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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第5章
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48話 お話しと新たなる街へ



「ただいまですっ!」


「お、おかえり。」



 城内を割りと爆走気味に移動して来て部屋に勢いよく入り今日も今日とて扉を勢いよく開けたのに書類に目を通して全く反応しなかったのでずんずんと歩いていった。そして書類を取り上げて冒頭の台詞を言うと吃驚しながらもぐったりした表情で笑顔を作り言葉を返された。まだお昼前だったがもしかしてここ最近は一日中部屋の中で過ごしているのだろうか。



「師匠!」


「何だ?」



 取り上げた書類に手を伸ばして取ろうとしたので高く持ち上げたら顔を顰められた。



「外に食べに行きましょう。」


「何でだ。」


「それじゃあ指摘しますがちゃんと食べてないですよね?」


「え、いや。」



 しどろもどろになりながら目を逸らすので更に追撃していく。



「それどころか部屋から殆ど出てない、しっかり寝てない。」


「う゛。やることやってんだよ。寝なくても別に平気だ。」


「平気、じゃなくて。あんまり心配させないで下さい。前も言ったじゃ無いですか。」


「言われたな。だけど、」


「だけど、じゃありません。......私に我が儘言って良いとは言うのに師匠は何も言わないじゃ無いですか。少しは頼って下さい。」



 普通だったら子供は我が儘を言ってできる事と、できない事の加減を覚える。大人は我慢して子供の面倒を見る。だから師である人が自由に振る舞える訳じゃないし師匠は元から弱音はあまり吐かないタイプだ。面倒と言いつつサボろうとはしているけどそれはサボっても大丈夫だから。やることは無理してでも進めて終わらせようと一人で抱え込む。前の私のように。最近気付いた私が自慢して言える事では無いけど人を信用して頼るというのは時に大人もするべきだと思う。だって、体が持たないもの。



「何だかんだで大きな力のせいで体調崩しやすいんですし明日から走るんですよ。今日くらいはしっかり食べて寝ること! 私は特にしてあげれる事は無いですから体調管理くらいはしますよ。」


「上から目線かい。本音というかはっきり言うと体が怠くて動けないんだよ。寝たくても熟睡できず寝れない。食べたくても怠いせいか食が進まない。それがもう4日ほど続いてる。」



 日に日に悪くなっていくのも気付けなかった私も何も言えなくなった。異変には気付いていた。けど、どうにも話し掛けづらく黙っていた。何だかんだクラスメイトと過ごす毎日は楽しく目を背けがちだったかもしれない。



「それじゃあ何か食べやすいものでも作りましょう。」


「いや、要らないよ。」


「駄目っ......。」



 「駄目です。」と言おうとした言葉は途中で遮られる。キッチンへ向かおうとしたら手を掴まれ引っ張られた。そのままソファに座らされたのでその行動に目をぱちくりさせていた。



「少し寝たい。ベッドに移動できる元気も無いから枕代わりになれ。」


「.....え。」



 返事をする前に横になられてしまった。珍しく長い髪を一本に縛っている。直ぐに目を閉じてしまったがまだ起きてはいるようだ。ただゆったりとした時間が過ぎていく。静寂。だけど心地よい静けさ。我慢して黙っていた時間、カリカリと焦っていた様な時間とは違う。この世界に多くの人がいて忙しくしているだろうが今だけは二人しかいないのではないかと錯覚してしまう。


 横になってるので表情はよく見えなかったが急に上を向いた。私がぼーっと考え事をしている間にどうやら寝てしまったらしい。寝れないとか言ってた割りにはあっさり寝たなと思い寝顔を眺める。寝顔にはまだ少年の様なあどけなさが残っている様に見える。だけどその身に宿すのは”魔王”の力。有り余る力を何とか御してきた。


 今更ながらだけど、多分私はこの人を好いてしまうのはいけない事だったのではと思ってしまう。此処へ召喚された理由は魔王の復活に備えた戦力増強。勿論胡散臭くて信じていなかったが異世界モノで定番と言えば定番。でも倒した所で日本に帰れるとは限らない。だから本気になれなかった。幾ら自分の住んでいた世界に無い”魔術”が存在しても。


