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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第7章
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85話 魔王覚醒と運命に抗う意志3



-side 勇者-



少し時は遡る。勇者輝を含めた美奈、千晴の三人だけが呼ばれた後。



「輝達、思ったより戻ってくるのが早かったな? あのオーラ満載の美人さんに呼ばれて何を話されたんだ?」


「俺らも話したかったよな?」


「一樹も広大も想像しているような楽しい事じゃ無かったからな?」


「美奈と千晴はどうしたよ?」


「二人は、」


「ちゃんといるわよ。」


「お通夜みたいな雰囲気出したら美奈たちが死んだみたいじゃんっ。」


「だって! あの話はっ。」



此処には召喚されたクラスメイト全員がいる。勿論明日香、春佳、鳴子、風子の魔術師の4人は自称魔王騒ぎから結局見つからなかったのでこの場には居ない。輝が大きな声を出したことでクラスメイト全員がビクッと反応する。



「輝、焦るのも分かるけど落ち着いて。」



深呼吸をする輝を皆が見て誰もが次に何かを言ってくれる勇者の声を待っていた。



「俺達はノトさんに会ってきた。そこで桜城さんが誘拐されたと聞いてきた。取り返すと言ってはいたけれど。」



ザワっとする。ただでさえ自分たちより強いと言うのにそれ以上の存在に囚われたと考えられる事実に誰しもが驚愕する。



「あの........。」



この雰囲気の中で声を上げたのは弓術士である玉津(タマツ)弥生(ヤヨイ)。弓道を嗜んでいた彼女らしい職で実力もさることながら頭脳明晰という文武両道に長けた女の子だ。



「玉津さん?」


「私達も行くという選択肢は、輝君の中に有りますか?」


「俺は行きたいと思った。良いとは言われてないけど、駄目とも注意されなかったからね。」


「で、あれば私は様々な形で魔力を乗せて弓を引くという新たな発想を生んでくれた百合奈ちゃんの事は助けに行きたい。」



自ら望んで死地へ向かうと言った弥生に誰もが止めようとしたが決意は固く彼らの制止に首を縦に振ることは無かった。



「俺らもパーティーを組んでるんだから行くぜ。俺らも大恩ある訳だし。」


「というか今までなんで、あんな美人を放っておいたんだよっ。」



日本に過ごしていた時の百合奈は眼鏡を掛けており髪もずっとショートだった。今は髪が少し伸びて視力が良いせいで眼鏡を掛けていない。それだけの変化で見た目が大きく変わる訳では無いのだが。実は元より整った顔だったが目立たないようにしていたというのが一番だったりする。



「全員とは言わない。強制はしない。自らが望む者は俺についてきてくれ。もう不甲斐ない俺は見せないっ。」


「行くのはいいんだけどさ、輝ん。」


「なんだ美奈?」


「私たち場所を聞いてないわよ。」



シーンと静まり返る。図星を付かれた輝は黙ってしまう。まだ抜けている輝を誰かが吹き出して笑うとつられて笑い出す。



「知りたければお教え致しますが。」


「そうそう。オレ達は待機命令だから動けないし君たちが動いてくれるなら万事解決って感じで良いんですけどね。」



明らかにクラスメイトでは無い声が二人分聞こえる。ばっと顔を向けると当然の如く椅子に座って「留守を任された。」様には見えない優雅にお茶を飲んでいるルピとレイトがいた。



「お二人はノトさんの近くにいた......。」


「申し遅れました。私はルピと申します。此方はレイトです。」


「それで、行くんですか? 行くなら送っていくことも可能ですけど。」


「早々に決めてもらえると助かります。」



真面目モードのレイトを知る由もない勇者を含めた彼らは圧倒される。決めかねている人が多い状況をルピは瞬時に理解し溜息をつく。



「ふう。レイト行きましょう。彼らの実力では魔王様を含めてユリナ様を助けられるとは到底考えられません。不敬ですが我が主の魔王様が何故勇者たちを呼び出して状況を伝えたのかの意図が分かり兼ねますね。」


「そうですね。オレも同意見です。オレらの仕事に戻りますか。」


「待ってください。私だけでも彼女のいるとこに送ってください。」



そう声を上げたのは弥生。ルピとレイトの言葉に反抗しての事では無い。意志は固かったようで、ただ決意を強くしている弥生の姿がそこにあった。



「勇者よりもある意味で勇者ですね。死地へ赴くということを頭で理解してなお望むのですね。良いでしょう。貴女だけでも送りましょう。」


「何を言っているっ! 俺達も行くぞっ!」


「ああ!」



続いて広大と一樹が声を上げる。ちょっと下心が見え透いているようないないような、そんな感じがあるものの彼らも最初はルピとレイトに圧倒されて声を出せなかったが覚悟は決めていたようだった。



