013 リアル神崎未来
二年八組の教室に入るといつも通りの高校生活が待っていた。幸田一馬も矢島萌奈美も何もなかったかのように接してくる。恐らく内心は違うのだろうが、そうしてくれている。正直、助かる。
あまり友達作りが得意じゃない俺にとって、二人を同時に失うのは辛い。変に避けられたりもせず、バカ話をしながら俺達は朝の時間を過ごした。
何時もは一馬と過ごす昼休み。今日は萌奈美も加わって三人で机をくっつけて昼食を食べることとなった。思った以上に自然に振る舞える自分に驚く。ポケットに忍ばせたスマホ、アプリの中の神崎未来に励まされているようだ。
バーチャルな世界に癒やされるなんて、母親じゃないけどこれって末期だよな。ヤバイわ、俺。一馬と萌奈美を失ったら本当にボッチになりかねない。カーテンを閉め切った真っ暗な部屋。淀んだ空気の中でスマホと向かい合う俺。
うわー。ネクラ、ボッチ、オタク。引きこもり生活まっしぐら・・・。堂々と美少女アプリの話題で盛り上がる、直ぐ隣りの男子陣の方がまだ健全に見える。俺の未来が心配になってきた。
「なあ、大樹。聞いてんのかよ。ボーっとして」
一馬の顔がヌッと現れた。ドキ!近いだろ、イケメンくん。
「なっ、何だっけ?」
「だから、大樹の快気祝いに明後日の日曜日、サンセットランドに行くって話だよ」
「サンセットランド・・・。あの田舎遊園地にか?」
「ああ、小学校の時に、俺と大樹と萌奈美の三人で行っただろ」
そういや行ったかも。アプリの神崎未来に見せたアルバムの中に写真があった。ジェットコースターと大観覧車以外はこれといった遊具のないど田舎遊園地。親にだまって出かけた初めての遠出。後で散々叱られた大冒険だった。
「大樹も行くよね」
萌奈美まで顔を寄せてくる。小学生の時の悪だくみの時みたいだ。高校生になった今、顔を寄せ合ってする話でもないけど・・・。
「二人で行ってきなよ。俺がいたら邪魔だろ」
こぶ付きデートなんておかしいよな。んで、こぶ役は俺だし。萌奈美のやつ何を考えているんだ。
「大樹のお母さんが心配して私の所に相談に来たんだよ。大樹が部屋に閉じこもってキモオタになったって」
くっ。母さんめ。余計なことを。益々、萌奈美に弱みを握られるじゃないか。実の息子のダークなイメージを広めてどうするつもりだ。萌奈美の口の軽さは天下一品なんだぞ。余計、友達が作れなくなるわ。
「大樹の快気祝いだしなー。たまには子供の時に戻って騒ぐのも悪くないんじゃないか」
一馬と萌奈美がくっついた意味がないだろ。遊園地の乗り物なんて二人乗りがほとんどだぞ。二人が隣り合わせで座ったら俺があぶれるだろが。
「あのー。大樹くん。私も一緒に連れて行って欲しい」
声のする方に振り向いた俺たち三人はその場で固まった。声の主、リアル神崎未来が、三人の机の横に笑顔で立っていた。
神崎未来。都会の進学校から転校してきた美少女。んで、スポーツ万能かつ超天才。リアルに女神様。俺みたいに中々友達のできないコミ障と違って、あっと言う間に学校に馴染んで引く手あまた。その、彼女が何故に?
「私、大樹くんに学校を案内してもらったお礼をしていないから」
「お礼とか、されるようなことしていないけど」
「おい、大樹。チャンスだぞ」
一馬が俺の横腹を肘で小突いてくる。チャンスって何だよ。
「うん。いいね。未来ちゃんも行こう。ムッさい狼男二人にかわいい子羊ちゃん一人ってのも不安だし」
おい、萌奈美!それを言うならデリケートな草食男子二人に自由奔放な肉食女子一人って言ってくれ。不安なのは俺達だ。
「もっ、萌奈美ちゃん。俺、ムッさい狼男なのか?」
ぐぐっ。一馬、爽やかなイケメンが台無しだぞ。なんて情けない顔をしているんだ。
「ねっ。大樹くん。いいよね。私、ちょうどサンセットランドの招待券を四枚持っているんだ。ほら」
女神のごとき輝きを放ちながらリアル神崎未来が、ポケットからチケット四枚を取り出した。もう、断る理由が見つからない。てか、教室中の羨ましそうな男子の視線、かなり痛いんだけど。イケメン一馬に、キャラの違う美少女二人と俺、公の場で大丈夫なのだろうか。めっちゃ、不安になってきた。




