22話
「楓! 起きろ!」
寝ている私に誰かが声をかける。
「う~ん。もう少し……」
「楓~!! 起きろってば!」
私は眠い目をこすりながら仕方なく起きたのだった。
「何だよ……」
弘子が慌てている様子だった。
「ディスコに行くんだろ? 寝過ごしちまったよ!」
弘子の言った事に、私は慌てた。
「今、何時だよ?」
「6時だよ! 7時に明達が迎えに来るから、早く準備しねぇと!」
私達は、どうやら寝過ごしてしまったらしい。
明達が迎えに来るまで1時間しかない。
「マジかよ! 風呂にも入りてぇのに!」
私達は急いで準備をした。
弘子の家のお風呂を借りて順番にシャワーを浴びた。
だが、1時間でシャワーを浴びて準備するには到底、無理があった。
「少しくらい待たせてもいいんじゃね~の。せっかくのディスコだ! お洒落して行かねぇと」
恵理奈の言う事に私達は納得しつつ、それぞれ急いで準備をしたのだった。
そして、30分くらい遅れて明達の元へ行った。
「わりぃ。寝過ごしちまって、待たせてたな」
私達は明達に謝った。
「気にすんなって。俺たちは一々気にするような漢じゃねえよ! だけどよ、今日は箱乗りしてディスコに行くわけにはいかねえから、4人は俺の愛車に乗って、あとの2人はバイクに乗ってくんねえか。楓はこっちに乗れよ!」
浩司と誠はバイクで来ていた。
私は明の言う通りケンメリに乗る事にした。
「恭子は俺のバイクの後ろに乗れよ!」
浩司が恭子をバイクの後ろに乗るように言ったのだった。
「あ~? せっかくの髪型が崩れちまうじゃねぇかよ!」
恭子は髪型を気にしてバイクに乗りたがらなかった。
「いいから、こっちに乗れよ! 恭子! ほら、早く」
浩司の言う事に、恭子は渋々バイクに乗ったのだった。
そして、あとの1人は誰が誠のバイクに乗るか、私を抜いて4人でじゃんけんで決める事にした。
だが、香奈枝が自分から乗ると言い出した。
「あたしが乗るよ」
こうして、誠のバイクの後ろに乗るのは香奈枝に決まった。
「よし。行くぞ!」
明の一言でディスコへ向かったのだった。
皆ワクワクしていた。
早くディスコに着かないかと心待ちにしていた。
しばらくすると、ある駐車場に車とバイクを止めた。
バイクから降りた恭子と香奈枝は、髪型を気にしていた。
「可笑しくねぇか?」
風で髪型が少し崩れていたが、皆で手ぐしで直してやったのだった。
「うん。これで大丈夫だ。マブイぞ恭子」
そして、生まれて初めてのディスコ。
会話も出来ない程の音量でディスコ曲が流れ、若い男女が楽しそうに踊っていた。
暗いディスコホールを、ミラーボールが回りながら色とりどりの明かりで照らしていく。
その光景に私達は魅了されたのだった。
皆で一旦席に座り、飲み物を頼んだ。
そして、ディスコ曲に合わせて好きなように楽しく踊ったのだった。
今までは港で踊っていたが、やはりディスコだと断然違う。
何よりディスコの雰囲気が尚更気分を高めてくれる。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。
私達は、無我夢中で踊ったあと、席に着いて飲み物を飲んでいた。
すると、急に静かな曲が流れたのだった。
ディスコでは最後にチークタイムがあると、明が教えてくれた。
そして、男達はチークダンスを一緒に踊ってくれる女性に手を差し伸べる。
誘われた女性は、それを断らないのがマナーだという事だった。
勿論カップルは自然とお互いにチークダンスを踊る。
明が私に手を差し伸べてきた。
私は戸惑っていた。
浩司は恭子に手に差し伸べていた。
私達はどうしていいか分からなかった。
「楓、俺と一緒に踊ってくれないか」
明にそう言われたが、恥ずかしくて言葉が出なかったのである。
「断らないのがマナーだぜ! ほら、来いよ!」
明は私の手を取ってホールに連れて行ったのだった。
