16話
弘子は徐々に元の元気な弘子に戻っていった。
私達は弘子の家に集まり、少女漫画を読む事がほとんどだった。
時には泊まったりして、皆と楽しく過ごした。
そして、明達と一緒にドライブに行く事も多くなっていたのである。
しばらくは平穏が続いた。
このまま平穏が続く事を願っていた。
「そう言えば、もうすぐ花火大会じゃねえのか?」
恭子が思い出したかのように言った。
「そう言えば、そうだな。皆で行くか」
私は花火大会の事をすっかり忘れていた。
夏と言えば花火大会。
6人揃って行くのは初めてとなる。
皆と一緒に行ったら楽しいだろうと思い誘ったのだった。
「去年までは皆、中学が違ったから別々だったけどよ。今年は6人して行ったら絶対楽しいぞ」
恭子も私と同じ考えみたいだった。
「浴衣着てみてぇよな~。でも持ってねぇしな~」
恵理奈が残念そうに言った。
浴衣を持っているのは弘子だけだった。
どうせなら、皆で浴衣を着て花火大会に行きたいが、仕方ない。
「じゃあ、皆でお洒落して行けばいいじゃん」
香奈枝の言葉に、私達はウキウキしてきたのだった。
「そうだな! 皆でめいっぱいおしゃれして、化粧もしてさ!」
私は皆と何を着て行こうか? 髪型はどうしようか?
皆してはしゃぎながら、6人揃って花火大会に行くのが楽しみになってきたのだった。
――花火大会当日
私達はそれぞれ服を選んで、お洒落して弘子の家で待ち合わせをした。
そして、皆でお化粧をした。
後、髪型を皆でこうしたほうがいいとか。
そういう時が女の子にとって1番楽しい時間だ。
そして、皆で花火大会に行ったのである。
いろんな屋台が並んでいて、家族連れや恋人達、たくさんの人達がいて賑やかだった。
尚更私達はワクワクした。
「あ、イカ焼き! 焼きとうもろこしもいいよな~」
香奈枝があれもいい。これもいい。と言ってウロチョロし始めた。
「香奈枝。はぐれちまうから、大人しくしてろ」
たくさんの人の中ではぐれてしまったら、見つけるのは大変だ。
私は香奈枝を捕まえて、手を握ったのだった。
それぞれ食べたいものを買って適当なところに座った。
すると、最初の1発目の花火がド~ン! と上がったのだった。
「た~まや~!」
皆一緒になって叫んだ。
「綺麗だな!」
弘子が花火を見て言った。
「ああ、今年は皆で来れて嬉しいよ」
恵理奈が次の花火を見ながら言ったである。
私達は花火を見ながら今までの事を考えていた。
そして、いつもバカを言って楽しく過ごせたらいいのに。
そう願った。
弘子は元気を取り戻してはいたが、心に大きな傷を負ってしまった。
しかも、好きになった男に裏切れて……
皆の前では元気そうにしているが、まだまだ辛い気持ちを抱えているだろう。
忘れる事は無理だが、いつかお互いに好きになって、弘子の事を守ってくれる男が現れたら、今の傷は少しは癒えるんじゃないか? 私はそうなってくれる事を、花火を見ながら祈ったのだった。
花火大会が終わると、多可子と香奈枝は弘子の家に泊まる事に。
恵理奈と恭子は家に帰るとの事だった。
あまり外泊ばかりすると親がうるさいからだ。
恭子に誰か泊まりに来ないか? と言われ、私が泊まりに行く事になった。
私の場合、親が心配するなんて事はなかったので、快く引き受けたのだった。
皆と別れ、恭子と話をしながら歩いて帰っている途中……
急に白い車が私達2人の前で止まったのだった。
私達はナンパかと思った。
勿論、断ってやろうと思っていた。
だが、車の中から5人の男達が降りて来たのだった。
私達はヤバイと思い、逃げようとした。
だが、男達の力には敵わず、無理やり車に乗せられたのだった。
「あたし達をどうするつもりだ! 車から降ろせ! この野郎!」
私は大声を出して抵抗した。
「お前ら、あたし達をまわすつもりだろ!?」
恭子がそう言うと、男達はニヤニヤしていた。
相手は5人。
あたし達は武器も持っていない。
どうしたら逃げられるか? 私は考えたが、男達は私達2人をしっかりと掴んで離さない。
このまま、まわせれてしまうのか?