 結果的に自分には恵まれた才能なんて無くてやる気が無いままで大丈夫だったけど。他のクラスメイトを見て、何で知らない人の為に必死になれるんだろうと疑問を持った。勿論、全員がそうでは無かったけど。そして最近召喚された目的を果たせる倒さなきゃいけない相手を知った。暴露されて私の気持ちは実際のところは揺らいでいた。実は今も悩んでいた。本当に良いのかと答えの無い自問自答を繰り返している。そのせいで余計に自己嫌悪に陥って正当化して狡く生きていた。



「.....何も言えないよ。言う資格さえ本当は無いんだ。」



 そう呟いてしまった。そして目からは涙が溢れてきた。素早く拭ったが次々と溢れて来るのでその一滴が寝ていた師匠の頬に落ちた。焦って拭おうとした手を止める。



「師匠?」



 目の端からツウと光るものが零れ落ちた。穏やかな表情が一転苦しそうな顔を見せる。脂汗も浮かび辛そうにし始めたので起こそうとすると目を見開き飛び起きる。覗きこんではいなかったので頭同士がぶつかる事は無かった。荒い息を繰り返し胸辺りに手を当てている。背中からなので表情は見えない。整っていない息遣いだけが聞こえて来る。



「師匠、大丈夫ですか。」



 声を掛けると体をビクッとさせたが直ぐに首だけ振り返り引き攣り顔で笑顔を浮かべようとしている。



「だ、大丈夫だ。」



 そう言う師匠の顔には汗が浮かんでいる。全然大丈夫では無いと言うのが分かる。



「どれだけ寝てた?」


「10分位ですかね?」


「そうか。」


「寝れないですか。」


「これ以上は、ちょっと、な。」



 深い溜め息が漏れる。「やっぱり寝れないな」と小声で言うとソファから立ち上がり窓の方へ近付いていって座った。外をぼーっと眺めているので私はまた何にも言えない。俯きがちだった頭を上げ私も立ち上がりキッチンに立つ。師匠は黙って外から視線を私の行動に向けた。



「代わり、ではないですけど何か食べましょうか。」



 そう言って笑うと微笑み返された。何だかんだ言って結局言いたい事は言えなかった気がする。言うことができなかった、言う勇気が無かったと言った方が本当は正しいかもしれない。



「はあ、つくづく嫌になるなあ。」



 小声で呟いて料理しながらちらりと視線を向けると私に向けていた視線を外に変えていた。らしくもないぼんやりとした表情。注意力が散漫しているというのは有るようだ。苦しい表情を見るよりは私の気持ちの持ちようが大分変わるものの心配の念が耐えない。そう思ってても中々言い出せず口を噤んでしまう。つい独り言を洩らしてしまう程には。


 色々と考え事をしていても手は動いている訳で料理が出来上がっているのを見るとちょっとげんなりする気持ちが沸いてくる。



「俺より大丈夫じゃなさそうな気がするけどな。」


「え?」


「自分の事も考えたらどうだって事だよ。」


「それは....」



 食べ始めてから顔を覗きこんで言うのに対して「心配させる師匠のせいじゃないか」と言いたくなったが留まる。どもる私に不思議そうな表情を向けながらも何も言わずにいた。が何かを思い出したかの様に口を開く。