「勿論俺もだ。」


「美奈も!」


「私もよ。」



輝、美奈、千晴が続く。内心ルピは驚いていたが表情が殆ど変わらない彼女は傍から見れば無表情のままだ。



「ルピ、驚いてますね。まあオレもですけど。」


「全員が手をあげるとは思っていませんでしたが行きたいと思う者は正直居ないと思っていましたからね。」


「そんな事を言われたら俺らも!って思わない訳が無いだろ! 見捨てていた彼女が最初は興味を示してくれなかった。雰囲気を柔らかくして帰ってきて優しく接してくれて色々と教えてくれた。それがどれだけ俺らの罪悪感を増やしたかっ。それも全てを見通してて彼女は笑ったんだっ。気にしないでと。」



大声で憤ったように荒らげたのは、荒田(アラタ)加刈(カガリ)。拳士の職を持つ彼はガタイがよく日本では運動神経抜群だが、素行が悪い生徒として教師に目を付けられていた。言葉遣いはよかったり悪かったり。他人への思いやりは人一倍強い。加刈は自分が碌でもない存在でクラスから疎まれているのを薄々感じていた。だが、百合奈と比べると自分はまだ受け入れて貰っていた。それを考えると他者を慮れる彼は自分なりに行動を取ったがそれは彼女のいじめをエスカレートさせるだけになり罪悪感に苛まれていた。けれど、責めないと言った百合奈にどうしようもない気持ちを抱いていたことは否定できない。



「頭で助けたいと思っていても体が動かねえんだよっ。本能は警鐘を鳴らしてるのが俺には分かんだよっ。」


「それに私達には教えてもらった恩は有るけれどその強さが通用すると思えない。イメージできない。」



加刈の言葉の後に幻術師の職を持つ宙流(ソラナガレ)紗綾(サアヤ)が言う。美術部の彼女は空中に絵を書くことで幻として顕現させることが出来る。幻と言っても質量を持たせたりすることも出来るので幅広い戦術をとる事が出来る。その使用方法を百合奈に教えてもらい少しづつ使える段階まで仕上がってきている。絵を書くことが多いせいか全体像をイメージする癖があり先を見越すこともしばしば。今回も先を想像して結論を出したのだった。



「勿論、見捨てたくはないけど。」



シーンと静まり返る。



「とても面倒な生き物たちです。こうも世界が違うと考え方も多様なのですね。平和な世界に住んでいるが故の知恵なのか教育機関がしっかりと整備された所なのか私には存ぜぬ所ですが。」


