12話
私達は久しぶりにファミレスで少女漫画を読んでいた。
すると、弘子が興奮しながら私達に何かを訴え始めたのである。
「なあ、見ろよ!! めちゃめちゃカッコいい!!」
「何だよ?」
私達は少女漫画を夢中になって読んでいたため、弘子が言っている事を適当に聞き流していた。
「だから、見てみなって!!」
「うっせえな~。もう。何なんだよ?」
私は、あまりにも弘子が興奮していたので、弘子の指さすほうを見たのだった。
「あれは、ケンメリじゃねえか!! しかもシャコタン!!」
ケンメリとは車のスカイラインの事で、シャコタンとは車体を低く改造した車の事である。
私がそう言うと、皆もその車を見たのだった。
「カッコいいじゃねえかよ!! 乗ってみてえな~」
多可子が目をキラキラさせて言ったのだった。
皆もその車をみて、興奮していた。
「あたしは免許取ったら絶対ケンメリがいい!」
恭子がそう言うと、皆は頷きながらその車を眺めていた。
私達はファミレスでは窓際に座る事が多かったため、そこから駐車場がよく見えていたのだった。
それをたまたま弘子が外を見たら、ケンメリのシャコタンを見つけたのである。
「あたしはケンメリで箱乗りしみてえな~」
箱乗りとは、車の窓枠に座り、上半身を外にだした状態で乗る事である。
弘子が箱乗りと言った瞬間、私は箱乗りをする妄想をしていた。
「ほんとだな! 憧れるよな~」
多可子がそう言ったその時だった。
いかにもヤンキーな男3人が私達に声をかけてきたのである。
「カッコいいだろ!!」
「あの車、あんた達のかい?」
私は思わず聞いていた。
その中の1人が私の問いに答えたのだった。
「ああ。あれは俺の愛車だ。おめえ達が大きな声で俺の愛車の事を話してたからよ。思わず声かけちまったってわけよ」
そう言うと自己紹介を始めだしたのだった。
「俺は明。こいつは誠、こっちは浩司。夜露死苦!!」
私達は、名前を名乗った男達に、ここは礼儀として私達も名乗るしかないと思った。
「あたしは楓だ」
そして、皆も1人1人名乗ったのだった。
「おめえ達さえ良ければ、俺の愛車に乗せてやってもいいぜ」
明が言った。
ケンメリには憧れるが、警戒心が強い私達は断ったのだった。
「あたし達は会ったばかりの男に簡単について行くほど軽い女じゃねえんだよ!」
私がそう言うと、明がそれに答えるように口を開いたのだった。
「おめえ達、気にいったぜ!! 俺も軽い女は嫌いだ。それに俺たちは硬派だ。好きになった女は1筋だからよ!」
明の言った事を聞いて、この男達はハンパもんじゃなく、漢気のあるヤンキーなんじゃないかと思ったのである。
だからと言って、すぐケンメリに乗せてもらおうとは思わなかった。
「あんた達、高3か? それにしても免許取ったの早かったな」
弘子が聞くと明がそれに答えたのだった。
「俺は4月生まれだからよ。すぐ免許を取りに自動車学校に行ったんだぜ!!」
それを聞いて皆納得したのだった。
「俺と浩司はまだだけどな」
誠がそう言った。
「俺も早く免許取りてえよ!」
浩司が悔しそうに言ったのである。
「3年だからすぐ取れるじゃねえかよ。あたし達なんか、まだまだ先だよ」
私がそう言うと、皆もそうだよ! と口を揃えて言ったのだった。
「おめえ達、どこの高校だ? 俺たちは高下高校。男子高だ」
明が聞いてきた。
「あたし達は葉菜山女子高の1年だ」
弘子が答えたのだった。
「じゃあ、今日は挨拶って事で。もうすぐ夏休みに入っから、楓達さえ良ければ、いつでもケンメリに乗せてやっからよ! じゃあな」
そう言い残し、自分達が座っていた場所に戻って行ったのだった。
「あいつ、明ってヤツ、楓って言ったよな? いきなり呼び捨てかよ。しかも楓だけ。もしかして楓に一目惚れでもしたんじゃね~の?」
恭子がニヤニヤしながら言った。
「楓はマブイから、一目惚れされてもおかしくねえんじゃね~の?」
香奈枝が私にもたれかかって、言ったのだった。
「関係ねえよ!」
私は一目惚れされる事が多かったため、慣れていた。
それに、明が私に一目惚れしたかどうかは分からない。
私が1番に名乗ったため、たまたま私の名を口にしただけだと私は思った。
「だけどよ~。3人ともいい男だったよな? かっこ良かったじゃねえか」
恵理奈はそう言っていたが、私にはどうでもいい事だった。
「そうかぁ?」
私はまた少女漫画を読み始めたのだった。
皆はまだあの男達の事を話題にしていた。
それからファミレスに行くと、明達も来ていて話をする事が徐々に多くなっていったのである。
実は私達は気づかなかったが、明達はしょっちゅうファミレスに来ていたらしい。
私達と一緒で漫画を読むのが好きで、少年漫画をよく読んでいたのだ。
私達は高校生になってつるむようになり、ファミレスに行くようになった。
その頃から私達を見かけるようになり、少女漫画を読んでいた事も知っていたのだった。
この事は後で知る事になる。
それから彼らとファミレスで会う度、話をしていくうちに、ハンパもんじゃなく、本当に硬派だという事がわかるようになっていった。
いつしか、友達といえるような仲になっていったのである。




