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ヤンキー『処女同盟』   作者: 一葉 ミサト
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15話

 私達は、毎朝学校に行く前と帰りに弘子の所へ行った。

 弘子は相変わらず無表情で、食べ物も口にしない程だった。


 弘子の家はお父さんとお母さんも共働きだったため、普段からあまり顔を合わす事が少なかった。

 お母さんは朝ごはんの準備と、学校で食べるお弁当を時々作っていた。

 あとは、学校の購買部でパンなどを買って食べていたのである。


 それが幸いしてか、弘子のあざだらけの顔を見なくて済んでいた。


 だが、お母さんは何かを悟っている様子だった。

 お母さんが準備していた朝ご飯を弘子が食べていなかったからだ。


 そこで、私達は少しでもご飯を食べるように弘子に進めたのだが、食べてくれなかったのである。


「弘子、一口でいいから食べなよ。何か食べないと体が弱っちまうじゃねえか」


 私達は優しく言って、ご飯を食べさせようとした。

 だが、弘子はどこか遠くを見るような目で、ボーっとしていた。

 私達の声が聞こえていない様子だった。


「もうすぐ夏休みだから外で思いっきり遊ぼうよ。な!」


 恵理奈が励まそうとしたが、何の反応も見せなかったのである。


 私達は毎日弘子の家に通った。

 

 ――そして、夏休みなった。


 その頃には弘子の顔のあざも薄くなっていた。

 だが、体は痩せて目の下にはクマが出来ていたのだった。


 何とか外に連れ出して、外の空気を吸わせてやりたいと思った私達は、ある事を思いついたのだった。


 弘子が乗りたがっていた、ケンメリ。

 箱乗りしたい。と皆で話した事を思い出し、私はファミレスに向かったのだった。


 ファミレスに行くと明達がいた。

 

「楓じゃねえか。ここんとこ来てなかっただろ? 心配してたんだぜ!」


 明が私に声をかけてきたのだった。


「実はお願いがあるんだ」


 私は明達が座っている所に座った。

 私の表情を見て、明達は何かを察したのか真剣な顔になっていた。


「事情は言えねぇけど、弘子が元気がないんだ。食いもんも食わねぇし……部屋に閉じこもったまんまでよ、外にも出たがらねぇんだよ。だから、ケンメリに乗せて貰いてぇんだ。箱乗りさせて欲しいんだよ」


 私は、弘子がケンメリに乗れると知ったら、外に出てくれる事を祈りながら明に頼んだのだった。


「事情が言えねぇなら、聞かねぇよ。安心しろ。いつでも俺の愛車に乗せてやるって言っただろ?」


 明は私の頼みを快く引き受けてくれたのだった。


「嫌な事は忘れて、皆でぱ~っと行こうぜ! 俺達に任せとけ。楓、心配すんな」


 明の言った言葉にどこか安心出来た。


「頼むよ! 今夜、弘子を連れ出すから、ここで待っててくれないか」


 私がお願いすると、明達は笑顔で


「ああ、待ってるぜ!」


 そう言ってくれたのだった。


 私は弘子の元へ戻ると、皆に明と話しをした事を話した。

 そして弘子に話しかけたのだった。


「弘子。今から皆でケンメリでドライブ行くぞ! 箱乗りもしようぜ」


 私達は弘子にお洒落をさせようと思い、服を選んでいた。

 すると……


「ケンメリ?」


 弘子が口を開いたのだった。

 皆、弘子の言葉で弘子の側に行った。


「そうだよ! ケンメリで箱乗りすんだよ! 風を切って走ろうじゃないか。気持ちいいぞ。きっと!」


 私は嬉しかった。

 弘子が私の言葉に反応したからだ。

 

「あたしもお洒落してくれば良かったなぁ~」


 香奈枝が目に涙を溜めて言うと、皆も目に涙を浮かべていたのである。

 それだけ嬉しかったのだ。


「弘子だけお洒落ズルイぞ」


 多可子は場を少しでも盛り上げようと、目に溜まった、今にもこぼれ落ちそうな涙を拭いながら言った。


 皆で弘子に服を選んでやって、お洒落をさせた。

 そして、お化粧をしてやったのだった。


「マブイじゃねえか」


 私が弘子の顔を見て言うと、ほんの少しだが弘子が笑みをこぼしたように見えたのだった。


 そして、私達は弘子を連れて明達が待つファミレスに行ったのだった。


「おお! 待ってたぜ!」


 明が笑顔で出迎えてくれた。


「今夜は皆で風を切って走ろうじゃねえか」


 誠がカッコつけて言った。


「カッコつけてんじゃねぇよ! バーカ!」


 私がふざけて言うと、皆して笑ったのだった。

 弘子は元気がなかったが、ケンメリに乗って少しは元気を出してくれる事を祈った。。


「俺だってカッコいいだろう!」


 浩司がふざけて言った。

 

