11話 初挑戦と過去
今でははっきりと分かる、自分の力が。あの時、そう城にいた時、私は何も感じず周りからも失望と嘲笑が渦巻いていて息苦しかったけどその時とは違う。それどころか城に残っている皆と今の私を比べると私の方が上であることまで錯覚してしまう。まだ自分の力を自在に操れる訳では無いけれど内包する力の大きさに驚かされる。
最初こそ焦ったものの今は自分の力に気付く事ができ安心したお陰かとても落ち着いているのを他人事の様に感じている。師匠も才能が有ると言っているし大変なのは此れからだろうけどワクワクする気持ちが勝っている。だけど何より今はこの状況を楽しみたいと思う。
嫌な事を思い出して暗くなるより前向きに楽しい気持ちでいた方がきっと自分でもやれると思う原動力になるだろうし。
と考えていた私だが少し、いや、かなり楽観視していた。
才能が有るとはいえ元々科学の発展が進んでいた日本に育っただけ有って魔力を感じるだけなら容易かったが(師匠のお陰だけど)操作となると上手くいかなかった。何度か魔力を流しすぎたりして暴発しかけたが師匠と結んだスキル『果てに紡ぐ力』のおかげで暴発は起きないそうなのだ。師匠は最初こそ「そんなもんだよ。」と苦笑していたが今では頭を抱えているというか顔が引き攣っている様に見える。
コツが掴めない、やっぱり才能は無かったのかなあ。と内心泣きかけて考えていたらまた魔力を流しすぎた。
内包する魔力を感じる事はできていてそこから少しずつだけど取り出して流す感じも分かってきている。その取り出した魔力を手に流すようにイメージする。
魔力の量が少なすぎても多すぎても駄目。師匠が言うには自分の目で見た時に自分の属性色の[青]で手が覆われたら取り敢えず合格点は出せるそうなのだ。けどやっていくと分かるのだが、少なすぎる時は白っぽい光が手に纏っていて青色には程遠い、そして足りないと思って魔力を多く流すと流れ過ぎて制御が利かず魔力が溢れすぎて手が光に覆われ過ぎてしまう。一応その時は青色にはなるのだけれど。
そんなことをずっと繰り返して疲労感から息を切らしながらもやっているので師匠に助けを求めると満面の笑みで、
「もう必要な事は教えたし魔力操作何て人それぞれだから俺のやり方だから出来るという訳でも無いし俺はどうやってるとかもう考えないからアドバイスは出来んよ。……フフッ。」
そう言った上に結局笑いを堪え切れず弟子を目の前で笑う始末。見返してやるとか思っても中々できなくて悔しく思っていると師匠に「何回も失敗しても良い。繰り返しやるしかない。」と言われるので努力はしている。特に午前中無駄に過ごしてしまった為午後は気合を入れなきゃと思って少々焦っている所も有った。
結局上手くいかずいつの間にか夕日が見える。夕日に気付いたと同時に師匠から終わりの声を掛けられたのを聞いて緊張の糸が切れたのか急に疲れが出てしまい………その後の事はあまり覚えていない。
余りにユリナが魔力操作を出来な過ぎて期待を裏切ってきた事に笑っていたのだがいつの間にか夕方になっておりそろそろ切り上げようと思い声を掛けたらユリナは疲労で倒れてしまった。
流石に気付くべきだったがユリナの魔力量とこの場の漂う魔力量とを考えると倒れるのはかなり早いし実際に魔力を流す事が出来てはいるので直ぐに習得出来る筈なのだが。
―――【魔力】とは
心の強さにも直結する。心が弱いと魔力が安定せず暴走する事も有る。冷静になれという訳では無いがある程度自分を強く持っていないと上手く操作できない。その一例が250年前の魔女狩り。心を崩されて暴走させたというのがきっかけで起きた事だ。その事を起こした人物は元々心が脆弱だった。だけど周囲の環境が彼を変えた。彼は周囲の人を守る為に心身共に強くなった。でも―――――――。
と、今日はもう終わりだな。ユリナを此処で起こした所で真面に動けなそうなので所謂お姫様抱っこで彼女を抱えて家に戻る。
取り敢えず起きたら彼女の今までを聞いてどうにかしないと駄目だな。彼女は話したくない様だったがこのままでは強くなるなんて夢のまた夢だ。思い出したくない事を聞くかもしれないが心の弱さの原因を除去しなければいけない。一応事情は後で聞くと言ってるのでいつか話さなきゃいけない事は分かっていると思うので起きたら直ぐ聞いてみる事にしよう。
