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ヤンキー『処女同盟』   作者: 一葉 ミサト
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2話

「可愛くない子! 醜い子!」


 ――そう言われながら私は育った。

 だから私はブスで醜い顔だと思い込んで成長した。

 幼い時から自分に自信が持てなかったのだ。


 けれど、それは高校生に上がったと同時に“事実と違う”事を認識し始める。


 と言うのも、高校生になってから私は急にモテだしたのだ。

 初めて男の子に告白された時、不思議で仕方なく、むしろバカにされているのかとすら思った程だ。


 それからも、こういう事は何度か続いた。

 ラブレターを貰ったり告白される度に、もしかして私って可愛いのかと疑問に思うようになった。


 ――そんなある日の下校時。

 私はいつものように腕を組んで歩いていた。

 そんな私の“癖”を見て、仲間達は笑う。


「腕を組みながら歩いてると、いかにもヤンキーって感じだよな! そんな事すんのって楓ぐらいしかいね~よ」

「いや、ヤンキーだから!」


 茶化されつつ、私は疑問に思っていた事を仲間に聞いてみる事にした。

 

「なあ……あたしってもしかしてマブイのか?」

「何言ってんだよ楓。あんたはうちらの中じゃ一番の美人じゃねぇか!」


 恵理奈がそう言うと、他の仲間も次々と同意した。


「あたしらは楓の引き立て役だもんな!」


 恵理奈にそう言われ、私は自覚した。

 そうか、あのクソ親に言われていた事は間違いだったのだと。

 仲間にも太鼓判を押され、いつしか私はブスではなく本当は美人なのだと確信した。


 そして、それが分かってからの私はどんどん高飛車になっていった。


 ある日の事――


()()つけてんじゃねぇよ! ケンカ売ってんのか? お前!」


 いきなり目の前で歩いていた粋がった女ヤンキーに怒鳴られた。

 私は遠くを見る時、目つきが悪く見えてしまうようで、他のヤンキー達に声をかけられる事も珍しくはなかった。

 視力が悪いせいもあるだろう。


「このあたしに向かってケンカ売ってんじゃねぇよ! ブスが!! 鏡見てから声かけろ!」 


 いつの間にか、これが私の口癖になっていた。

 過去の反動からか、自分が美人だと分かってからは相当な高飛車ぶりを発揮していたのだ。

 私の仲間達も皆可愛く綺麗な子ばかりだった為、単純に外見を妬む女ヤンキーは多いようだ。


「可愛いからって、調子に乗んじゃねえよ!」」


 私はその言葉が可笑しくて、ついつい大笑いしてしまう。


「あのさ~! それって自分がブスって認めてるからそう言ってんのかよ? あんた馬鹿か?」


 そう言うと、その女ヤンキーどもは顔を真っ赤にし、プイッ! としてそそくさとその場を後にした。

 とんだ小物だ。喧嘩を売る相手はちゃんと選べってんだ。

 それを見ていた仲間も大笑いする程だった。


「何だったんだよあいつら?」


 いつも決まって恵理奈がそう言って笑い、他の仲間達も一緒になって笑っていた。

 そうやって私達は何でも笑いにしていたのだった。

 だからこそ、むやみにケンカはしなかったのである。


 こんな感じで私達はいつも一緒だった。

 学校では授業はほとんど聞いていない。

 ノートを小さく破って落書きや手紙を書いて、それを回して遊んでいた。


 学校が終わるとファミレスや学校の屋上に行って、お喋りしたり少女漫画を買って来て読んだり。

 話といえば、アイドルの事もだが、恋話がほとんどだった。

 少女漫画を読んでいたせいか――こういう出会いがいいとか、こういう恋愛がいいとか、ヤンキーでありながら結構乙女チックな出会いや恋愛を妄想したりもしていた。

 お互いに妄想話をし合ったりして、はしゃぐ事も多かった。

 結構お茶目なところもあったのである。


 ただ、恵理奈だけはそんな日々の中で、時折切ない眼差しでどこかを見つめている時があった。

 私が高校生になって初めて出来た友達の恵理奈は、普段はとにかく明るくてよく喋る女の子なのに……だ。


 私達の中では1番のお喋りなのに――きっと理由はアレしかない。

 私はある日、それとなく恵理奈に聞いてみた。

 恵理奈が中学2年の時、家族が留守中に叔父がやってきてレイプされた事。

 私達は恵理奈に復讐してやろうよ! っと、話を持ち掛けてみたのだが、断られてしまった。


 恵理奈が言うには、あの時の事はもう忘れたい。


 ――それが答えだった。


 話によると、その叔父は今は親戚のいる他の県で働いているとの事だった。

 私としては、恵理奈の純情を汚した男をそのままほおって置く事は許せなかった。


「なあ恵理奈。このまま『処女同盟』を続けて行くのは、恵理奈にとって辛いんじゃねぇの? 過去の事を思い出さずにはいられねぇだろ? 無理しなくてもいいんだよ。抜けたとしても今まで通りマブダチだからさ!」


「いや、抜けるつもりなんかねぇよ。この傷は一生消える事はない。それより、あたしみたいにレイプされた子がいて仕返ししてやりたい! って思う人がいたら力になりたい」


 恵理奈はそう答えたのである。


「そっか。そうだよな。乙女の大切な純情を汚されたら一生その傷は残る。そっとして欲しい人もいれば仕返ししてやりたいって思う人もいる。仕返しなんて出来ないで泣き寝入りする女が殆どだろうけど……それは人それぞれ考え方が違ってもおかしくねぇし。あたし達はあたし達の出来る事をしよう」


 私達は恵理奈の気持ちを尊重する事にした。

 そして、新たな思いを胸に、この『処女同盟』を続けて行く決意をしたのであった。

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