3話 初魔法と変な人
取り敢えず彼女が泊まるスペース確保の為に部屋に案内したいが、その部屋までも俺の仕事道具で溢れ返っていた。改めて自分の家の状況を見て思わず苦笑してしまうが此処まで放置して気付かない振りをしたのも悪い気持ちになって来たので何とも言えない。ユリナに「掃除しないのか?」と言われて実は的を得ていて言い訳がましく反論してしまった。面倒な性格も此処まで来るとこうなるのかと今は客観的に遠い目をしながら見ている。
「まあ、折角名乗って貰ったしこれからはユリナと呼ばせてもらうわ。して、頼まれた案件として此れから強くなる為の修行をしようとは思うが、その前にこの家の状態を見ても分かる様に俺は家事を全くしない。する必要性が無かったし何より此のままでも困っていないしな。ということで、ユリナに此処で生活してもらうなら自分で色々やってもらわなきゃいけない事になるがその辺大丈夫か。」
「まあ、こんなになる事は無いとは思いますけど。」
「そ、そうか。なら自分の分くらいは自分で頼むわ。後この辺の俺の仕事道具は俺が片付ける。というか自分の部屋に持って行くからそのままにしておいてくれ。そうすると、ユリナが使う部屋含めて自分が使う所を中心に自由に掃除して使ってくれ。物も移動してもらって構わないから。」
「分かりました。だけどどう片付けるんです? 結構な量有りますよ?」
「まあ、見ていれば分かるさ。それは後でやるとして最初に言っておくことがある。まあ、守って欲しい事なんだけど、俺の部屋には入ってくるな。朝も起きてこなくても起こしに来ないでくれ。取り敢えずそれだけ頭に入れといてくれ。」
「はい。」
「それと、こっちのお金とかって価値とか聞いてるか?」
「ええ、お金に関しては少し教えてもらいました。実際幾らかは頂きましたし此処に来るまでに使いましたのであまり残ってないんですけど。」
「お、そうか。それじゃあ、これ渡しとくわ。」
俺はテーブルの上に置いていたバッグから袋を取り出して渡した。幾らかお金が入っている。
ユリナは渡された袋の中身を確認するとぎょっとした表情に変わり慌てて此方に袋を突き返してきた。自分が想像していたよりも多く入っていたのだろうか。必要量だけ渡したつもりだったのだが。その表情と行動に俺は疑問を感じて、首を傾げて見ているとユリナが声を出した。
「こ、こんなに渡されても困ります!」
「言っておくが、キッチンには食べ物は殆ど無い。それ位有れば好きな物買って食えるだろうし勝手にキッチンを使ってもらっても構わないから自由にしてくれ。ああ、備品など足りない物はまだ買わないでくれ。取り敢えず食べ物だけで。食べ物買うのにそれ位が妥当な額だと思うが。」
「…………。」
説明を聞いても頬を引き攣らせたまま再度視線を落として黙って袋の中を見たユリナに俺は増々疑問に思うが受け取って貰ったし特に問題無いなと思い気にしない事にした。
一先ず話す事は話したし俺の家全体が仕事場になりつつというか既になっているこのカオスな状況をどうにかするか。
元々俺の部屋にあったものだろうから全部入りきるだろうと思い少し集中して風の“魔法”を発動させる。そして、全て部屋の方に送っていく。
「え!? 道具が勝手に。」
「ん? ああ、“魔法”を見るのは初めてか。確かに城の中で見るのなら“魔術”だしこの反応も相応なのか。」
「“魔法”?」
俺が“魔術”を発動させて火をカノにちらつかせた時落ち込んでいた様に見えたが今回はそれが無さそうだ。“魔法”に関しては純粋に驚いて疑問に感じている様だ。そういうのは教えてもらっていないのかと考えて後で教えなきゃいけないなと考えていた。
そしてふと重大な事を忘れていた事に気付く。最後の道具が部屋に入り切って安心しつつも瞳を輝かせて“魔法”を眺めていたユリナに待っている様に声を掛けてから部屋にある物を取りに行く。探していた物はずっと使っていなかった物だったが案外あっさり見つかり笑顔になる。俺は見つけたそれを持ってリビングに戻る。
