29話
――次の日
私は明から聞いた事を皆に話した。
最近は、皆とゆっくり話す時間があまりない。
送り迎えしてもらうようになってから、話す時間が限られている。
朝、授業が始まる前、休み時間、昼休み。
1番話せるのは昼休みだ。
帰りは迎えが来るので、それまでの間だけ。
そして、昼休みに真奈美を屋上に呼び出して7人で話をする事になった。
「やっぱり、チンピラだったのか。その男2人をリンチしたら仲間を連れて仕返しに来るかもな」
弘子が武史の時みたいになるかもしれないと思ったのだろう。
私もそれは考えていた。
「武史の時みたいに必ず仕返しに来るだろうよ。それを覚悟しておかねぇと……」
私はやはり、どこか不安だった。
それを恭子が悟ったのか、口を開いたのだった。
「楓、今回は相手が悪すぎる。止めてもいいんじゃねぇか? 悔しいけどよ」
「でも、そいつら真奈美だけじゃなく、どれだけの女をレイプして来たか。それを思うと……これからも同じ事をするだろうよ」
確かに止める事は簡単だ。
しかし、そいつらをこのまま好き勝手にはさせられない。
「皆、危険すぎる。もう敵をとらなくていいから……」
真奈美が心配してなのか? そう言ってきたのだった。
「とりあえず、あんたには情報だけは教えた。これから先はあたし達の問題だ。敵をとったら教える」
私は真奈美にそう言って自分のクラスに帰らせた。
「あとは明達がどういうやり方で、そいつらをリンチするかだ。それと、必ず仕返しに来るはずだ。今度の集会で明の話を聞こう。皆、くれぐれも気をつけてな」
私達には明や浩司、誠、暴走族の皆がいる。
だが、私と同じく、みんな不安を隠せない様子だった。
その男2人、リンチするのは簡単だ。
でも、仕返しをしてくるのは目に見えていた。
どういうやり方でくるかわからない。
恭子は浩司の事を案じ、香奈枝は誠の事を案じていた。
勿論、私は明を……。
「皆、不安だよな。けどよ、自分や明達を信じよう。そんな虫ケラみたいなヤツラに、これ以上好きにはさせない!」
私は力強く皆に言ったのだった。
誰かが止めなければ、また犠牲者が出る。
女はまた泣き寝入りする事になる。
それをいいことに、そいつらはまた女をレイプするだろう。
「そうだよな。皆で力を合わせて乗り切ろうぜ」
香奈枝が皆に声をかけた。
「あたし達は処女同盟だ! それに、明達もいる。族の皆も。皆でそいつらを懲らしめよう」
――そして、集会の日がやって来た。
明は族の皆にホームレスの男から聞いた事を話したのだった。
「おめぇら!! 相手はチンピラだ!! 今回はチンピラ2人を拉致してリンチする! だが、リンチしたら仕返しに来る可能性が高い。ヘタしたら危ない目に遭うかもしんねぇ! 俺に力を貸してくれ!!」
明は皆に、今回はいかに危険か話をした。
だが、誰も動かなかった。
「仕返しが怖くてここで逃げたら漢じゃねぇ。俺は総長について行くぜ!」
「俺もだ! チンピラなんか怖くねぇ!」
「戦う時は一緒だ! 漢ってもんを見せてやろうぜ!」
族の皆は明についていく事を心に決め、残ったのだった。
「おめぇら!! ありがとよ! 仕返しされても俺達は絶対に負けねぇ! そいつらにほんとの漢ってもんを見せてやろうじゃねぇか!!」
そして、皆一斉に
「おおおぉぉぉっ!!」
と声を上げたのである。
次に明は作戦を話し出した。
ホームレスの男の所へ行き、そこで2人のチンピラを待ち伏せする。
顔はホームレスの男が知っているので、その2人が現れたら教えてもらう。
そして、2人のチンピラが車から降りたところで、その2人が乗って来た車で拉致し、ここに連れてくる。
2人のリンチは明が1人で行う。
と、いう事だった。
「ちょっと待てよ! 明1人でリンチすんのかよ?」
私は明に聞いた。
「2人相手に、族の皆とじゃ、人数が違いすぎる。ここは俺1人で十分だ! だが、必ず仕返しに来るだろう。そん時は皆と一緒に戦う」
明はチンピラ2人に対して、族100人は漢としてのプライドがあるのだろう。
1人で十分だと言った。
「なら、処女同盟の頭としてあたしも一緒に戦うよ! これで2対2で文句ねぇだろ!」
私の言った事に明は承諾した。
「ああ。わかった。楓、一緒にやろう!」
私達の仲間も納得してくれた。
「けど、向こうが仕返しに来た時はあたし達もやるよ!」
弘子が言った。
そして、恭子、恵理奈、多可子、香奈枝も。
「ああ、皆、そん時は一緒だ!」
私はそう答えたのだった。
