11話
レイプされた子の敵を討つにあたって、私達はある決め事を決めていた。
決して命を奪うような事はしない事。
武器は使っても、後遺症が残らないように配慮する事。
頭や腰や首を殴らない事、そして目を狙わない事。
この鉄則だけはきちんと守って敵を討つ事にしていた。
今日は学校へ行くと、皆と弘子の恋話で盛り上がっていた。
いつも電車の中で少ししか話せなかったが、今度どこかでお茶しながら話をする事になったらしい。
弘子は嬉しそうにしていた。
「やったじゃね~か! 弘子。これってもしかしてデートかよ?」
恭子が真っ先にそう言っていた。
それを聞いて、弘子が恥ずかしそうにしていた。
「そんなんじゃね~よ。お茶するだけだよ。でも、また1歩前に進んじまった。は~」
相変わらず彼の事を思っては、ため息をする弘子だった。
「お茶か~。羨ましいよな~。あたしもそういう人、出て来ねえかな~」
多可子が羨ましそうに言った。
「中々いい男と出会えるのは難しいよな。女子高だし、運命的な出会いが欲しいよな~」
恭子はまた自分の世界に入って行った。
「また始まったよ! 恭子の妄想の世界が」
私が笑いながら言うと、皆も恭子を見て笑ったのだった。
すると、クラスの女の子が声をかけてきたのである。
「楓~。お客さんだよ~」
お客さん? 誰だろうと思ってドアのほうを見ると、加奈子先輩だった。
私達はすぐ先輩を元に駆け寄った。
先輩は笑顔で元気そうだった。
その姿を見て私達は嬉しかった。
「先輩! 元気そうで良かった」
「実は今度の日曜日、皆開いてる?」
先輩が聞いてきた。
勿論、私達は特に予定なんか入っていない。
いつものように皆でつるんでいるだけだ。
「先輩、どうかしたのか?」
弘子が聞いた。
「皆さえ良ければ、私の家に遊びに来てもらいたくって。私、段々と元気を取り戻して来たの。お礼にケーキを焼くから、皆に食べてもらいたくって……いいかな?」
先輩の手作りのケーキ!!
ケーキなんて高くて買えないし、ファミレスでも頼んだ事がなかった。
だが、手作りのケーキを食べられるなんて正直嬉しかった。
「行く!! 絶対に行く! 皆も行くよな? 先輩の手作りケーキ食べた~い!!」
香奈枝が甘えた声で言ったのである。
「あら? 香奈枝ちゃんはもしかして甘えん坊さんなのかしら?」
先輩は香奈枝を見て笑みをこぼしたのだった。
「じゃあ、決まりね。あ、住所メモっといたから、日曜日の12時にどうかしら? 昼食も用意しとくから」
「昼飯まで? いいのか? 先輩」
弘子の問いに先輩は
「皆が良ければね」
それを聞いて私達は日曜日に先輩の家に行く事になった。
――日曜日。先輩のメモを片手に皆で家を探したのだった。
以外とすぐ見つかったのである。
「うわ~。でっけ~家だな!! 庭もあるみて~だよ!」
香奈枝が目を輝かせながら嬉しそうに言った。
そして、私はインターフォンを鳴らした。
「いらっしゃい。今開けるわね」
門は自動だった。
「先輩ちって金持ちかよ?」
恵理奈が大きな屋敷を眺めながら言うと、先輩が出てきたのである。
学校では制服姿しか見てなかったが、白いワンピースに白いフリフリのエプロンをつけていた。
いかにもお嬢様らしい姿だった。
「皆、よく来てくれたわね。私、朝から張り切って料理したの。もちろんケーキも焼いて作ったわよ」
「すっげ~楽しみだ!!」
私達は待ちきれない程だった。
「えっとね。今日は天気がいいから、お庭で食べよう思って、もう準備してあるのよ!」
先輩にそう言われ、庭のほうへ行くと広い庭があり、たくさんの綺麗な花が咲いていた。
そして、木製で出来たガーデンウッドテーブルセットがあり、そのテーブルの上にはたくさんの美味しそうな料理が置かれていた。
それを見て皆テンションが上がった。
「お洒落じゃね~か! こんな素敵な所で飯食うなんて初めてだよ~」
香奈枝が1番嬉しそうにはしゃいでいたのだった。
自分の座る場所を探して、ここがいい! と言って真っ先に座ったのである。
親戚中をたらいまわしにされて育ったせいか、先輩に対して、どこか甘えている感じだった。
「好きな所に座ってね」
先輩にそう言われ、私達もそれぞれ座った。