そんなの絶対に嫌だ!!
ここで暴れて体力を消耗するより、今は大人しくしてたほうがいい。
いざとなった時のために。
もしかしたら、逃れられるかもしれない。
まだ諦めるのは早い。
どうやったら逃げられるか、ずっと考えていた。
私は希望を捨てなかった。
しばらくすると、海岸の近くの駐車場で車が止まった。
その隣には、1台の車が止まっていた。
男達は3人降りて、恭子だけを無理やり引きずり出した。
「離せ! 離せって言ってんだろうが!!」
恭子は必死に抵抗していた。
「恭子!! 恭子をどこに連れて行く気だ! 離しやがれ!! 恭子!!」
私も叫んでいた。
その間も恭子は叫んでいた。
「楓! かえでぇっ!!」
そして、3人の男達は恭子をその車に無理やり乗せて走り去ったのだった。
私の元には2人の男が残った。
後部座席に私と2人の男。
男2人は無理やり私の体を触り始めた。
私は、このままだとレイプされると思い、必死に抵抗した。
だが、男の力が強すぎて、抵抗しても無駄だった。
私は大声で叫んでいた。
そして、いつしか泣いていた。
どうにかして、この男達を止めたいと思った。
幸い、口を塞がれていなかった為、駄目元で思いついた事を言ったのだった。
「あんたら、あたしを誰だと思ってやがる! あたしの親父はヤクザだ!! これ以上、手ぇ出したら親父に言うからな!」
2人の男は、それを聞いて手を止めた。
私は嘘をついた。
この男達が私が言う事を信じてくれれば、これ以上は何もしないと思ったからだ。
男達は私の言った事を簡単に信じたのだった。
「あんたら運が悪かったな! 相手があたしでよ! 親父が知ったら、あんたらどうなるんだろうな!」
私は嘘をつき続けた。
「悪かった。お父さんには言わないでくれ。頼む」
男達は謝ってきたのだった。
「本当に申し訳ない事をした。許してくれ」
流石にヤクザは怖いらしく、一生懸命に謝っていた。
「恭子をどこに連れて行ったんだよ? 恭子の所に連れて行け! このクズ共が!!」
私は恭子の事が心配で男達に怒鳴りつけた。
「行先はわからない」
1人の男が言った。
私は信じられず、また怒鳴ってやったのだった。
「嘘つくんじゃねえよ!! 明らかにお前達知り合いだっただろうが! 知らないわけがねぇだろうが!!」
私は、恭子が今どういう思いをしているのか?
それを考えると居ても立っても居られなかった。
だが、男達は本当に居場所がわからないとの事だった。
この男2人は高校3年で、恭子を連れて行った男3人は今は社会人。
つまり、恭子を連れて行った男達3人は、この男2人の1つ先輩にあたるという事だった。
男達は元々高校が一緒で、ここにいる2人の男達はパシリにされていたらしい。
「先輩達にはいつもパシリにされてるけど、家に行った事がないんだ。信じてくれ」
私の親父がヤクザだと嘘をついた事を、この男達は信じた。
ヤクザに関わりたくないのと、何をされるか分からない恐怖からだと思うと、男達が嘘を言ってるようには思えなくなってきたのだった。
「あんたら、あの男達と今度はいつ会うんだ!」
私が聞くと、明日、夕方からナンパしに行く約束をしているとの事だった。
恭子の事が頭から離れなかったが、たぶん、もう、恭子は……
そう思うと腹が立って悔しかった。
だが、このまま済ますわけにはいかない。
男達はいつもこの2人のうちの1人の家をたまり場にしているらしい。
そこに明日も来るとの事だった。
私はその男を住所を聞きだし、皆を集めて仕返しをしようと思った。
そして、この男達に
「あたしの体を汚ねぇ手で触りやがって! 土下座して謝りな!! お前達の先輩は明日リンチする! 言ったら親父に言うからな!!」
私が怒鳴り付けながら言うと、2人の男は土下座して謝ったのだった。
「申し訳ございませんでした。何でも言う通りにします」
そして、私を弘子の家の近くまで送らせてた。
「わかってんだろうな! ヘタなマネしたらタダじゃおかねぇからな!!」
私は最後に男達にガンつけて言った。
「は、はい」
ビビリながら男達は帰って行った。
私はその足で走って弘子の家に向かったのだった。