そして、2人の男を拉致するには、数名の男がいないと拉致する事はできない。
明と、浩司、誠、後、3名は欲しいところだ。
「拉致すんのに、後3人はついて来て欲しい! 誰か一緒に行ってくれるヤツはいねぇか!」
すると、みんな手を上げたが、明はその中から3人を選んだ。
拉致するのに、6人。
そして、あとの族の仲間は男達が逃げないように、バイクで囲む事。
万が一、他にその2人の仲間が側にいた場合、拉致するのを妨害させる事を皆に話した。
私達、処女同盟はここで待機。
それが明の考えだった。
「よし! おめぇら!! これで決まりだ! 明日から張り込む。おめぇらも頼んだぞ!」
「おおおぉっ!!」
いよいよ、明日から作戦開始になった。
私達はより一層、気を引き締めて挑まなければならない。
私達、処女同盟も、皆して手を合わせた。
「皆、今回は今までとは違う。今回の件がキッチリ終わるまで時間がかかるだろう。決して油断すんじゃねぇぞ!」
私は皆に声をかけた。
「ああ、わかってるよ。楓」
皆、真剣な顔立ちをしていた。
「明日、学校が終わったら、一旦ここに集まってくれ! 俺の車はここに置いて行く。バイクで皆一緒に行こう!」
明がそう言うと解散したのだった。
そして、明達と私達だけが残った。
「浩司、ケガすんじゃねぇぞ! ケガしたらぶっ殺すからな!」
恭子が心配そうに言ったのだった。
「恭子、おめぇにぶっ殺されたら、意味ねえじゃねぇか」
浩司が笑いながら言った。
そして、香奈枝も誠の事を心配していた。
「誠、気をつろよ! ケガしたらキスしてやんねぇからな」
香奈枝の言った事に皆で吹いた。
誠は照れていたが、香奈枝の心配する気持ちは分かっているようだった。
「全く。香奈枝には敵わねぇな。今ので緊張がほぐれたわ!」
私は香奈枝に感謝したのだった。
本人は真剣に言ったのだろうが、私達からしたら可笑しくて笑いが止まらなかったのである。
「誠、ちゃんと返事してやれよ」
明が笑いながら、誠に香奈枝に返事をするように言ったのだった。
「ケガなんかしねぇから大丈夫だ」
相変わらずクールというか、多分、本人は恥ずかしくてたまらないのだろう。
「うん。じゃあキスしてあげてもいいぞ」
香奈枝は恥ずかし気もなく、誠を後ろから抱きしめたのだった。
「あ~あ、見てらんねぇっつ~の」
恵理奈が羨ましそうに言ったのだった。
「最近はこうして、皆とゆっくり話す機会が少なくなったからな。話と言えば、例のチンピラ2人の事だったし。今回の件が終わったら、また皆でディスコ行こうぜ!」
明の言った事に、恵理奈、弘子、多可子が声を大にして答えた。
「チークタイム踊ってくれる人いねぇし」
「明、いい漢紹介してくれよ~」
「楓達はいいよな。彼氏がいるし」
皆、やっぱり恋がしたい年頃。
私達を見てたら、尚更彼氏が欲しくなる気持ちも分かる。
「紹介されても、お互いが好きって気持ちにならねぇと意味ねぇじゃないか。バイクで送る迎えしてるやつらはどうなんだよ。そこから恋が始まるかもしんねぇし」
私は聞いてみた。
いつも朝、夕、バイクで送り迎えしてくれる族の仲間達。
少しくらいは話をしててもおかしくないはずだ。
「確かにいいやつらだ。そういえば、結構いい顔してたなぁ」
恵理奈がそう言った。
すると、弘子、多可子も何か妄想したのか? 急に私の背中をバシッと叩いて照れた様子だった。
「うん。ほんと、漢気があるって感じなんだよな~」
「何だよ。いてぇな~。もしかして、気になってるところじゃねぇの?」
私は明らかにこの3人は、送り迎えしてくれるやつらを意識している事に気付いたのだった。
「明、紹介する必要はねぇよ。3人共、意識してるよ」
私がそう言うと
「そんなのまだわかんねえじゃねぇかよ~」
3人共、気づいていないだけで、意識してるのは確かだと思った。
「送り迎えしてくてるヤツって名前は?」
私が聞くと3人共一斉に答えようとした。
「はいはい。1人ずつだよ」
弘子は祥。
恵理奈は伸次。
多可子は隼人。
「皆いいやつらばかりだ。彼女もいねぇし」
明がそう言うと、3人してキャーキャー言い出したのだった。
「明、これはもう、ほっといたほうがいいかもな」
「ああ、そうみてぇだな」
「さぁ、そろそろ帰るぞ! 3人共俺がケンメリで送るから車に乗れよ」
こうして私達は家まで送ってもらったのだった。
3人は車の中でもまだキャーキャー言っていた。
そこはやはり女の子。
恋話は楽しい。
久しぶりに3人の楽しそうな姿を見て、私も何だか嬉しかったのである。




