39話 スキルのマイナス面とルギシニラ王の正体
「凄い賑わってる! 何処に行こうかな~。」
私は今一人で街へ出てきている。賢者様がいると注目を浴びるのだ。それでは楽しめないだろうということで気を遣ってもらってしまった。そして、昨日もらった腕輪で見た目を変えている。勿論、私が一番好きな動物である猫の獣人の姿にしている。頭の方に手を持っていく。どうやら触ると感覚があるが耳としての機能があるわけじゃない。実際は顔の横についている本来の耳の方で音が聞こえてくる。他人からは見えなくなっているだけらしい。しかも尻尾まで生えている様に見えるんだから凄いと思う。
「ん~。良い匂い、此方かな~。」
ふらふらと歩き、五感が感じるまま、本能の赴くままと言えば良いのだろうか。好きに歩き回りされど羽目を外しすぎない様にして行きたいところに進んでいく。いつもは察知を常時発動しているようにしていたが今日ばかりは緩んでいた。だからいつもなら察知できてたであろう視線にも怪しげな影にも気付くことが出来なかった。
「魔王様、それはやめた方が宜しいかと。」
「心配なのは分かるっすけどねー。」
「こやつら、特にこやつは気付いてないが似た者同士じゃ、仕方なかろう。あの娘ッ子と違って否定から入って譲らなそうじゃろうし。」
と外野が騒いでいるが俺は無視して仕事にあまり身が入らずそわそわしていた。ふらふらするだろうということが予想できていたからこそ昨日は寝ずに仕事を進めていたのだ。仮眠から覚め執務室に戻り残った仕事を片付けようとしたら爺が来たのでユリナの事を聞いたら一人で街へ行かせたと言われた。
ヒトであるユリナが街に一人で行けば、例え姿を偽っていたとしても、問題が起こらないとは限らないので監視の為に一羽の鴉を放ち視界をリンクさせて仕事と監視を両立させている。最初は少し様子を見るだけに留める予定だったがユリナが俺の予想以上にふらふらと気が赴くままに動くので何か起こると大変だと思い今も様子を心配して見ている。その俺の行動に対しての言葉が3人のさっきの台詞だ。
「似た者同士については意味は分からんがまだ差別意識は残っている者もいることは事実だ。あの魔具があれば大丈夫だとは思うが何かあったら大事になりかねない。そしてその被害が回りに回って俺のとこに来んだよ? 避けれる事は出来るだけ避けたいってのが普通だと思うけどなぁ。」
「ノトよ、ただ面倒と思っているだけじゃろ。」
「失礼しながら私も賢者様のその考えに肯定です。」
「オレもそう思ってたっす。」
「爺は兎も角お前らも思ってたとは聞き捨てならねえな。お前らが直接様子を見張っててくれるなら....ああ、そうだ。折角だし、」
「その命令に関してはお断りします。」「それの命令はお断りっす。」
「あっそ。」
代わりに行って見てこいと言おうとしたら言い切る前に言葉を被せてきて断られた。ハラハラしていても仕事は少しずつ進めているし文句を言われる筋合いは無いと訴えたい。
「ところで爺、思ったより早く終わったんだな。」
「そうじゃな。それだけ才能があり努力を怠らなかったということじゃろう。先が恐ろしいわい。」
「ふーん。」
そう言えばと思い出しながら喉を潤すため飲み物に口をつけながら、スキルでユリナのステータスを確認する。
「ブーッ。ゲホゴホ。何だ、このステータス!」
「む、なんじゃ。ステータスを見たのかの?」
「な、何で....」
何で、思ったよりステータスが伸びてないんだ。魔法の[属性色]も〈副〉に一個増えただけ。
ルピとレイトが何やら文句を言っているが俺の耳には届かずステータスを前のめり気味に何度も見直すが変わり無い。俺の予想ではグンとステータスが伸びてスキルも[属性色]も増えると思ったんだが。カップを机の上に置いて頭を抱える。可能性を考えブツブツと呟いていた。
「ノトよ。」
「....あ? 何だ、爺。」
「おぬしとユリナは此処に来た経緯が違うし持っているスキルや経験だって違うのじゃ。その辺りの差もあるじゃろうし何よりスキル契約でその辺の規制かかっていたというのでは無いのか?」
「いや、そんな筈は...」
完全に否定しきれず、急いでスキル効果を辿るとステータスの上げ幅に関して記載が有ったのでじっくり読んでいく。普段のステータスが上がる分としてかどうかは不明だが限界突破時のステータスはあまり上がらないと有った。
「はあ、まじか。弊害も有ったのか。」
「プラスばかりのスキルなどそうそう有るもんじゃ無いって事よな。そんなに落ち込むことでも無いだろう。それにユリナは喜んでおったぞ。娘ッ子にとっては喜ばしいものだったんじゃ。会う時に喜んでやるのじゃよ?」
「何故俺が喜んでやる必要が有るんだ?」
「やはりこやつ自身も気付いておらんかったなぁ。そなたらもこの鈍感に何か言ってやってくれんかのう。」