そして、それを渡す。ユリナは嫌そうな顔をして中々受け取らないので溜息を吐いて「早く受け取れ。」と目で促して押し付ける。舌打ちしなかっただけ良しと言える反応だと勝手に考えたりしているが溜息を目の前で吐かれるのも大概な事に気付かないのがノトクオリティー。
彼から渡された物には何と無く見覚えが有った。それはお城で最初に見て、私に更なる不幸を舞い込んだ元凶である『鑑定石』をノトさんから渡された。
私の嫌な様子が顔に出ていたのか私が中々受け取らないのを見てノトさんは目で訴えるばかりか溜息を吐いて押し付けてくるので少し震える手で『鑑定石』を受け取る。ただ、お城で見た鑑定石は水晶の様に大きな球状の物だったが、今渡されたのは長方形のタブレット端末の様な形だった。サイズも私が使っていたスマートフォンのサイズ位よりやや大きめで下部に小さめの球状の水晶が埋め込まれているという物だった。何故鑑定石と気付いたかというと水晶の色の感じが同じに見えた事や此れから強くなるには必ずステータスを聞かれるだろうと思っていたから。結局何となく気付いてしまったという割と根拠の無い考えだったものの合っていた。
お城ではその石に触れた瞬間にその球体が淡く光り、自分の情報である“ステータス”が大勢の前で開示されたのだが……。
だけど、今持っている鑑定石はステータスが表示される事も無く、光る事も無かった。嫌だからと言って球体の部分を触らなかった訳では無いしましてや表示されないといった事を起こせる訳でも無いので私は戸惑ってしまった。やっぱり『鑑定石』じゃ無かったのかな?
何故だろうとぐるぐると頭の中で考えを巡らせていると辿り着いた結果がネガティブ思考で「自分が弱すぎて表示される事が無いのか。」というところに落ち着いてしまい、ショックで落ち込みかけていた時にノトさんが急に吹き出して笑い出した。自分の考えがまとまって落ち込んでいる時だったので笑い出した時は驚いてしまったが「ああ、やっぱり弱いからダメなんだ。」と考えの肯定に聞こえてしまい更に落ち込む原因となったがそんな私の様子には気付かず笑い続けていたノトさんが独り言を大きな声で言う。
「フフッ、アハハ。いやー予想通り過ぎて笑うしかねえなー。本当はこんな事になるとは考えたくなかったなあ、面倒になるし。開く作業からってのも大変だし暫くやってないから上手く出来るか心配だから勘弁してほしかったが、色々説明していくし都合良いってか。此れは有れか、俺への悪戯か何かか………いや、あれか、普段の行いが悪いとかって奴か、そう考えると腹立って来たな。にしても久しぶりに笑い過ぎたなー、しんどー。フフッ。」
言っている意味の半分以上意味が分からずノトさんが少しおかしくなってしまった? と思っていると割と冷静になって後半の方の自業自得的な発言を聞いて笑いが吊られそうになったのは黙っておこう。冷静になった後、「貶されている!?」と思っていた考えも、ノトさんがとても楽しそうだった為、私は何か言われるまで取り敢えず黙っている事にした。よくよく考えればこの渡された物が壊れているという事も可能性としては有る。
そんな考えが顔に出ていたのか鑑定石の方を見てもう一度ノトさんの顔を見るといつの間にか私の方に視線を向けていた。
「言っておくが壊れてはいないからな………ただ、今ので分かったことが有ってそれが予想通りで面白かったから、つい、な。まあ面倒事は増えた訳だが、今は一体どうなるか考える方が楽しみだ。」
なおもカラカラと笑い続けている様子に「むう」と小さい声で唸って頬を膨らまし不満顔を露わにして見ていた。
結局自分で分かっていれば問題ないみたいで詳しく説明はしてくれなかった。見えていない物を見て何が分かって面白かったのだろうか。
「悪い、悪い。そんな顔で俺を見るなよ。まあ、今はまだ疑問も不満も有るだろうが、今日はもう日が落ちるから、明日詳しく説明してやる。それにそろそろ日が落ちるから、日が落ちる前に街に行ってさっき渡したお金で食べる物買ってくると良い。ああ、後疲れているだろうし、此れを飲むと良い。」
