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ヤンキー『処女同盟』   作者: 一葉 ミサト
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1話

 人気(ひとけ)の無い工場の外で、威勢のいい女の叫び声が響き渡る。


「お前みたいなヤツを人間のクズって言うんだよ!!」


 私はある男の横っ腹に、愛用している木刀を叩き込む。

 激痛に顔をしかめた男はその場に倒れ込み、同盟の仲間が一斉に鉄パイプやチェーンでリンチする。

 それでも男は苦し紛れにこう言う――


「あの女だって喜んでいたんだ! いい思いさせてやったのはこっちなんだぞ!」


 その一言に対して、私はさらに木刀を叩き込んで言ってやった。


「よくもそんなひでぇ事が言えたもんだな!! 思い知りやがれ!!」


 ――私は女子高校1年生の16歳。

 名前は藤代 楓(ふじしろ かえで)

 いわゆるヤンキーである。


 ヤンキーになったきっかけは、本当の父親が5歳の時に女と駆け落ちをした時から始まった。

 私の母親はすぐ男を作り、義理の父親となった男と一緒になって私を虐待し始めた。

 家の裏にある大きな木に、雨風が降っているにもかかわらず1日中縛り付けられたり、毎日のように殴られては蹴られるといった暴行の限りを尽くされたり、果ては、テニスラケットやベルトといった道具で叩かれたりむち打ちされた事すらあった。


 そういう環境で育った私は、人一倍正義感が強くなり、怖いものは何もない。

 という性格になっていった。


 中学になった頃から親に反抗するようになり、家庭内暴力をするようになっていた。

 相変わらず虐待しようとする親に対しての反抗だった。


 ――1学期の遠足の日。

 私達は隣町にある大きなアスレチック公園に歩いて遠足に来ていた。

 シートを敷いて、皆で楽しくお喋りをしながらおやつを食べていたのである。


 私の友達の名は恵理奈(えりな)弘子(ひろこ)多可子(たかこ)恭子(きょうこ)香奈枝(かなえ)


 皆もそれぞれの理由でヤンキーになっていた。


 私達は皆中学は別だったが、高校生になり同じクラスになった私達は自然と仲良くなったのだった。

 そして、いつも6人でつるんでいたのである。


 クラスで私達ヤンキーを怖がる人は誰1人としていなかった。

 それはきっと、他のヤンキーとは違って、かつあげをしたりむやみにケンカするようなヤンキーではなかったからだと思う。

 ましてヤンキーだからと言って、タバコも吸うような事はしていなかった。

 

 ただ、皆まだ彼氏がいなかった。


 そして、自然と初体験の話になったのだった。

 まだ高校1年生。

 処女だという話になった。

 心から好きになった人に処女をあげようという話になり、それまで乙女の純情を守り抜く。

 そう誓い、私の提案で『処女同盟(しょじょどうめい)』を作ったのだった。


 だが、恵理奈だけが元気がなかった。


「皆、実はあたしは処女じゃないんだ……」

 

 恵理奈が急に皆の前で言ったのだった。


 恵理奈の話だと、中学2年の時に両親が留守中に叔父にレイプされたとの事だった。


 私達は恵理奈の告白に驚きを隠せなかった。

 恵理奈は、自分が『処女同盟』に入る事は相応しくないと言い出したのである。


 レイプされた恵理奈の話を聞いて、私達は皆で泣いた。

 

 女として男の力には(かな)わない。

 なんて無力なんだろう?

 もちろん親にも話せない。

 警察に言えば瞬く間に噂が広がるだろう。

 何も出来ない悔しさと悲しみをどこにぶつければいいのか?


 恵理奈は今まで、レイプされた事を1人で抱え込んで苦しんでいたのである。


 私達は乙女の純情を守り抜くのも大切だが、『処女同盟』は、恵理奈みたいにレイプされ、苦しんでいる女性達の代わりに(かたき)を討つ。

そういう同盟にしようと決心したのだった。


 ――ある日、クラスの女の子が急に学校に来なくなった。

 そして、その子がレイプされ家に引きこもっている。

 そういう噂がクラス中で流れたのだった。


 その子の名は、倉田 美奈(くらた みな)

 クラスでは優等生でテストはいつも1番。

 大人しい性格だった。


 美奈の事が気になった私達は、皆の代表として私が1人で美奈の家に行き、話を聞く事にしたのだった。


 美奈の家に行くと、美奈は部屋で1人で泣いていた。

 話を聞こうと声をかけると、泣きながら話をしてくれた。

 近くの工場で働いている男にレイプされたとの事だった。

 その男とは毎朝挨拶をする程度だったと美奈は語った。


 そして、学校から帰る途中待ち伏せされた事。

 無理やり車に乗せられ、一目のつかない森に連れて行かれた事。

 美奈は無我夢中で抵抗したが男の力には敵わなかった。

 そして……レイプされた。


「悔しいよ! 私は汚された……。あの男を殺して死にたい……」

 

 美奈はそう言って私に泣きついたのだった。


「そんな男のために死んでどうなるってんだよ? それに、殺したりしたらあんたの人生は台無しじゃないか! あたし達が美奈の敵を取ってやる。その男をリンチする。だから今を乗り越えて頑張りな!」


 泣く美奈に向かって、私は励ましたのだった。


「敵を取ってくれるの? あの男を私は許せない! あの男のせいで男の人が怖くなったの……。私は、これから恋愛も出来ないかもしれない……」


 美奈は悔しそうに自分の服を力強く握りしめていた。


「きっと美奈の事を大切に思ってくれる男が現れるよ。だから元気出しな! クラスの皆にはレイプの事はただの噂だった事にすればいい。だから学校では今まで通りにしてればいいよ! その変わり、この落とし前はつけるからよ」


 私は美奈にそう言って、その男の特徴を聞きだしたのだった。


 ――そして、私達は美奈から聞いた工場で男を待ち伏せをした。

 私達は男が立てなくなるまでリンチした。

 そして倒れ込み、口からは血が出ていた。


「乙女の純情を汚しやがって!! 女を舐めんじゃねぇよ!! 2度と美奈に近づくんじゃねぇっ!」


 私はその男を睨みつけながら怒鳴りつけてやった。


「悪かった……俺が悪かったよ……」


 男は頭を下げて謝った。

 そして、そそくさと帰って行ったのだった。


 私達は男と別れてから美奈の家に行き、敵をとった事を伝えた。


「ありがとう。ありがとう……」


 美奈は泣きながら何度も何度もお礼を言っていた。


 ――次の日、美奈は学校に登校して来た。


 美奈の姿を見て、クラスの皆はヒソヒソと動揺を露わにしていた。

 

 私達は真っ先に美奈の元に駆け寄った。


「美奈。風邪はもう治ったのか? こじらせちまうと長引くからな」


 美奈は周りの皆を気にしている様子だった。


「うん。もう大丈夫……。心配してくれてありがとう。やっぱり、早めに病院に行くのが1番よね」


 美奈はいつも通りにしようと、そう言ったのだった。


 ――この時、私はレイプされた人の気持ちを分かっていたつもりでいた。

 だが、レイプされた女性が心に深く傷を負い、どれだけ辛く、悔しく、悲しい思いをするか……。

 そして、その怒りをどこにぶつければいいのか?

 時には自分を責め、生きている事さえも苦しく絶望する。


 私は、これから数々のレイプされた女性達と出会い、彼女達の思いを痛感する事になる。  

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