57話 S級昇格試験開催と1日目3
「面白い反応してくれるな!!」
「そこが良いんじゃねえか。」
「流石の私もその発言は少し引くわよ? そういえばノトリアはそういう性格だったっけ。」
「それは貶してんのか?」
「前からよね、ヴェロック?」
「そうだな!!」
「『馬鹿』に言われると余計腹立つわ。」
またもや言い争いを始める3人のギルドのトップ達。観客として見ていた時は凛とした立ち振る舞いや堂々とした態度に見惚れてしまい感動し、憧れたがこうやって見てしまうとその気持ちが小さくなっているのを感じる。確かに強い事には違いないんだけど。
....美奈ちゃんが意外に会っているかもしれないという言葉は間違いじゃなかった。一人で苦笑いを浮かべる。リアルでこんな体験するとは思わなかった。
「さて、約束果たしてもらうわよ。此処で。」
「......なんだっけー。」
「とぼけても無駄よ。証人は此処にもいるんだから。」
指を指されてビクッとして約束という言葉で数週間前のサラさんと師匠の話を思い出す。
「ああ、あれですか? 1つとか2つとかの賭けと『血の盟約』?でしたっけ。それを説明するとかやるとか?」
「そうよ。覚えてくれて助かったわ。絶対此奴の事だから有耶無耶にしてくると思ったもの。」
「分からない事なので、興味はありました。ので、覚えていたのかもしれません。」
「チッ。」
「ノトリア舌打ちしたわね。」
凄く嫌そうな顔を浮かべて口を噤んでそっぽを向いてしまったのでこれ以上は喋る気が無いだろうなと思い、師匠からサラさんに視線を向けるとサラさんも深く溜息を吐いていた。こういう性格だと知っているのだろう。黙っているのも居た堪れないので口を開こうかと思ったらその前にサラさんが口を開いた。
「まあ、その件は後にしてあげるわ。今日はもう日も落ちてしまったしね。過去の事とかも話してあげるわ。」
「おお!! 嬢ちゃんならいつでも歓迎するぞ。今日はノトリアと帰るが良い!!」
ヴェロックさんも追求せずに帰してくれるみたい。二人が言うと師匠は立ち上がり部屋を出ようとした。私が戸惑っているとサラさんもヴェロックさんも笑顔で手を振ってくれていたので頭を下げて部屋を出ていく師匠に付いて行った。
通って来た一本道を再び歩く。お互い黙っているので靴音だけが響く。若干俯いて歩いていたが魔力の変化と視界の端で景色が変わった気がしたので顔を上げると師匠は溜息を吐きながら『暴嵐』の姿になっていた。
「えっと、師匠?」
「此れも規約なんだよ。」
「それは良いんですけどこのまま私が一緒にいると不味いのでは?」
「まあ、俺にも人は寄って来るだろうが、それは人の事言えないぞ?」
「?」
疑問に思ったのも束の間転移によって下の階に戻ってくると多くの人が寄ってきた。その視線は師匠にだけでなく私にも向けられている。「なんで?」と聞こうと思ったがその答えは集まった人たちから聞こえてきた。
「『暴嵐』様だ!!」
「確かに『暴嵐』様も尊いだろうが、その横にいる少女も注目すべきだろう。」
「そうよね。ギルド初の2ランクアップだもの。一気にA級よ!」
「実力は直で見た訳じゃ無いが気になるな。」
2ランク上がった事を何で知っているのだろうか。よくこのフロアの状況を見ていると私たちに集まっている人ともう一か所集まっている場所がある。....掲示板?