恐らくだが、午前中無駄にした事を気に病んでそうだな。そういう邪念も割りと影響するのだが。実践する前に最低限それは伝えるべきだったか。とはいえ表層意識は簡単に変えられても、深層意識というのはそう簡単に変えられるものでも無いし、関係ないかもしれないな。俺にとっては今や魔力操作何て呼吸すると同義みたいなものだからどうやってたかなあ。と思い返しても一向に思い出せない。それに”魔法”に関しては何せ教えた事なんてないものだからどうしていいか分からないというのも有る。
今思えばあの人は凄かったんだなと思う。会いに来いって言われて約束もしたしその内会った時にでもユリナを任せても良い気がする。
そうして考えを巡らせながらも家に着くとリビングにあるソファに寝かせて毛布をかけてやる。じっと見ているのも悪いし起きるまで自分の仕事を進めとくか。
「……ん。……あっ!」
目覚めた時は寝ぼけていてけど何をしていたのかを思い出して飛び起きようとするも体が若干だるく起き上がる事が出来なかった。そういえば、私は魔力操作を結局できず師匠に声を掛けられた時に倒れたのだ。
でもなんで家の中にいるんだろうと疑問に思っていると
「ああ、漸く起きたか。体調は大丈夫か? だるい感じはー、残ってそうだな。」
優しく声を掛けられて声の元を辿って寝たまま其方に顔を向けると眼鏡をかけた男の人がリビングの椅子に座り書類を持ちながら視線は私を捉えていた。声は師匠なのに眼鏡を掛けただけで雰囲気が変わっていたのでポカンとしていたら師匠は私の様子に気付いて最初は笑っていたが眼鏡を外して眉をひそめつつも、からかう様な声音で此方を見た。
「俺が眼鏡を掛けているだけでそんな呆ける事無いだろうに、全く。大丈夫か?」
「え、あ、はい。体は怠い感じは有りますけど体調自体は大丈夫そうです。起き上がるの少し無理そうなのでこのまま話してますけど。ご心配おかけしました。それに師匠が此処まで運んでくれたんですよね? 有難うございます。」
「ユリナが倒れるまで気付かなかった俺も悪かったし気にするな。それに今日はもうこれ以上は出来ないし、」
そう言っている途中に立ち上がり寝ている私を上半身だけ起こして座る様体勢を変えてから師匠はそんな私の目の前で視線を合わす為に中腰になり真剣な表情で私に質問してきた。私としてもあまり思い出したくない元の世界の出来事について。
「ユリナが此処まで来る経緯に関しては何となく察してはいるが詳細が知りたい。思い出したくない辛い記憶も有るだろうがこれを克服出来ない事には何時までたっても魔力操作さえも上手くいかないだろう。此処まで支障をきたすとは思わなかったというのが素直な感想だ。それに何やら焦っている様だし今日一日をこれ以上無駄にしたくないと思っているならば、ゆっくりでもいい。話してくれ。……ただ、自分の心を整理する時間は欲しいだろう。俺は少し遅い夕飯でも作るからその間じっくり考えていてくれ。」
そう言って師匠は机にあった書類を持って一度部屋に戻ってからキッチンの方にいった。というか師匠料理出来るの? と不安に思いながらも少し気持ちを整理すべく過去を思い返していた。
虐めの事は幾ら私だってあまりに陰湿な物に嫌気が差し親に相談したりしていた。でもその度に両親は口を揃えて言うのだ。「「百合奈が悪いんじゃないの。自分本意で動いているんでしょう?」」と。きょうだいも両親にも仲の良い友達はいるだろう。そんな良い環境に住んでいる人には所詮私の考え何て分からないし味方になってくれる訳でも無い。どうせ先生だって生徒同士の厄介事には首を突っ込みたくないと考えている筈だ。
何処まで行っても人間は人間。虐めてくる奴らも両親も同じ人間なんだ。そう考えるとこの世の中人間で成り立っている事を思い嫌気が差したし無性に死にたくなった。