「自分でカッコいいとか言ってんじゃね~よ!」


 恭子がそう言って、浩司の足を蹴ったのだった。


「いってぇな~! 恭子のヤツ! おい! 待て!」


 逃げる恭子を浩司は、はしゃいで追いかけだした。


「子供かよ!」


 それを見ていた弘子がクスっと笑ったのだった。


「あ、弘子! おめぇ今笑っただろ? 恭子をどうにかしてくれよ~」


 私達は嬉しかった。

 弘子が少しずつだが、笑顔を取り戻してきている。

 思い切って弘子を外に連れ出して良かったと思ったのだった。


「よ~し! 俺の愛車に乗せてやっからよ!」


 明が自慢気に言うと、皆でケンメリに乗ったのだった。


「あたしと弘子は箱乗りすっから! あと1人はどうする?」


 私がそう言うと、恭子が真っ先に手をあげた。


「あたし、あたし~!! 多可子と香奈枝は後で交代でいいよな」


 助手席の窓は私。後部座席の両方の窓からは弘子と恭子が最初に箱乗りする事になったのである。

 勿論、運転は明だ。


「お前ら、しっかり掴まってろよ! 落ちんじゃねえぞ!」


 明が皆に聞こえるように大きな声で言ったのだった。


「じゃあ、行くぜ~!!」


 明はノリノリで言うと、車の中に取り付けてあるカセットデッキにテープを入れたのだった。

 そのテープからはア〇ベスクの曲が流れ始めたのである。


「ア〇ベスク!! いいじゃねえか~」


 私はノリノリで気分が段々と上がっていった。

 そして、車が走り出したのだった。


 恭子が大好きで、私達も大好きになったア〇ベスク。

 初めてのケンメリと箱乗り、しかもア〇ベスクの曲に思わず興奮していた。

 そして、私の横で箱乗りしている弘子に声をかけた。


「弘子! 気持ちいいよなぁ~!! あたし達、人生初の箱乗りだ!」


 弘子は最初はあまり乗り気ではないのではないか? と思っていたが、弘子の表情を見て安心したのだった。

 どこか爽やかな感じだった。

 きっと、箱乗りをして風を切って走っているからだろうと思った。


 恭子もノリノリだった。


「イェ~イ!! もっとかっ飛ばせ~っ!!」


 恭子が大きな声で叫んでいるのを聞いて


「もっとだ! もっと!! かっ飛ばせ~っ!!」


 私も叫んだのだった。

 

「もっともっと!! もっとかっ飛ばせ~っ!! もっと速く!! もっとだ~っ!!」


 弘子が叫んだのだった。


 私と恭子は目を合わせ、お互いに涙が出そうだった。

 弘子が大きな声で叫んでいる。

 嬉しかった。

 

 そして、私達は3人で大声で叫んだのだった。


「もっと! かっ飛ばせ~っ!!」


 弘子はまるで、あの日の事を吹き飛ばすかのように叫んでいた。


 そして、港で車が止まった。


「降りて来いよ!」


 明がそう言ったのだった。

 明は車のエンジンをかけたままで、テープから流れる曲の音量を最大にした。

 すると、踊り始めたのだった。


「おめぇ達も踊ってみろよ!! スカッとするぜ!」


 明が踊り始めたのを見て、私達も皆して踊ったのだった。

 弘子も無我夢中になって踊っていた。


「皆~っ! 今日はありがとう!! ほんとにありがとよ!!」


 弘子が叫んだのだった。


 私達は、弘子のその姿を見て嬉しくて仕方なかった。

 レイプされ、心に大きな傷を負ってしまった。

 だが、弘子なら前を向いて生きていけると確信したのである。


 帰りは弘子と多可子と香奈枝が箱乗りをして帰った。


 私は、明、誠、浩司に心から感謝したのだった。 

読んで頂き、ありがとうございますm(__)m

感想など頂ければ励みになります(*^-^*)

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