「面白いと思ってしまったのもまた事実、です。オレらの負けですね。」


「貴方たち全員を魔王様がいる所にお送りしましょう。後は私達の上司に当たるお方がある程度手助けをして下さる事でしょう。」



そう言いルピもレイトも大きな魔法陣を展開させ魔法使いの住んでいた跡地に彼らだけを転移させた。



「一人でも死んだらユリナ様が怒りそうっすね。」


「そうならない事を祈るしか有りません。後はあの方が動いてくださるのを期待するしか。」


「まあ、色々言ってもあの方はやりそうっすけどね。一番真面目で勤勉で、忠誠心が高いっすから。」


「そうですかね。私には気紛れで行動している様に見受けられましたが。何とかしてくれるのであれば手段はなんでも構わないでしょう。」


「結局のとこは結果が良ければ過程なんてくだらないものっすね。」



輝たちがいなくなった静まり返った部屋を出てルピとレイトは無事に帰って来るであろう二人を出迎えるための準備を密かに始めるのだった。











「ここ、は。」



荒廃した地が広がっている。否、大昔に荒廃していた筈の場所を誰かが更に荒らしたかの様にあちこちから煙が立ち上っている。



「此処にいると言うのか。」



輝が目の前の光景を見てそう言うと不意に殺気が飛んでくる。突然の景色の転変に驚いていたために飛んできた魔法に対処出来ないと悟った。



「全く、上司と言うのであれば扱き使うのはどうかと思うのですが、魔王様の許可を頂いて十全に力を振るえて、高揚しているので不問としますか。」



目の前で魔法が弾かれ、声が降り掛かる。放射線状に飛んできた魔法なのでその声の主は空中にいた。ルピやレイトの比でない圧倒的な力を彼からは感じる。



「呆けていると死にますよ。僕としてはどちらになっても構いませんが。これは命令には含まれていないので。」



静かに降り立ち迷うこと無く輝を見る男は先程『魔の叡智』の拠点内で殺戮を行っていたシファルだった。シファルの得物は2本の短剣。手数が多いのが強みで相手を残虐にいたぶって殺すのが彼のスタイル。『完全記憶』を持つシファルにとって少しの情報でも相手から引き出し有効利用していく為の残虐さだが悪魔の中ではかなりドン引きされて見られている事に気付いていない。



「仲間を殺しやがってっ!」


「魔王様の邪魔をしたのですから当然でしょう。寧ろ僕に倒される事の方が幸せだと思いますが。魔王様の攻撃では塵一つ残らないでしょうし。」


「それを私たちは望んでいる。自分たちが追い求めた存在に殺されるとはどれほど名誉なことか。」


「左様ですか、とても興味が有りませんね。」



実はシファルが瀕死まで追いやっていたのだが魔力爆発を起こそうとして近付いてきていた。



「自爆ですか。呆気ない幕引きですね。だからこそ興味無いのですが。」


「後ろにいる奴らも範囲だ。」


「どうぞ、お好きに。」



余裕そうなシファルの態度が気に食わなかったのか「既に勝負は決している。」等と大声を上げた魔法使いは自分の全ての魔力と生命力を引き換えに爆発を起こした。



「僕の手を煩わせないで下さいね。」


「私が護る。」



守護者の職を持つ防御力が特化して高い平賀(タイガ)麻理瑠(マリル)が先頭にいた輝達よりも前に出る。大きな盾に魔力を込め、後ろに被害が及ばないように防御の構えを取る。



「ボクも力を貸します。」



様々な攻撃に対する防御として強固な結界を張ることが出来る結界師の職を持つ男の子、松咲(マツザキ)悠亜(ユア)。純粋な魔力の攻撃に対しての防御が強い結界を張る。麻理瑠の直ぐ後ろで構え、クラスメイト全員が覆える程度の結界を張る。また一つ、一つと結界を重ねていく悠亜は緊張感はあれど冷静に対処している。



「素晴らしいですね。僕が出張る必要も無かったのでは無いかと思う程。...........ですが足りませんね。」



シファルが片手間で防御しているのに対して異世界人の二人の力を持ってして押されている。



「くっ.............。」


「もっと強くっ。」



諦めない二人の行動にシファルは関心し、考えを改める。



「最上位悪魔であるシファルが行使する。『霧散せよ』。」



今まで魔力爆発による大量のエネルギーが押し寄せていた。それが一瞬で消える。



「あまりこの悪魔の力を使いたく無かったんですけどね。仕方ありません。」



人間だった様相がガラリと変わり、凡そ悪魔と呼べるような見た目へと変質し溜息をつくシファル。それなりにヒトの姿が気に入ってたからこそ本来の形に戻る行為をしたくなかったのだ。



「おや。先程の魔法使いでしたか。ユリナさん、上手く能力を使ってくださいね。きっかけは何回かあったみたいですし。」



誰に言うでもない小声で独り言のように『魔の叡智』の拠点入口を見てシファルは言う。



「さて、勇者たち、本番はこれからですから必要であればあの方を殺して下さいね。特に勇者の持つ聖剣は鍵を握りますので上手く活用してください。聖剣が使い方を上手く教え、誘導してくれるでしょうから。」



シファルは言うだけ言って勇者たちの前から姿を完全に消す。実際は気配を消したので見えないだけでいるのだが知る由も無い彼らは驚く。



「聖剣が教えてくれる、か。」












勇者である天野輝は考える。




果たして俺に人殺しなど出来るのだろうか。




最善は尽くすつもりだが、その選択肢は自分が死ぬか、相手を殺すかの二択なのだろうか。



頭を振り覚悟を決める。



やらねばやられるのは此方だ。



自分だけでない。他の皆の命も背負っているのだ。最善などその時が訪れないと選びようが無い。





勇者として皆を守る剣として戦う。




強い意志を持ちすくみ上がっていた自分を律して一歩足を進める。














瞬間、先程と違った爆発音が地下から地上へと伝わってくるのだった。











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