そう、師匠とは言え同じ人間。結局私の今までを聞いたら批判的な事を言ってくるに違いない。そう思うと言い出す事なんて出来なかった。どうにもならない気持ちを抱えてどう話すべきかと結論が出ずにいると夕飯を作り終えた師匠が料理を持ってきた。それを恐る恐る手をつけたがとても美味しくて驚いてしまった。面倒と言って出来るのにやらないという事実にらしいと言えばらしいのかと思った。しかも少し体が怠かった私の為に食べやすいものを用意していてあまり食欲が無かったが食べきる事ができ何となく体調も改善してきたように感じる。食べている間てっきり師匠から色々聞かれると思っていたけど食べている時終始無言だった。
午後の修行に関わって来る事で有ると聞いていたのに結局食べ終わるまで何も言われなかったので少し面食らってしまった。食べ終わった後も師匠が片付けまでやってくれて少し横になるよう言われて私は言われるままソファに横になり片付けの音だけを聞いていた。その音が止みリビングに欠伸をしながら戻ってきた師匠は椅子を私の寝ているソファの足元付近に置き真剣な表情と声で話をし始めた。
「ユリナ、俺から楽しくはないが昔々のある魔法使いの男の話をしてやる。」
「? ……はい。」
――――その男は弱かった。特に心が。自由気ままに振る舞い自分が楽しければ他を切り捨てていくというのを優先に日々を過ごしていた。そんな男はある時男女2人と出会いひょんな事から3人パーティーを組む事になった。3人とも趣味も性格もバラバラ。そんな彼らと冒険していく中で男は以前の行動を反省し自分中心の世界だけでなく彼らも守れる様になりたいと願う様になり段々と守る為の強さを磨いていった。
そんなある日彼等のパーティーは最強であり最凶の敵と対峙するものの見事撃破。しかしその敵を撃破後、数日のうち男は自分の異変に気付く。強くなり過ぎた力を御する事が出来なくなっていった。そんな中パーティーの一人であった女が急に行方をくらます。
必死に行方を捜し辿り着いた先で彼女は息絶え絶えで倒れていた。男はそんな彼女を見て精一杯御してきた力を全て出しこの状況に陥れた者たちを皆殺しにした。
結局男は力を制御できず暴走させてしまった。心は彼女らと共に冒険をして強くなったと思われていたがそう見えていただけで実際は深層の心は弱いままだった。
「心の強さが必要だというのを知る為の.....ある男の戒めの物語だ。結構端折っている所も有るがな。」
「………。それで、」
「ん?」
「それで男はどうなったんですか。」
「さあな。物語だから詳しくは覚えていない。だけどこの話は感情を持つなという訳では無い。復讐したいとか力に自惚れるとか好きにしていいんだ。守らなきゃいけない事は魔力を操作するときだけは邪念は持っちゃいけない。普段考えるのと魔力を使う時、それは別で考えろ。だったらどうすればと思うだろう? なら一番に魔力をどう使いたいか、と考えるのが良いだろう。そうするとイメージも固まるし使いやすくなると思う。まあ前にも言ったが魔力の操作方法のコツは人それぞれ。だけど操作中の考え事はプラスの方が良いと思う。俺の勝手な意見だがな。」
「………。大事な事は分かった気がします。まだ整理出来ていないので中々上手く話せないと思うんですけど良いですか。」
「良いも悪いも有るかよ、まだまだ夜は長い。眠くなるまでゆっくりと話すといいさ。」
ゆっくりながらも私は過去の話をした。恥も外聞も捨て最後は涙が溢れ、泣きながら語ったが師匠は最後まで真剣に、時に頷いて聞いてくれた。たまに暖かい飲み物を出してくれてそれを飲みながら自分の気持ちを吐露し整理していった。言いたい事を言い切ったらどっと疲労が襲ってきて急激な眠りに誘われた。
夢現で先程師匠から聞いた話を思い返していた。不思議とあの男の話は興味をそそられた。物語と言っていたし何かしらの本の内容なのだろうと思ったけど題名が分からない。あの大きな本屋さんに行けば見つかるだろうか。聞いてみて読んでみるのも悪くないかもしれない。
―――暫くして休暇が出来たユリナはこの物語の本を購入しに以前ノトと共に行った本屋含め街にある全ての本屋を回っても見つけることができなかったが。
眠りについて意識を手放した為師匠が私に「お休み。」と言い毛布を掛け直した後に言った言葉は耳に届く事が無かった。もし聞いていたら私はそれに対して何も言えなかっただろう。
「俺は心が脆弱な化け物に成り下がった。まだ取り返す事が出来て、心が強いユリナはそうならない様に生きてくれ。」




