13話
もうすぐ夏休みが近づいていた。
セミの鳴く声が聞こえはじめ、天から照りつける太陽は目を背けたくなる程に眩しい。
季節はすでに、初夏を越えて本格的な真夏に向けて気温を増し続けていたのである。
そんな暑さにうんざりしつつも、私達は高校初めての夏休みを心待ちにしていたのだった。
そして、今日も弘子の恋話をしていた。
どうやら、いつの間にかお茶しに行ってたらしい。
だが、弘子は少し元気がなかった。
その大学生の高橋 拓実は、弘子の事を妹みたいに思っていると言ったらしいのだ。
「あたしの事、妹みたいだって言ったんだよ。やっぱ、たっくんは大学生だから高1のあたしは恋愛対象にないのかもな」
弘子は残念そうに言った。
「そんなのわからねぇよ。妹から恋人同士になるかもしんねぇだろ?」
恵理奈が弘子を慰めるように言ったのだった。
「でも、今度うちに遊びに来ないかって誘われたんだよ。男の家に行っていいもんかどうか……けど、妹みたいって言われたから、何も心配する事はねぇと思うけどさ」
弘子は悩んでいた。
彼に一目惚れをして、いつも嬉しそうに話していた。
それを今まで見てきた私達は応援してきたが、家に遊びに来ないか? と言われた事に少し違和感を覚えたのである。
「弘子、家に行くのは辞めたほうがいいんじゃねぇか? 会おうと思えば外でいくらでも会えるだろ」
私は弘子にそう言って質問したのだった。
「家って実家か? それともアパートで1人暮らしか?」
「大学生になってからアパートで1人暮らしって言ってたよ」
弘子がそう言うと、恭子が弘子に向かって口を開いた。
「う~ん。あたしは怪しく思えちまうんだよな。今までレイプされた子達がいただろ? だから警戒心が強くなっちまって、疑ってしまうんだよな~」
恭子の意見に私も同意だった。
だが、仲間の中で1番しっかり者の弘子は、その男に恋をしたせいか、あまり警戒心を持っていないように見えたのだった。
「考えすぎじゃねぇか? あたしの事、妹みたいって言ってたし」
弘子はその男の事を、どうしても信じたい様子だった。
「とにかくアパートに1人で行くのは辞めとけ! わりぃけど、違和感しかねぇんだ」
私は少し命令口調で言った。
考え過ぎなら、それに越した事はないが万が一の事を考えると弘子が傷つくからだ。
そして、他の皆も止めたのだった。
皆して止めるのを聞いて弘子は段々と怒りが出てきたのだろう。
しかめっ面になっていった。
「何だよ! 皆応援してくれるって言ってたじゃねぇか!! たっくんは優しい人だ! 皆が思ってるような人じゃねぇんだよ!!」
弘子は怒って教室を出て行ったのだった。
そして、教室に戻って来なかったのである。
私達は学校が終わってから弘子を探し回った。
家にも行ったが帰って来ていなかった。
嫌な予感がした。
「弘子のヤツ、男の所に行ったんじゃねぇか!?」
恵理奈が言った。
私達も同じ事を考えていたのである。
男のアパートがどこなのかも知らない。
「絶対ヤバイって! どうすんだよ! 楓!!」
恭子が一生懸命、私に訴えていた。
だが、どうする事も出来ない。
せめて男の家に行っていない事を願うばかりだった。
「そう言えば弘子、その男と会う時いつも決まった公園で会ってるって言ってたよ」
香奈枝が急に思い出したかのように言った。
「どこの公園だよ!!」
私達は隣町にある結構大きな公園で、弘子がその男と待ち合わせをしていた事。
そこで、2人で話をしていた事を香奈枝から聞き、急いでその公園に向かったのだった。
「駄目だ。いない……」
皆して探したが、弘子の姿はどこにもなかった。
ここまで探してどこにもいないとなると、やはり彼の所に行ったのかも……。
だが、弘子が冷静になって私達の言った事を受け止めてくれれば……。
そう願うしかなかった。
そして、私達はもう1度弘子の家に行き、家で帰りを待つ事にした。
夜の10時になっても、11時になっても帰って来なかった。
私達は待つ事しか出来ない悔しさでいっぱいだった。
12時になっても帰って来ない。
これは、もう男の所に行ったに違いない。
どうか、何事もありませんように。
皆して祈るばかりだった。
そして、時間だけが過ぎて行った。
とても長く感じた。
弘子のお母さんは弘子が帰って来ない事を心配していた。
時々私達の所に来ていたからだ。
外泊する時は、私達の家に泊まる事がたまにあったが、今回は皆して弘子の家にいる。
お母さんには、けんかしてしまったって事だけ伝えたのだった。
そして、朝方だった。
弘子が家に帰ってきたのだった。
私達は弘子の姿を見て、唖然とした。
制服や髪が乱れ、顔は殴られた痕があり、部屋に入ると倒れ込んだのだった。
私は弘子を抱きかかえながら、涙が出て止まらなかった。
「弘子!! 何だよ! その格好は……アイツの所に行ったのかよ……」
皆、弘子の姿を見ていられない程だった。
皆も泣いていた。
「み、皆……ごめん……やっぱ、皆のいう通りだった……あたし……ごめんな……」
弘子は涙を流しながら謝っていた。
「あたし達が悪かったんだ。あん時もっと強く引き留めておけば……くっ!」
恵理奈が悔しそうに言った。
「とにかく、今はゆっくり休め。話は後で聞くよ。弘子の敵はきっちり取るからよ……」
私がそう言うと、皆で弘子をベッドまで支えて横にさせたのだった。
すると、お母さんが弘子の部屋に来た。
「弘子、帰って来たの?」
その問いに、私は平然を装ってお母さんが部屋に入って来ないようにドアの前に行き、話をした。
「お母さん、弘子、中学の時の友達の所に行ってたらしくって、話に夢中になってたらしいです。疲れて今は寝ちゃってるんで、ゆっくり寝かせてあげて下さい」
そう言うと、お母さんは安心したらしく、その場を離れたのだった。
私達はずっと弘子の側にいた。
弘子は疲れた様子でそのまま寝てしまったのである。
何時間か経って、弘子は目を覚ましたのだった。
そして、夕べ何が遭ったかを泣きながら話してくれた。
私達と別れた後、弘子は例の彼といつも待ち合わせをしていた公園で彼を待っていた事。
そして、そのままその男のアパートに行った事。
アパートに行ったら他に男が5人位いて、弘子は男達を見てすぐ帰ろうとした。
だが、男達に無理やり部屋に引きずり込まれ、口を塞がれた。
弘子は一生懸命抵抗した。
それも虚しく、まわされたとの事だった。
その間、弘子が好きだった男は黙って見ていたらしい。
まわすとは、輪姦の事で、私達の間では1人の女を複数の男達がレイプする事をまわすという言い方をしていた。
その話を聞いて、私達は皆して泣いた。
そして、弘子が好きだった高橋 拓実と他の男達に復讐してやろう。という事になったのだった。
とにかく私達は、悲しい気持ちと悔しさと怒りでいっぱいだった。
弘子の純情を汚した奴らを絶対に許さない。
このまま野ばなしにしてはおけないと思ったのだった。
「弘子! あたし達が敵をとってやる。弘子がどんだけあの男の事に惚れてたか……それをこんな形で裏切りやがって!! 絶対に許せねぇ!! 後はあたし達に任せな!! だから弘子は何も考えず……ゆっくり休んでな」
こうして、弘子を除いた5人で復讐を誓ったのだった。