「そういえば決まったのか?」


「? 何がですか?」


「メンバーだよ。バルディアに行くメンツ決めるの任せていただろう? 決まったのかと聞いたんだ。」


「ああ。決まりましたよ。4人です。」


「ふーん、思ったより多かったな。で構成は?」



 決まったメンバーの名前と職業を伝えるが多分名前は覚えないだろう。興味ないと言われて終わる気がする。



「妥当っちゃ妥当か。」


「ですかねぇ。私はもうちょい増えるかと思ってたんですけど。後数日あれば習得できそうな人もいましたしねえ。」


「何にせよそいつらに出発時間伝えとけ。」


「分かりました。.....寝れるなら師匠はもうちょい寝てくださいね?」


「.....前向きに検討しておく。」



 そんな会話をした後、明日の出発時間などを決めて私は部屋を出て伝えに行った。また部屋に置いてきた師匠が心配なので早めに戻ろうと早足で駆けていく。











「若者に心配されるとは。まだまだか。」



 ユリナが部屋を出た後、部屋で一人言を洩らし先程腰掛けていた窓に近づきもう一度座り窓を少しだけ開ける。一羽の烏が来たので窓をもう少し開けると中に入ってくる。部屋の中を一周すると頭の上にとまった。その光景を見てたのか更に数羽の烏もやって来て肩や足の方にもとまる。俺はボーッとしたまま外を眺めていて追い払わなかった。元々烏は統括している奴がいてそいつの主である俺には攻撃を加えないし言うことを聞く。最近は諸々の情報収集を頼んだりしているのでこうやって飛んできたりするんだが今日は報告しても中々離れないのでそろそろ動こうかと思ったらそれに気づいたのか一斉に飛んでいった。



「.....窓なんて開けて....流石にまだ寒くはないですかね。」


「何だ。気配で帰ったのかよ。」


「? 何の事ですか?」


「一人言だ。」


「そうですか。あ、そういえば伝えてきましたよ。」


「おう、お疲れさん。」



 ガチャっと音を立てて部屋の扉が開かれユリナが顔を見せる。テーブルの上には積まれている資料がある。明らかに部屋を出た時と増えているのが分かる。それを見てユリナが顔を若干顰めたが特に何も言ってこなかった。


 もう書類を読む気にもなれないので全部手元に近付け『アイテムボックス』にしまっていく。すると外から視線を感じ素早く視線を向ける。が、外にはというより街の方から、つまり遠くから見られたので溜め息を吐き視線を下に戻す。



「....また。」


「また? どういう意味だ。」



 ユリナが呟いたので顔を見ると不可思議な顔をして外を見ていた。聞き返すと視線を俺に向け言葉に詰まりながら答えた。



「いや、気のせいだと思うんですけどさっきも視線を感じたんですよ。メンバーを選び終わった後に城の通路から。勿論通路からは此方は見えないはずなんですけど。」


「誰かいたのか?」


「私が振り返った時にはいませんでした。」



 何者かが監視している? 『魔の叡智』という組織が正解に近いだろうが監視対象は俺だけじゃないのか。俺に関しては多分ルギシニラで倒れたときにでも確信されているかもしれないな。でも何故ユリナまで......。



「じっと見て。な、何ですか。」


「いや。何か面白い反応してくれるかなと思って。」


「!? またからかうつもりだったんですか。止めてくださいよ!」


「ハハッ。冗談だよ。」



 頬を膨らまして睨んでくるのを笑って受け流す。今は笑っていられる事態でも無いが深刻そうな顔を見せれば探られるので極力控えねばならないだろう。そんな事を考えつつ俺は窓を閉め離れる。ソファに腰掛け明日以降の予定を話していった。



「とりあえず前にも言った通り4、5日で踏破したい。バルディアの街周辺は此処なんかよりよっぽど整備されてるからそこに着くまでが大変な道のりになるかもな。なんせ山登り、下りもあるしな。」


「ん? 山?」


「知らなかったか? エルシリラとバルディア間は山が聳え立ってるんだよ。とは言えそんなに標高は高くないから身構えなくても平気だ。」


「まあ、4、5日で行けるくらいですしね。」








 この時何故気付けなかったと後悔した。師匠の普通と私たちの考える普通が違うと前から分かっていた筈だ。その事をすっかり失念していた。そして苦労せずとも行けたことを後から知った。



「何が高くないですか....。」


「この世界じゃこんなの高いに入らねえよ。こんなの楽な方だ。」


「はぁ。」



 頂上が雲に覆われているのだが一体何処まで登れば下ってバルディアに行けるのだろうか。そして簡単な道を提示しない理由はなんだろう。ああ、あの笑顔は苦労する顔を見たいが為だろう。白い目になり魂が抜ける後ろにいる4人組。その気持ち分かるよ。でも師匠はとことんやるから避けて通れないし今更戻るという選択も無い。所謂詰み状態です。お疲れさまでした。



「良い修行になるなあ!」


「はあ。」



 再び大きい溜め息を吐きバルディアへ向かって行った。




 バルディアでは更に大きな事を知り、驚き、巻き込まれるのだが私の悪運なのか師匠のせいなのか。多分どっちも、というか近い未来そう起きると予想できていた事だと今では思う。





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