「それは、賢者様の指示でも従いかねます。言っても無駄になる可能性が高いので私からは特に言うことは有りません。」
「魔王様、自分の気持ちを素直になって考えろってことっすよ。」
「? 皆して訳わかんねーこと言うんじゃねえよ。」
頭をがしがしと掻いて眉をひそめる。何の事がさっぱり思い当たらない。暫く悩んでいたが俺は目を見開き、ガタッと大きな音を立てて謁見の時に羽織る服を取り部屋を勢いよく出ていく。
「ま、魔王様っ、どちらにっ。」
そんなルピの声も聞こえず服を羽織りながら城を出て街の方へ降りていく。普段の俺ならばあまり見せない焦燥の顔を浮かべ走っていく。街の住人もそんな俺の顔を見て驚いているが脇目も振らず目的地へ向かう。
「―――ッ。」
「―――。」
何やら喧騒が聞こえる。聞こえてくるのはメインストリートから外れた場所。俺は到着するや否や腰に身に付けていた鎖型の魔具で騒いでいた方の集団を体を拘束し身動きを取れなくする。
「何だ、これっ。」
「くそっ、動けねえ。」
拘束した男たちが次々に文句を言う。俺が唯一拘束してない奴に目を向ける。
「えっ? 何で此処に魔王様が?」
「ま、魔王だとっ。」
「我が街で何を考えてるかは分からぬが許可なく獣人の振りなどして許されると思っているのか。」
いつの間にか追い付いていたルピとレイトに目配せし速やかに対処される。俺はその様子を眺めながら考えを巡らす。
レイトから報告があった謎の組織の暗躍。この街にも迷宮は有るがそこを探っているのだろうか。しかし街へ簡単にヒトが入れるようになっている訳では無いのだが。手引きしたものがいるのか。街の衛兵に捕らえた者共を引き渡しながらルピとレイトが何やら話している様子を眺めていると時折、目の前で振られている掌がちらつく。
俺は気付かず考えに没頭していると何やら近くで声も聞こえるがこれも考えに熱中しているため入ってこない。迷宮の最下層の謎を解き明かし動いているのか? 一体どうやって。レイトが未だにどういう組織であるかも全体像が確認できていない。それぞれの街の迷宮の最下層にいる奴等は簡単にやられる訳がないし、やられたら俺に報せが飛んでくるはず。情報だけを密かに抜き取ったのか? そんなのあり得るのか。駄目だ。考えても全く答えが導き出せない。
「――、―――様っ、魔王様っ!」
「あ? ああ、そういえば怪我は無いか。」
全く答えが導き出せず詰まってしまったため周りの状況が俺の目に、耳に入ってきた。そして俺に必死で話し掛けようとしていたのは騒ぎに巻き込まれ絡まれていたユリナ。俺は気付いて慌てて反応を返した。
「ええ、大丈夫です。それにしても魔王様、いらっしゃるのが早かったですけど。何となく分かっていたんですか?」
「も、勿論、此処最近は少し怪しげな動きが有ると報告が有ったからな。少し街全体を確認していたらこの様な騒動が起きている事に気付いて急いで来たのだ。客人に怪我が無さそうで何よりだ。」
まさか「監視してました。」とは言えず誤魔化す。どうやら納得してくれたようで安心した。ホッと見えないよう息を吐く。
「魔王様。ご報告がございます。」
耳元で声を潜め話しかけてきたルピをちらりと見やり頷く。俺は報告を聞くため城へ戻ろうと踵を返そうとした。すると急にドクンという自分の大きな心音が聞こえた。
「ぐっ、う゛う゛ぅぅぅ。」
その瞬間心臓を鷲掴みされてるような急激な痛みが襲い、俺は胸を押さえながら、立っていられずに崩れ落ちる。周囲のざわっとした状況を最後に俺は苦しみながら意識を失った。
「魔王様っ!」
ルピさんから何か耳打ちされて城へ戻ろうとしていたのだろう。私はそれを見ていたが魔王様が、城へ無事戻る事は叶わなかった。魔王様の顔をずっと見ていると急に魔王様は目を見開いた。どうしたんだろう、そう思ったのも束の間、急に心臓辺りを押さえて苦悶の表情と声を上げ崩れ落ちる様にして倒れ、意識を失ってしまった。それは、走馬灯の様にスローモーションで倒れる様子が映りドサッと倒れこんだとき私は呆けてしまっていた。今まで聞いたことのないルピさんの焦燥の声が聞こえ我に返る。周囲のざわつきが大きくなる。私は冷静になり今だ焦っている様子のルピさんとレイトさんに少し大きめの声で話し掛ける。
「ルピさんっ、レイトさんっ、一先ず魔王様を移動させましょう! 此処では人目が多すぎますっ!」
「っ! そうですね! レイト出し惜しみ無しですよっ!」
「了解っ!」
そう言うと二人がかりで転移を発動させた様で一瞬で周りの風景が様変わりした。その部屋は広々した寝室で苦悶の表情を浮かべ額に大量の汗を滲ませている魔王様をベッドに移動させる。私はそれを見ながらバッグからタオルを取りだし不敬だと言われるのも承知で汗を拭っていった。
「えっ。な、なんで....。」