「...A級の者が上がって知らされるのは勿論だが、昇級者は全員知らされる。初の快挙とあって注目度は高いだろうと思っていた。」
と隣に立ってにこやかに手を振りながら小声で教えてくれる師匠の声がよく届いた。集まってる大勢にはどうやら聞こえていなかったようだ。落ち着いてこの街に居る事が出来なそうと思っていたが、視線の中には良いモノだけで無い事に気付く。その視線に顔を顰めると師匠は私の前に立ち、指を鳴らす。
「道を開けろ。」
若干怒気を孕んだ様な声音で静かに言うと大勢いた人達が一斉にすっと横にずれて道を開ける。悠然とした態度で歩き始めた師匠に私は付いて行く。その間誰も何も話さない。黙って私たちが通り過ぎるのを待っていた。そうして、ギルドを出ると中から先程の静寂は何処へやら喧騒が聞こえてきた。
街の中を歩いただけでひそひそと注目されている。師匠だけなら兎も角私への噂もある様で街全体がその話で持ち切りの様だ。
「...顔を顰めるな。例え視線の中に良くないものが含まれてても、だ。」
「...分かりました。」
深呼吸して気持ちを一旦落ち着かせる。それでも幾つかの視線は突き刺さる。これもスキルのせいだろう。悪意を強く感じ取ってしまい、呼吸がし辛い。自然と呼吸が荒れてくる。
気にするな。というのが無理だ。こんな嫌な視線も含まれる中では。が、これ以上俺から何も言えないので大胆な行動に出る事にした。今後の事も考え、面倒事が減り、尚且つユリナが楽に歩けるように。
「....!?」
「良いから。」
「....。」
ユリナの手を取りそのまま歩き出す。何かを言いたげに口を開いたものの特に何も言わずにされるがまま付いてくる。歩く速度を早過ぎず遅すぎずに調整しながら手から少しだけ魔力を流して呼吸と共に荒くなっている魔力の流れを自然の流れに戻す。すると段々と落ち着いて来たようで呼吸も正常になってきた。
「...有難う御座います。」
ぼそぼそとした小さな声でお礼を言って手を強く握り返してくるユリナに対し俺も手を少しだけ強く握り返した。
そのまま歩いているとギルド近くに建てられている(と言っても5分くらいは歩く距離にあるのだが)宿に着いた。20階立ての街の中では割と大きな建物で開催中は此処に泊まる事になっている。警備上の問題とか良い宿を使ってほしいとかそんな理由らしいが俺としては警備なんて必要ないし、宿なんて別に何処でも良いのだが、ギルドのトップ、引いては人類最強なのだからそんな対応は色々と良くないらしい。愚痴愚痴と何かを言われるきっかけになる事は出来るだけ避けたいとか。......今のこの行動ももしかしたら良くなかったかもしれないがもう戻れないのでサラには後で謝ってどうにか許して貰う事にしよう。
「ようこそ、いらっしゃいました。『暴嵐』様。....其方のお方は?」
「俺の連れだ。『焔姫』から話は通ってないか?」
「! 申し訳ございません。『暴嵐』様と一緒に来られるとは思ってはいなかったもので。話は確かに『焔姫』様より伺っております。ユリナ様で御座いますね。この度の2ランク昇格おめでとうございます。ギルド創設から初めての快挙で御座いますので『暴嵐』様と同じ階でお泊りになられるよう申し付かっております。準備は済んでおりますのでご案内したします。」
「いや、自分達だけで結構だ。付いてくるな。」
「そういう訳には、...........畏まりました。」
反論しようとした女性を睨むことで黙らせそのままユリナの手を引いて歩いて行く。
「はあ、疲れた。」
20階の廊下でそう声を漏らす。転移によって1階から20階まで移動した俺は今日一日の出来事から溜息を吐く。
「俺の部屋は一番奥と決まってるからそこに行くがユリナはここの階だったらどの部屋でも良いから好きな所を使うと良い。」
「....分かりました。」
繋いでいた手を離して俺は一人で歩き始める。
一番奥の部屋に着くと一年前と変わらない風景がそこには在った。大量の書物が納められた本棚、その近くには机と椅子。机の上には手元灯がある。大きな窓を開ければバルコニーに出る事が出来るので退屈な毎日から乖離したものが欲しくてバルコニーの手すりに座って外を眺めている事が多かった。疲れていたので今すぐにベッドに入ろうと思ったが何となくバルコニーに続く窓を開けて外の風景を手すりに肘を付きながらぼけっと眺めていた。
《....少し見ない間にまた変わられましたね。》
「静かにしてるから寝てると思っていたが起きてたのか。」
《私が貴方の近くに居て寝ていたことがありましたか? この250年もの間。》
「...無かったな。偶には寝てて良いんだぞ。」