「ありがとうございます………? これ何ですか。」
「疲労を回復する薬。よく効くぞ。城にいた時あまり眠れていないのだろう? 上手く隠そうとしているみたいだけどバレバレだよ。まあ、此処ならユリナの害する物は来ないしゆっくり寝ると良いさ。さっき話した事さえ守ってくれれば好きに過ごしてもらって構わないからさ。」
眠れていない事を隠す為目の下に少し化粧をしたのだがあまり意味が無かった様で見透かされていた様だ。確かにノトさんの言う通り、此方の世界に来てから心労含め様々な事案によって眠れていない生活を続けていた。言われた事が図星だったので体をビクッとさせてしまったがノトさんはその反応に対して笑顔を見せて肩を竦めていた。色々と言動は直接的に言ってくるものの騙そうとする感じはしないので少し安心できそうな気がする。眠れるかについては分からないけど。
そして、渡された薬を見て「本当に疲労を回復何て出来るのか。」と訝しみながら見ていると再び笑い声が聞こえてきて顔を上げると笑い声の割には苦笑い気味の顔のノトさんがいた。
続く言葉にちょっと笑えない事も有って反応に窮したけどそこは少し話して分かったノトさんの性格とかを考えると今更感も有るのでスルーした。
「怪しいと思う気持ちは分かるだろうが毒殺なんてしようとか考えて無いからな。面倒だし何より毒を使わなくても人一人位なら軽く“魔術”でも“魔法”でもぶっ放して始末する方が楽だし。それに、明日から色々と説明したりして俺だけじゃなくユリナ自身も忙しいし、大変になるだろうし、今日しっかり休まないとついていけないぞ。ましてや強くなるというのは夢物語になるぞ………なんだ、初めてそんな顔してるの見たな。」
「えっ? 気にしないで下さい。ただ、何でもお見通しなんだなと思っていて……吃驚したというか何というか。」
「そうか。まあ分かる時は分かるし分からない時は分からないぞ。ユリナは分かりやすい部類だと思うがな。兎に角人生なんて楽しんだもん勝ちだからよ、どういう生活をしようが俺は文句を言わないけど、湿気た面して過ごすのだけはやめてくれよ。楽しい物も楽しくなくなっちまう。今までの生活をさっぱり忘れてとも言わないから楽しいと思った事を好きに突き詰めていってもいいし。それじゃあ、俺は部屋に戻るから、何度も言うがさっき言ったルールは守れよー。」
「ええ、はい。ありがとうございます。」
ノトさんは部屋に戻る前に思い出した様にして一度キッチンに向かい多分私が来る前まで食べていたのか、食べかけの干し肉の様なものを口に咥えながら部屋に戻ろうとしていたので慌てて深々と頭を下げて改めてお礼を言って頭を上げるとノトさんは食べ物を咥えたまま困った様な顔をしつつも手をひらひらと振って部屋に入っていった。
最初こそ、ノトさんの雰囲気が少し怖かったが、裏表が無い人だと分かったし、色々と疑ってしまった事に関しても別に怒られなかった。何だかんだ面倒とか言いつつも優しくしてくれるところに感謝の念が尽きない。
ただ、この人が強いかどうか聞かれると其処は不安だ。あくまで“魔術”も、“魔法”も一端だけだったし。始末やら不吉な言葉を言っていたが。それに“魔法”は聞いたことが無いが実際“魔術”とは異なる方法で本を移動させていた。何故“魔術師”として出来損ないの私に見せたのだろうか。未だに自分が本当に強くなれるかも分からないので不安だらけだ。だけど、今までいた環境よりは温かみを感じ安心出来ている自分もいて驚いている。まだまだ分からないこの状況で一つ確実な事と言えば、
「……変な人。」
そう呟いて自分の言葉に少し笑ってノトさんから「妥当な額」と言われて貰った大金を持ち、脱いだローブを再び羽織り直す。そしてもう一つ貰った回復薬を飲むと、本当に元気が出て今日何度目か分からない驚きをして私は街に向かって歩いて行く、此処に来る時以上の軽快な足取りで。