私が思わずそう声を上げてしまったのは仕方ない事だと思う。汗を拭き取っていると急に白く短かった髪が黒に染まり長くなっていった。私は思わず手を止めてしまった。だって、見知った顔だもの。何時も好き放題やって私を笑わせたり困らせたり此方の世界に来ても暗くなっていた私の生活を一変させてくれた大切な人。そして、賢者様との一対一の修行中で時折話していると気付かされた。何を? 私が彼に対していつの間にか惹かれてしまっていることに。
「し、師匠....。」
思わず一歩後退り考える。もしかしなくても、これは事実だ。だって今まで魔王様を見ていたのだから。すり変わった訳じゃない。魔王様と師匠は、ど、同一人物って事だよね。
「....これは予期せぬ所でバレてしまいましたね。不本意な結果と言われるでしょうね。」
「でも、隠し通せると思っていた魔王様も考えが甘かったとしか言い様ないっすよ。いつかこうなるとは思ってたしそれが早まっただけっすよ。」
と声が聞こえそちらを見ると曖昧な表情を浮かべているルピさんと呆れた表情のレイトさんが立っていた。てかレイトさん喋り方変わりすぎてないか。と現実逃避気味に見ていると二人はベッドの方に視線を移した。私もそれに釣られて見る。
「....んぁ?」
そう声を洩らし徐々に目を開けボーッとしている様子に私はどう話し掛けていいか分からず戸惑っていた。気持ちに気付かされていてそれを思い出してしまったというのと秘密を意図せず知ってしまったという罪悪感みたいなのに苛まれていたからだ。
「魔王様。お目覚めになられましたか。状況を覚えておいでですか?」
「あ゛? ....あぁ、倒れたのか。」
「魔王様、オレらの方だけじゃなくて反対側も見た方が良いっすよ。自分の姿を確認した後に。」
「? ああ、流石にコントロールしきれずに姿が戻ったのか。んで横って何が....っ!!?」
力は入らないようで自分の様子に気づいた後レイトさんが指差した方を首だけ回すと見事に吃驚したまま固まった。私もどうしていいか分からず固まっているのでシーンと部屋が静まり返る。
「....バレた?」
「.......すみません、変化してたの見てました。」
じっと見つめられそんな事を聞かれたら私も素直に答えるしか無い。すると師匠は白い目になって魂が抜け落ちた様な表情を見せた。私は驚いて近付き思わず「死んじゃダメですよぉぉ!」と言って体を揺さぶる。そんな様子が面白かったのかルピさんは微笑をレイトさんは爆笑している。
「....無茶苦茶イラッと来たからお前ら消滅させてやる。」
そうドスの聞いた言葉で言うとルピさんもレイトさんもピタリと笑うのを止め真顔に戻る。いや、レイトさんは肩震えてる。
「えっとー?」
「....忘れろって言っても無理だよな。」
再び私の方を向くと困った様な表情を浮かべ疑問ではなく確定事項の様にして言った言葉に私は曖昧に返事を返す。
「...多分?」
深々と溜め息を吐いている様子を見ていると無理に起き上がろうとしていたのを介助する。やはり本調子で無いこともあり起き上がった体勢そのままに介助した私の方へ倒れてくる。思わず体をビクッとさせると耳元から優しい声が聞こえてくる。
「ありがとな。」
何に対しての感謝かと悩む以上に、師匠に顔を見られなくて良かったと心底思った。まあルピさん、レイトさんには見られていて笑顔を向けられているのは居たたまれなかったけど。多分だけど今の私の顔、耳まで真っ赤になっていると思う。ちょっとしたパニック状態に陥っているとスー、スーと言う音が聞こえてきた。どうやら寝てしまったらしい。倒れこんだ体勢そのままで。
「こ、この状況はど、どうすれば....?」
そう呟いて落としていた視線を上に上げると誰もいなくなっていた。えっ、いつの間に、居なくなったのっ!? どうやら、この状態で放置されたみたい。
「と、取り敢えず横にさせた方が良いよね?」
なんとか横にさせたので離れようとしたらぐいっと引っ張られた。「きゃっ。」と声を出してしまったのもしょうがないと思う。普段の私だったら出さない声だったのも忘れたい。と、そんな事を考えてる場合じゃない。完全に腰に腕が回されていて身動きが取れない。向き合うようにして私も横にされた。流石にこの状況は心臓が持たないので脱出を試みたものの全く成果が無かった。
しかも部屋に誰もいないし周囲に人の気配も無いため助けを求めることも出来ない。というか仮にもトップなのだから寝室なんて場所おいそれと入れる所じゃ無いよね。それにあの二人によって誰も入れなくされてる予感さえしてる。この状況に泣きたいのを抑えて仏頂面をする。ちらっと少し上に目線を向けると穏やかな表情を見せながら、規則正しい寝息を立てている師匠が見えた。賢者様に色々と気付かされた事も有り、ポヤーッと寝顔に見とれていたのに気付き視線を下げる。そんな心臓が高鳴る状態でも不思議なもので人肌を感じている状態で横になっている事も有り、うとうとし始めたらいつの間にか私も眠ってしまった。