「ちょっ。待った……。恥ずかしいじゃねぇか……」
私は恥ずかしくて思わず下を向いていた。
すると、明は私の両手を自分の首にまわし、私の腰に両手を置いて踊り始めたのだった。
「楓。俺に合わせて踊ればいい。下ばかり見てねぇで、こっちを見ろよ」
そう言われたが恥ずかしくてたまらなかった。
私は明に恥をかかせられない。と思い、仕方なく一緒に踊ったのだった。
「楓、俺達と最初に話した日の事を覚えているか?」
明は踊りながら聞いてきた。
「あ、あぁ……」
私は初めてのチークダンスを恥ずかしながらも、何とか踊ろうとしていた。
「楓達は、俺達と知り合ったのが、あの日が初めてだと思っていただろうけどよ。実は楓達がファミレスに初めて皆で来た日に俺達はいたんだ。それで、俺はおめぇに一目惚れしちまった。何とか自然と声をかけられねぇか?って、それで、車の免許を取って楓達がいつも窓際に座ってるのを知ってた俺は、窓際からすぐ見える所にケンメリを駐車してたんだ」
明の言った事に私は何故かドキドキしていた。
「ケンメリを見てはしゃぐ楓達に声をかけた。楓と一緒にいるたびに、どんどん好きっていう気持ちが強くなっていったんだ。楓、俺はお前一筋だ。俺の女になってくれねぇか」
明からの突然の告白だった。
今まで、たくさんの男達に告白された事はあったが、私は心臓の音が明に分かってしまうんじゃないかと思うくらい、ドキドキしていた。
こんな気持ちは初めてだった。
「そ、そんな事、急に言われても……」
私は恥ずかしくてずっと下を向いたままだった。
「返事は今すぐじゃなくてもいいぜ! 俺はいつまでも待ってるからよ! 楓一筋だから」
明のその言葉に私は頷く事しか出来なかったのである。
そして、恭子も浩司とチークを踊っていた。
よく見るとお互いに頭を叩いたりして、相変わらずふざけている様子だった。
初めてのディスコに皆は興奮が収まらない程だった。
私はというと、明からの突然の告白に戸惑っていた。
まだ心臓がドキドキして、明を見る事が出来なかったのである。
こうして私達はディスコを後にし、帰ろうとした時、浩司が赤い薔薇を1輪持って来て、恭子の前に来たのだった。
そして、赤い薔薇を恭子に差出し、緊張した様子で
「恭子! おめぇが好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
浩司が恭子に告白したのだ。
「何で? あたしなんか……」
恭子は浩司の告白を聞いて、涙を流し始めたのだった。
「あたしは……」
恭子は自分がレイプされた事を浩司に言うんじゃないかと思い、私は止めに入ろうとした。
だが、恵理奈に止められたのだった。
「浩司、あんたはいいヤツだ……けど、あたしは汚されてしまった。レイプされたんだよ! それでもあたしの事を好きだって言えるのかよ?」
恭子は自分がレイプされた事を浩司に話した。
すると、浩司は優しく恭子の事を抱きしめたのだった。
「恭子、恭子は恭子だ。好きな気持ちに変わりはねぇよ。辛い思いしたな。おめぇのその傷を俺にも分けてくれないか」
浩司のその言葉に恭子と私達は感動した。
やはり、浩司は漢だった。
「こんなあたしでもいいのかよ?」
「ああ、俺は、恭子。おめぇがいいんだ。恭子一筋だ!」
私達は恭子と浩司の側に行って、恭子に薔薇を受け取るように言った。
そして、浩司に恭子の事を頼む! と言ったのだった。
「浩司、ありがとよ……ありがとう」
恭子は涙を拭いながら、浩司から真っ赤な薔薇を受け取ったのだった。
浩司は恭子をレイプしたヤツを懲らしめてやる。
と、言っていたが、私達が仕返しをした事を話した。
そして、今後はレイプの事は口に出さないで欲しいと頼んだ。
何より、これからは浩司が恭子を守って欲しい。
そして、誰もが羨む恋愛をして欲しいと私達は願った。