《貴方ではありませんから。そんな事しませんよ。》
「俺が怠慢だと言いたいのか?」
《そのような事は有りません。》
ずっと下げていた黒剣は相変わらずの丁寧な口調で話し掛けるので俺は外の風景を眺めながら言葉を返す。暫しの沈黙の後黒剣は姿を変え、執事服を身に纏った黒髪の短髪の青年になる。特徴的なのは一対二枚の俺とは少し形状が違う艶のある黒い羽根が生えている事だろうか。
「この姿、何年振りでしょうか。」
「さあな。」
「因みに聞いておきますが私の事は紹介して下さるのでしょうか?」
「まあ、紹介しといた方が良いとは思ってはいたが、何時にするかタイミングが掴めないな。....今来てくれるとありがたいんだが多分疲労で寝ている事だろう。」
「そうですか? 私は此処に来そうな気がしますけど。」
「ああ? 何でそんな事言えんだよ?」
---コンコン
「師匠、まだ起きてます?」
ドアの方を二人で振り返った後、俺は鴉羽の方を向くとニコニコとした顔を向けられたのでイラっとして睨むが此のままの状態だと埒が明かないので溜息を吐きながら部屋のドアを開ける。
「どうした?」
「えっと......」
激しく目を泳がせて何かをもごもごと喋っている。仕舞いには俯いてしまって話が進まなくなってしまったので手を引いて招き入れる。テキトーにソファに座らせておく。俺は向かい側に座る。そして、いつの間にか鴉羽は居なくなっていた。紹介しろとは何だったのか。色々と起こる不可解な事に呆れ、溜息を漏らしてしまう。その行動だけでユリナは体をビクッと震わせる。
「大丈夫か? 疲れてんなら早く部屋に戻って寝ろ。」
「......ここじゃ駄目ですか?」
「あ? 他の部屋は狭かったか?」
「いえ、広すぎて困りました。.......。」
「心を読んだりまでは出来ねえから言ってる事は口にしてくれた方が助かる。」
「.....視線、が。」
「ん? ........ああ。」
その続きの言葉を聞かなくても何を言いたいかを察して街の中での出来事を忘れていた事に気付き自分自身が嫌になる。俺は立ち上がり、ユリナを抱き上げて一人で寝るには大きい部屋にあるベッドに優しく降ろす。そのまま横に寝かせ俺はベッドに腰掛け戸惑いながら見てくるユリナに声を掛ける。
「寝るまで見ててやるからさっさと寝ろ。寧ろ寝なかったら手間賃ふんだくってやる。」
「.....それは勘弁してほしいです。.........師匠、もう一つお願いして良いですか?」
「内容によるな。」
「.......手を握ってて欲しいです。」
躊躇いがちに言ったそのセリフに俺は苦笑いを浮かべると否定と取られたと思ったのか出した手を引っ込めた。
「!!」
「これで良いのか?」
引っ込めた手を取って握るとユリナの震えが強く感じられる。此処に来るまでの色々を考えると確かに俺は蔑ろにしてしまったかもしれない。いつもの様に考え事を始めてしまったせいで他が目に入らなかった。そういや、サラにもうちょっと周りを気遣えとか見ろとか言われたっけか、しかも割と最近に。溜息を深々と漏らすともごもごと何かを言いたげな声が聞こえてきた。
「ごめんなさい。」
「どうして謝るんだ。何か悪い事でもしたのか。」
「いや、そういう訳じゃ無いんですけど。.........渋々聞いてくれている感じがして。」
「あー、そう見えるか。別にそういうつもりじゃないんだがな。反省中ってところだ。」
「何ですか、反省って。師匠も後悔する事があるんですね。」
「そりゃあするだろ。寧ろしない人間なんていないだろ。俺は半分くらい人間辞めてるからこんな事言えるか分からねえけど。」
ちょっとした冗談を言うとクスクスと笑い声が聞こえてくる。少し緊張していた様な雰囲気が解けた。
「このまま見てやるからさっさと寝てくれ。ユリナ以上に俺は眠たい。」
「じゃあ、良いですよ。寝ても。」
「.....。」
「何で驚いたような表情するんですか。」
「いや、絶対蹴られるか殴られるかと思ってたから。」
「何だと思ってんですか、私の事。もう、今更何で気にしませんよ。」
暫く考え込んだ後、俺はそのままの体勢でいる事に決め動かないでいるとユリナは不思議そうな顔を浮かべていた。段々と目がトロンとして来ているのを静かに眺めているとその内寝息が聞こえてきたので俺は手を離しベッドから立ち上がる。
「......鴉羽、見張りしとけ。」
「承知しました。」
「ちょっと、良くない奴らを粛清してくる。」
「くれぐれもお気を付けて。」
「俺に勝てる奴なんてこの星の下には居ねえよ。」
そう言い残し俺はバルコニーから外へ繰り出していった。




