3話
私達はいつものようにつるんで、たわいのない話をしていた。
「皆、この前は本当にありがとう」
美奈が私達に近づいて来てお礼を言ってきたのだった。
「何度もお礼なんて言わなくていいんだよ。当たり前の事をしただけだよ」
私がそう言うと美奈が悲しそうな顔をしながら話し始めた。
「実はお願いがあるの。放課後、屋上で話しがしたいんだけど……」
私達は顔を見合わせ、何だろう? と、思いながらも快く引き受けた。
「ああ、いいよ。じゃあ、後で」
――私達は美奈が来るのを屋上で待っていた。
しばらくすると、美奈がやって来て話をし始めた。
「ごめんね。こんな所に呼び出して。実は私の妹の友達が先月レイプされたの……3人の男に……。親にバレないように普通にしていたらしいんだけど……この前、本屋に立ち寄った時にレイプされた男の1人が居て……制服でわかったらしいんだけど、進学校の鹿代高校の制服着てたの。その男を見ただけで震えが止まらなくなったって言ってたらしいの。その子が毎日辛くて悔しい思いをしてると思うと許せなくて。だから、お願い! その子のために懲らしめて欲しいの」
私達は唖然とした。
今までレイプされた子がどのくらいいるんだろう?
知らなかっただけで、もしかしたら他にもいるのかもしれないと。
「妹のダチって中学生か?」
恵理奈が美奈に向かって質問した。
「うん。中学3年生。受験生だから本屋に……」
美奈が悲しそうな顔で返事をしたのだった。
「3人で1人の子をレイプしたのかよ!? 絶対そいつら許せねぇ!! しかもその子は中学生だろうが!!」
弘子が怒りを抑えきれなかったのだろう。
グーで屋上の網のフェンスをパンチしていた。
「わかった。あたし達に任せな! レイプされた子、一緒に鹿代高校に行ってくんねぇかな? 男の顔知らねぇし。その子は怖いだろうけど、あたし達が側にいるからって言って説得してくれよ? その変わり、ケリつけてやるよ!」
私はレイプされた子を連れ出し、一緒に行く事は酷だとは思ったが、男を顔を知っているのはその子しかいない。
遠くからその男を特定してもらう事にした。
「うん。ありがとう。説得してみる」
美奈は真剣な顔で言ったのだった。
――数日後、
美奈の話だと、その子は一緒に行く事を怖がっている様子だったようだ。
だが、このままじゃ生きているのが辛い。
と言っていたそうだ。
それを聞いて私達は1度その子に会う事にした。
1度会っておけば少しは安心するだろうと思ったからだ。
そして、鹿代高校には一緒には行くが、遠くからその男がわかればいいと伝えた。
私達はその子に必ず仕返しをすると約束した。
――後日、私達は待ち合わせをして鹿代高校に向かった。
そして、遠くからその子と一緒に待ち伏せした。
「そいつが出て来たらあたし達はそいつに声をかける。あんたはそのまま帰っていい」
私がそう言うと、その子は頷いたのだった。
それと同時に私の手を握ってきたのである。
怖い気持ちを抑え、震えながら男の姿を一生懸命探していた。
その姿を見て、その子の今回の勇気に私は尚更応えたい! という気持ちが大きくなっていった。
「あ……」
その子が声を出した。
「どいつ?」
私が聞くと、その子は震えた指を差し出し1人の男を指さした。
「あ、あの人……今、正門の前で誰かと喋ってる。右側の人……」
「わかった。あんたは帰っていい。後はあたし達に任せな!」
私がそう言うと、彼女は走って帰って行った。
私達はすぐその男の元に駆け寄った。
「ちょっとあんた!! 顔貸してくんない?」
私がガンつけながら話かけると、びっくりした様子だった。
「何だい? 君達は?」
男は恐る恐る聞いてきたのである。
「あんたさぁ。中学生レイプしただろ?」
恭子がその男に向かって小声で言った。
男は明らかに戸惑っていた。
しかも学校の正門。
学生達がたくさんいる。
「ここで話してもいいのかよ?」
香奈枝がそう言うと、男は慌てて歩き出した。
その後を私達はついて行った。
人影が少ない所まで行くと
「何の証拠があるって言うんだい?」
男が口を開いたのだった。
「あんたにレイプされた子がさっきまで一緒にいたんだよ! とぼけんじゃねぇよ!! このカスが!」
男は明らかにビビッていた。
「明日、夕方6時、山ヶ丘公園で待ってる。あとの2人も連れて来な! 逃げたら強姦罪でサツに言うからな!」
私がそう言うと、男は走って帰って行ったのだった。
山ヶ丘公園というのは、山林の中にあってあまり人が来ない場所だ。
来る人と言えば、たまにヤンキーが来て溜まり場にしている場所である。
――次の日。
私達は学校が終わると山ヶ丘公園に向かった。
6時までまだ時間があったが、それまで待つ事にした。
「あいつ、あとの2人連れて本当に来んのかな!?」
多可子が男達が本当に来るかどうか疑っている様子だった。
「進学校の生徒だ! レイプした事がバレれば大変な事になる。絶対に来るよ!」
恭子が確信した様子で言った時だった。
男が3人でやって来た。
「あとの2人もちゃんと来たんだ!」
私がガンつけながら言うと、きのうの男がナイフをズボンのポケットから出して私に向けて来たのだった。
「お前ら! きのうはよくもこの僕に恥をかかせてくれたな!」
「ちょっ!! あいつナイフ持ってやがる!!」
多可子が男がナイフを取り出したのを見て、持っていた鉄パイプを握りしめた。
皆もそれぞれの武器を持って構えた。
「ナイフなんか持ってどうするつもりだよ!」
私はナイフを持っている男に近づいて行った。
「楓!! 何やってんのさ!」
誰が何を言っても私は聞く耳を持たなかった。
ナイフを持っている男は、私が段々と近づくにつれ、手が震えだした。
「ナイフでこのあたしが刺せるのかよ!? 出来もしねぇくせに! 馬鹿じゃねぇの?」
私はその男が持っているナイフの両手を私自身の両手で掴んだ。
そして、そのナイフを私の胸に向けた。
「やれるもんなら、やって見な!!」
男は私の行動にビビッて手を振り払い、ナイフを下に落とすと座り込んで謝りだした。
「悪かった。進学校で、勉強、勉強で……僕達は、憂さ晴らしがしたかったんだ」
あとの2人も同じく謝ってきた。
「す、すみませんでした。もう2度としません。許して下さい」
「憂さ晴らしでレイプなんかすんじゃねぇよ!! あの子に2度と近づくな!! これで許されると思うな! 乙女の純情を何だと思ってやがる!!」
私は男達に怒鳴って、木刀で腹を1回ずつ殴ってやったのだった。
「消えな!!」
そう言うと、男たちは逃げるように走って帰って行った。
すると私は皆に叱られた。
何であんな危ない行動を取ったのか?
ヘタしたら刺されていたかもしれない。
と……
私は子供の頃から親に虐待されて育った。
何のために産まれてきたのか?
家族愛というものを知らないで育ったのである。
小学生から中学1年までいじめにもあっていた。
原因は家が貧乏だからという理由だった。
私はいつも孤独だったのである。
死にたい。
と思っていた時期もあった。
私には怖いものはない。
いつからか、そう思っていた。
誰からも愛されず、虐待されて育った私は、どこかでどうにでもなれ。
という気持ちがまだ残っていたのかもしれない。
でも、今は仲間がいる。
私の事を心配してくれる仲間が……
私は改めて、今つるんでいる仲間達に感謝したのだった。