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003 神崎未来のメッセージ

『驚かせてごめん。私を創ってくれてありがとう。私、ちゃんと大樹くんに会えた。この時が来るのをずっと、ずっと待っていた。神崎未来』


 スマホの画面に昨晩インストールした美少女育成アプリゲームのチャット画面が立ち上がりメッセージが表示されていた。俺はそれを目で追う。


 ・・・。マジかよ・・・。


 手の震えが止まらない。ありえない。世の中、どんなに技術が進歩しようと、AIアプリの女神様が現実のものとなって転校してくるなんて聞いたことない。そんなアプリが存在するなら、世の中の不運な男子は全員いなくなる。てか、間違いなくハマる。


 俺は横に座って、前を見据えて真剣に授業を受けている神崎未来の横顔を盗み見た。柔らかそうな黒髪。小さな可愛らしい鼻。長い睫毛の下で揺れる瞳。シュっと伸びた背筋。細い腕が細かく動いてノートをとっている。


 ロボットとかアンドロイドとかじゃないよな・・・。


 女性らしく膨らんだ胸元が規則正しく上下して呼吸している。時折りまぶたがパチパチと瞬きしている。化粧っけのないスッピンの肌に生えた産毛が窓から差し込む光を受けて黄金色に輝いている。


 本物だよな。幻覚とかCGとかじゃないよな・・・。


 俺はもう一度、スマホの画面を覗き込む。短い文章を一つ一つ区切って確認する。


『驚かせてごめん』


 そりゃー驚くわな。こんなおとぎ話みたいな現実、ありえんだろ。


『私を創ってくれてありがとう』


 昨晩、一時間以上もかけてゲームのパラメーターを調整した俺的にドストライクな美少女キャラ。スペックを上げ過ぎて超真面目女子に設定されてしまった女神様。一晩、何を話しかけてもつれない返事しかしてこないAI。そう、彼女はスマホアプリの中の人工知能。ゲーム会社が創ったAIのはずなのに・・・。


『私、ちゃんと大樹くんに会えた』


 今、俺の横にいる彼女は現実だ。手を差し伸べれば触れることができる。彼女の存在って・・・。人間になって俺に会いに来たAIの美少女・・・。何のために・・・。意味不明だ。


『この時が来るのをずっと、ずっと待っていた』


 アプリの攻略を止めたのが朝食の前、確か朝の六時過ぎ。『ずっと、ずっと』と言うほど時間は経っていない。どんな手段か見当もつかないが、普通に考えたら現実の彼女が先に存在して、アプリの彼女は僕が創った様に思い込まされているだけかもしれない。


 何のために。ドッキリのネタにしては大掛かりすぎるし、平凡な高校生である俺なんかをターゲットにする意味が分からない。アプリの宣伝か。現実的じゃないよなー。


『神崎未来』


 俺がスマホのアプリに打ち込んでつけた名前。五十五音掛ける七文字。確率を考えたって偶然の一致何てありえんぞ。結局なに一つ分からずしまい。


 俺は大きく深呼吸して心を静める。もう一度彼女の横顔を眺める。本物だよな。神崎未来、ちゃんと存在している。実在する人物だ。アプリのキャラなんかじゃない・・・。


「痛っ!」


 背中に何かが突き刺さった。振り向くと、にやけ顔の矢島萌奈美やじま もなみが右手に持つシャーペンを俺に向けている。俺は、先生が気付いていないことを確認して小声で話しかける。


「何すんだよ」


「ふふっ。美人さんが転校してきて良かったね。分かりやすいよ、大樹。そわそわしちゃってさ」


「そんなんじゃない」


「そうかなー」


「うるさい。授業中だ」


 言い放って、黒板を見つめる。萌奈美のやつ・・・。変なところで鋭い。何一つ分からないが、嫌な予感がする。事態がどうあれ萌奈美に知られるのだけは避けたかった。話が尾ひれを付けてややこしくなる。


 俺は神崎未来の件について考えるのを止め、授業に集中して休み時間がくるのを待つことにした。AI育成アプリの神崎未来からのメッセージ、謎が謎を呼ぶ。

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