34話
私は気が動転していた。
「あ、明……しっかりしろよ……救急車はまだかよ!!」
仲間の皆も寄ってきた。
「楓、救急車を呼んだから、もう来るはずだ」
「早く……明が……死んじまう……」
そして、やっと救急車が来たのだった。
私は明の側から離れなかった。
一緒に救急車に乗り、病院へ向かったのだった。
「明……目を開けてくれ……あたしを1人にしないでくれよ……頼むよ……」
族の仲間や私の仲間達も救急車を追いかけて来ていた。
病院につくと、すぐ手術が始まった。
私は涙が止まらず、ずっと泣いていた。
どうか、明が助かりますように……。
祈る事しか出来なかった……。
「明……」
私の仲間達が私を励まそうと声をかけてきた。
「楓、明は強い漢だ。きっと大丈夫だ」
恭子が私を抱きしめて、そう言ってくれた。
「明を信じるんだ。楓、明はきっと助かる」
弘子もまた声をかけてくれた。
だが、私は明の無事が確認できるまで不安で仕方なかった。
そして、浩司、誠、族の皆は悔しそうにしていた。
「あいつら絶対許せねぇ!!」
「あたしのせいだよ……明は、あたしを助けようとして……こんな目に……」
「楓、自分を責めるんじゃない。明は誰よりも楓の事を愛してる。楓を守ったんだよ」
恵理奈が私を慰めようとそう言っていたが、私は自分を責めていた。
「どうしよう……明が死んだら……あたしは生きて行けない……もう、明がいないと駄目なんだ……あたしは明じゃないと……嫌なんだよ……」
「明が死ぬわけないじゃねぇか。しっかりしろ! 楓! あんたが信じなくてどうすんだよ!」
恭子が励ましてくれた。
だが、私は全身の力が無くなっていた。
立っているのが、やっとだったのだ。
「楓、ここに座れ!! きっと大丈夫だから。明はそんなやわな漢きゃねぇよ。きっと助かる!」
弘子が私を椅子に座らせた。
「明……」
私は茫然としていた。
――どのくらい時間が経ったのだろうか?
時間の感覚もなくなっていた。
ただ、手術の時間が長く感じた。
しばらくすると、手術中の明かりが消え、中から医者が出てきた。
「先生! 明は……明は……」
私は真っ先に先生の元に行き、聞いたのだった。
「安心して下さい。命に別状はありません。しばらく入院してもらいます」
医者のその言葉に私は安堵したのだった。
そして、座り込んでいた。
涙が止まらなかった。
他の皆も同じく安堵していた。
「良かった。本当に良かった。楓。もう大丈夫だ」
恵理奈が声をかけてくれた。
すると、ベッドに寝かされ、酸素マスクを付けた明が手術室から看護婦さんと共に出てきた。
「明……頑張ったな……本当に良かった……良かった……」
私は麻酔で寝ている明に声をかけていた。
「まだ麻酔が効いてますので麻酔が切れるまでもう少し時間がかかります。それと、術後はICUに入ってもらいます。面会は短い時間だけですが出来ます。今はまだ麻酔から覚めていない状態ですのでICUの外でお待ち下さい」
看護婦さんが言う事を私は聞いていた。
今は側に居られないが、麻酔が切れるまで待とう。
明の顔が見たい。
声が聞きたい。
私達は廊下の椅子に座り、待っていた。
「楓、やっぱ明は漢だったな。簡単にくたばるヤツじゃねぇよ。良かったな」
香奈枝が声をかけてくれた。
そして、皆が私の手を握ってくれたのだった。
「皆、ありがとよ……」
「明を刺したやつら、絶対に許さねぇっ!」
浩司が怒りをあらわにしていた。
そして、誠も……。
「あいつら、ほんと腐ってやがる!!」
「これじゃあ、やったりやられたりの繰り返しじゃねぇか。どうしたらいいんだよ」
浩司が悔しそうに言った。
私は明が無事だと分かると、安心したせいか冷静さを取り戻していった。
それと同時に怒りを覚えていたのである。
そして、ある事を思いついた。
「皆、あたしに考えがある。もうこれしか方法がない! これできっちりと決着をつけてやる!」
「何だよ。どんな方法だよ」
皆が聞いてきたが、今は明の事だけを考えていたい。
「明日、皆の前で話す。明には黙っててくれ。頼む。余計な心配はかけたくないんだ」
私がそう言うと皆頷いたのだった。
「わかったよ。今は明の事が1番だもんな」
恵理奈がそう言ってくれた。
すると、看護婦さんから声をかけられた。
「目を覚まされましたよ。術後なので、あまり長い時間はご遠慮下さい。少しなら大丈夫です。あまり大勢も無理なので、どなたか1人だけ中にお入り下さい」
そう言われ、私がICUの中に入って行く事になった。
中に入る前のマスクをと言われ、マスクをしてICUに入った。
「明……」
「楓……無事だったか? どこも……怪我してないか?」
明はまだ私の事を心配していた。
「馬鹿野郎! どんだけ心配したと思ってるんだ。あたしを庇って……。もうこんな事するなよ!」
「何、言ってんだ……。俺は……お前を守るって……言っただろう……楓が無事なら……良かった……」
明は、私が無事だと分かると安心したのだろう。
眠りに入っていったのだった。
「術後ですから、まだ麻酔が残っているんでしょう。ゆっくり寝かせてあげて下さい」
看護婦さんにそう言われ、私はICUを出たのだった。
とにかく明が無事で良かった。
本当に良かった。
私は心から思ったのだった。




