28話
次の集会の日がやって来た。
明が1つ考えがあると言ってきたのだった。
塾は繁華街だが、ホームレスもいる。
そのホームレス達に金を払って情報を聞き出そうという事だった。
「おめぇら! 聞いてくれ! ホームレスの人達に聞き込みをしてみる! 今回は大勢で行くと目立つからよ。俺と浩司と誠で聞き込みをする事にした! 結果は今度の集会で話す! いいな!!」
私達は明の言う通りにする事にした。
「楓達も今回は俺達に任せて、家で待機しててくれ。これまでどおり送り迎えはする。決して1人で外出するな。わかったな」
「わかった。皆、明の言う通りにしよう」
私からも皆に言ったのだった。
すると、恵理奈、弘子、多可子が突然明に声をかけた。
「明、あたし達も彼氏が欲しいんだ。誰かいいヤツを紹介してくれよ。楓達を見てると羨ましくて仕方ねぇんだよ。あたし達も彼氏に守られてみたいんだ」
「馬鹿! 今大事な話をしてるのに何言ってんだよ!」
私は、恵理奈達の言った事に恥ずかしくなったのだった。
彼氏が欲しい気持ちはわかるが、今そんな事を言わなくてもいいのに……。
そう思ったのである。
「ああ、いいぜ! だが今回の件が終わったらな! その前にこの中から好きな人が出来れば別だけどよ」
やっぱり明は優しい。
友達を大切にする人なんだ。
どんな時も動じない。
私は惚れ直したのだった。
――そして、明達は私達の送り迎えをしながら、ホームレス達に聞き込みを始めたのだった。
何人か聞き込みをしたが、知らないと言われた。
やはり今までと同じ返事が返ってきた。
何日か粘って行くうちに、1人のホームレスの男が如何にも金をくれと言わんばかりに、足元に置いてあった空き缶を拾い上げ、指先でコンコンと鳴らした。
明はその空き缶に金を入れた。
すると、ホームレスの男が口を開いたのだった。
「あいつらは、ここら辺じゃ有名なチンピラだ。皆、何も言わないのも何をされるか分からないからだ。時々現れては女を無理やり車に押し込んで連れ去って行く。きっと、レイプしてるんだろうな。女達には悪いが、俺らが口出し出来るヤツラじゃねぇ。女を連れ去るところを、もう何度も見てる」
「どんなヤツラなんだよ。そいつら」
明達が聞くと、そのホームレスは又空き缶を鳴らした。
お金をまた入れると話を続けた。
「あいつらは、高下組のヤクザのチンピラだ。チンピラは沢山いる。その中でもあいつらは好き勝手やっているみたいだ。高下組の親分は義理と人情のある人だ。あいつらの事を知ったら怒るだろうが、簡単に会える人じゃねぇ」
ホームレスの男は話を続けた。
「あんたらは、あいつらに何する気だ」
「そいつらにレイプされた女がいるんだ。仕返しをしてぇんだよ!」
明がそう言うと、ホームレスの男は空き缶をちらつかせた。
明はまた金を入れた。
「そうか。なら今度はいつ来るか分かんねぇけど、ここにいれば必ず姿を現す。あんたら怖くねぇのか? あいつらは人じゃねぇ、何するか分からん」
「ああ、怖くなんかねぇよ。ありがとよ、おじさん。恩に着るぜ!」
明がお礼を言うと
「十分気をつけねぇとケガをする。頑張れよ」
「ああ、大丈夫だ。また来る。そん時はおっさん、そいつらを俺達に教えてくれねぇか。金はまた渡す」
明がそう言うとホームレスの男は頷いたのだった。
――次の日、明が私を学校まで迎えに来た。
そして、昨日、ホームレスの男から話が聞けた事を話してくれた。
「やっぱりチンピラだったのかよ。しかも高下組って言ったら有名なヤクザじゃねぇか」
私は少し心配になっていた。
明達を巻き込んでしまった事に……。
「ああ、だけど高下組の親分は義理と人情のある人らしい。直接話が出来ればいいが、中々会える人じゃないみてぇだ。そのチンピラが顔を出すまで、そのホームレスの男のところで張り込むしかねぇな」