「さぁ、まずは昼食を食べましょう。その後はケーキやタルトを作ったの。皆、たくさん食べてね」
「よっしゃぁ~!! 先輩があたし達のために作ってくれたんだ。皆、食うぞ!!」
皆、待ってました。と言わんばかりに
「頂きま~す!!」
私達は先輩を交えて食事を始めたのだった。
サンドイッチにスパゲッティ、ピザもあれば、野菜たっぷりのサラダ。
おにぎりまである。から揚げに、卵焼き、それとタコさんウィンナー。
どれも先輩の手作りだと思うと凄いとしか言いようがなかった。
香奈枝がタコさんウィンナーを見てはしゃいでいた。
きっと、自分のために作ってくれる人がいなかったからだろう。
私達はあまりの美味しさに、食べる事に夢中になったいた。
「良かった。皆、食べるのに夢中ね。ほんと美味しそうに食べるのね。見てて嬉しいわ」
先輩は私達の食べる姿を見て嬉しそうだった。
ある程度食べ終わると先輩に話しかけた。
「先輩、相変わらずクラスの皆からシカトされてんの?」
私が聞くと先輩は静かに頷いた。
「でももう慣れたわ。高校生活もそう長くないし、それまで頑張って学校には行くつもりよ。クラスの皆に無視されて辛かったけど、皆と出会ってお友達になれたんですもの。私はもう1人じゃない。あなた達は私の大切なマブダチよ」
「あ、先輩がマブダチって言った!」
香奈枝が先輩を指さして言ったのだった。
「食いもん食いながら、喋るんじゃね~よ!」
恭子が香奈枝の頭をポカッと叩いた。
それを見ていた先輩は思わず笑ったのである。
「うふふ。皆は親友の事をマブダチって言うんでしょ? 私にとって、皆はマブダチよ」
「先輩、真奈美ってヤツは?」
私が聞くと相変わらず無視されてるとの事だった。
「皆が以前言ってたように、真奈美は親友だと思ってたけど、違うと思う。どう考えても噂を流したのは真奈美だと思うようになったの。だって私、真奈美にしか話してなかったから……」
それを聞いて私は納得したのだった。
もしかしたら、噂を流したのは真奈美じゃないかと疑っていたからだった。
誰にも言えない内容を話をするとすれば親友だけだと思うし、本当に親友なら、先輩が話した事を黙って隠し通すはず。
噂が流れてしまったのは真奈美が噂を流したから広まった。
私はそう思っていたが、あえて口にはしなかったのだ。
「先輩、真奈美の事、そのままにしておいていいのかよ? 悔しいじゃねえか?」
弘子が先輩に聞いてみた。
「心配してくれてありがとう。でも、もういいの。と言うより、私も真奈美とは関わらないようにしたの。お互いに無視状態よ。友達を簡単に裏切る人は、いつか必ず誰にも相手にされなくなると思うの」
私はそれを聞いて、先輩は大人だと思った。
そして、あんな事があってから、きっと強くなったんだろうと思ったのである。
「先輩、カッコイイッす!!」
それを聞いていた多可子が言ったのだった。
「そうかな? これも皆に出会って、敵を取ってもらったうえにマブダチになってくれたんですもの。皆といると楽しいの。さぁ、今度はお待ちかねのデザートタイムにしましょうか」
先輩がそう言うと、真っ先に香奈枝が口を開いたのだった。
「やった~!! ケーキ! ケーキ! 待ってたぜ~!!」
「子供かよ!!」
私が香奈枝に向かって言った瞬間、皆して大笑いしたのだった。
先輩が朝から頑張って作ってくれたデザート!!
イチゴのショートケーキにフルーツたっぷりのタルト。
そしてブルーベリーの入ったロールケーキ。
「すげ~!! 先輩。これ1人で作ったのか? 美味そう!!」
恵理奈が先輩に聞いたのだった。
「お菓子作りが大好きなの。さぁ、切り分けるからたくさん食べて! デザートは別腹よね」
そう言われ、確かに! と思いながら、私達は美味しく頂いたのだった。
「また、いつでも遊びに来てね。大歓迎よ」
先輩の心の傷は一生残るだろう。
クラスの皆から無視されながら学校に行く事は寂しいだろうし、辛いだろう。
だが、私達と一緒にいる時は、その寂しさを忘れ、楽しく過ごす事が出来るんだろうと思った。
今日は先輩の明るい姿、笑顔を見れて嬉しかった。
それはきっと皆も一緒だと思った。
今日は先輩の家に行って、話す事が出来て本当に良かったと思うのであった。




