明の代わりに私を守ろうとしてくれている。
その気持ちが嬉しかった。
「あとの皆は集会所で待ってる。行こうぜ!」
誠がそう言われ、皆と一緒に集会所に向かった。
集会所に着くと私は皆の前で話をした。
「皆、今日は集まってくれてありがとよ! 明はしばらく入院する事になったが、大丈夫だ! このままだと、いつまで経ってもケリがつかねぇ! また怪我人が出る可能性も高い! そこでだ! 直接高下組に乗り込む! そして、高下の親分と会って話をする。会う事は難しいらしいが、皆の力を貸して欲しい!」
「楓! 高下組に乗り込むのかよ?」
恵理奈が私が言った事にビックリしている様子だった。
そして、族の皆も。
「皆、あたし達、処女同盟と浩司と誠を親分の所まで行けるようにして欲しいんだ! 今回はヤクザもいる。ヤクザ相手に親分の所まで行くしかない。あたし達が親分の所にたどり着くまで、ヤクザ達を皆で力づくで止めて欲しいんだ!」
私は話を続けた。
「高下の親分は義理と人情のある人だと聞いた。手を貸して欲しい。ここまでしないと、いつまで経っても今回の件はケリがつかないと思うんだ! 明も危ない目に遭わせちまった。皆、頼む! 力を貸してくれ!」
私が話をして頭を下げると、族の皆は賛成してくれた。
「おおっ!! 任せとけ! 総長が刺されちまったんだ! 高下組に乗り込むしかねぇ!」
「親分の所に楓さんがたどり着くまで、ヤクザを殴ってでもやってやるぜ!」
族の皆が私の話を受け入れてくれた。
「楓、明はやっぱ漢だな! こんなに漢気のある仲間ばかりでさ! あたし達もやるよ!」
恭子の言った事が嬉しかった。
そして、処女同盟の皆も賛同してくれた。
族の皆は明の人柄に惚れこんだんだ。きっと……。
「俺だって明のために頑張るぜ!」
「俺もだ!」
浩司と誠も。
私は皆に感謝したのだった。
「皆! あいつらは、いつどういう手を使ってくるか分かんねぇ! やるなら早い方がいいと思うんだ! 早速明日乗り込もうと思う。朝10時に又ここに集まってくれ!!」
「おおおぉぉぉっ!!」
「皆、ありがとよ!」
私は皆に頭を下げた。
――そして、明日の昼まで時間がある。
私は明がいる病院に行ったのだった。
勿論、仲間と浩司や誠も一緒に。
すると明が目を覚ましていた。
私はマスクをしてICUに入って行った。
「明、起きてたのか……痛くないか? 大丈夫か?」
私が聞くと、明は手を出してきた。
私はその手を両手に握った。
「楓……こんな……夜遅くに……出歩くんじゃない……危ないじゃなねぇか……浩司と……誠を呼んでくれ……」
「わかった。待っててくれ」
私は浩司と誠の所に行き、明が呼んでいると伝えた。
そして、今回の作戦の事は決して言わないでくれと頼んだ。
明に余計な心配をかけたくないと思ったからだ。
浩司と誠はマスクをして明の元へ行ったのだった。
「浩司……誠……楓を……俺の……代わりに……守ってやってくれ……頼んだぞ」
「心配すんなって、族の皆して守ってるからよ」
浩司が明に心配かけないように言った。
そして、誠も。
「俺達が全力で守るから安心しろ」
「頼む……」
そして、明はまた眠ったのだった。
私が明を心配するように、明も私の事を心配している。
そして、私は皆に帰るように言った。
「皆はもう帰ってくれ。明日、また迎えに来て欲しい」
私は今夜も明の側にいる事にした。
「楓も少しは寝とくんだぞ。明日は気合入れて行かねぇとな」
「ちゃんと寝ろよ!」
仲間達の言葉が嬉しかった。
「ああ、ちゃんと寝るよ。心配すんなって!」
私は笑顔で皆を見送った。
明日はいよいよ高下組に乗り込む。
噂通り、高下親分が義理と人情のある人である事を祈っていた。
「明……必ず親分の所まで行ってみせる。今度こそ終わりにしてみせるよ。明があたしを守ったように、今度はあたしが守るからな……明」
私は眠っている明の元へ行った。
そして、明の手を握った。
「明、愛してる……」
私はそう言って明の頬にキスをした。
すると、明が目を覚ましたのだった。
「楓……今度は……寝てる時に……不意打ちか?……」
「明。起こしちまってごめんよ……」
「そんな顔……すんな……。俺は……大丈夫だから……心配すんな……楓……自分を……責めてるんじゃ……ないよな?」
明は私が自分を責めている事を分かっていた。
「俺は……楓を守れて……嬉しいんだ……。だからもう……自分を責めるな……いいな」
「でも……」
明が手出して、私の頬に手をあてたのだった。
その手を私は両手で握りしめた。
「楓……愛してる……」
「わかったよ。自分を責めないから、安心してゆっくり寝てくれ……」
そして、明はまた眠ったのだった。