「あたし達がリンチするよ!」
私は明達をもうこれ以上、巻き込みたくないと思った。
だが、明は私達、女だけでは心配だと言った。
「今度の集会で皆に話す。そして、皆でケリをつける。楓、心配すんな。俺達は大丈夫だ」
「じゃあ、あたし達も行くよ。一緒にやる。あたし達は処女同盟だ。敵を取るって約束したんだ。一緒に敵を取ろう。明、元々はあたし達が引き受けた事だ。厄介な事に巻き込んじまってごめんよ」
私は明に謝った。
そして、一緒に行く事を頼んだのだった。
やる時は一緒に……。
そう思った。
「分かった。けどケガすんじゃねぇぞ! まぁ、俺が楓を守るけどな」
明は笑顔で言った。
けど、胸騒ぎがして仕方なかった。
いくら大勢いる暴走族でも、相手はチンピラ。
どう出てくるかわからない。
「明……」
「心配すんなって! 俺も漢だ。やる時はやる。それより又少しドライブして帰るか」
明はいつもの明だった。
頼もしさもあったが、やはり私は嫌な予感がして不安になっていた。
明を信じるしかない。
そして、また海が見える所まで行き、そこで車を止めた。
「楓、そんな顔してねぇで、いつものマブイ笑顔を見せてくれよ」
「明……。そうだな。あたし達は仲間がいる。皆でそいつらをやっつけよう」
私はそう言って、明に笑顔を見せたのだった。
「やっぱ楓はマブイなぁ~。いくらでも見ていられるぜ! 俺の大切な女だからな」
私は明に寄り添った。
どうか、明がケガをしませんように……。
そう願った。
すると、明は私を優しく抱きしめたのだった。
「楓、一緒にチーク踊った時の事、覚えてるか?」
「ああ」
「楓は恥ずかしそうに下ばっかり向いてたよな。可愛くて可愛くて、ほんとはあん時、ぎゅ~って抱きしめたかったんだ。けどよ。急にそんな事したら嫌われるのが怖くて出来なかったんだ。楓はマブイしよ。俺の自慢の女だ。愛してるぜ」
私は明とチークを踊った時の事を思い出していた。
あの時は恥ずかしくて、どうしていいか分からなかった。
あんなに心臓がドキドキしたのは生まれて初めてだったからだ。
いつの間にか、明の事を好きになっていた事に気付いて、やっと返事が出来た。
明と出会えて、こうして今一緒にいる時間を大切にしたいと思ったのである。
これからも……。
ずっと一緒に……。
「楓、これからも俺の側にずっといてくれ」
明は私と同じ事を考えていた。
それが凄く嬉しかった。
「ああ、ずっと側にいるよ。浮気したら殺すぞ!」
私は沈んでた気持ちを吹き飛ばすかのように、明に向かって言ったのだった。
「浮気なんかするもんか。楓みたいないい女は他にはいねぇ。俺は幸せもんだぜ」
「だろ? この楓様が明の女なんだぞ! 有り難く思えよ。この幸せ者め~」
私はふざけて言った。
すると、明がキスをしてきたのだった。
私達は何度も何度もキスをした。
「誰にも渡さない。俺だけの楓だ」
「うん。明も……あたしだけの明だ」
私達は最後に、おでこをコツンとつけたまま、しばらく見つめ合っていた。
そして、2人で吹き出したのだった。
「にらめっこじゃねぇんだからさ~」
2人で腹を抱えて笑った。
「確かに! さぁ、そろそろ帰るか。 ホントはもっとずっと一緒にいたいけどよ。お姫様をきちんと送らねぇとな」
「うむ。苦しゅうない」
私がふざけて言うと明は笑っていた。
こうして家まで送ってもらったのだった。
「じゃあ、また明日の朝迎えに来るからよ。家から出んじゃねぇぞ! 愛してるぜ! 楓!」
「分かってるよ! 大きな声で言うんじゃねぇよ! 恥ずかしいだろうが! ば~か! じゃあな」
こうして、明は帰って行ったのだった。




