1 王国
「逃げられると思うなよ、侵入者」
図太い声をした伏兵は右手に携えたロングランスを彼に向ける。薄暗い壁を淘汰しているような、否のような地下要塞には既に幾千もの兵士が彼を取り囲む。が、
「おやおや」
彼はその長い白き前髪を揺らしながら奇怪な笑みを浮かべた。
「一寸でも動けばお前を殺害する。」
脅しつつどよめく兵士達を後目に、彼は薄ら笑いを込めて告げる。
「人数は足りるのかねぇ!」
-戒律と聖者の国、モノリスブルグ。
行き交う華奢な体格の人々に、良い体の兵士達。中世フランスを連想するようなメルヘン街道。美意識の欠片も見えない黒鴉がオープンスペースで食べ落としを貪るある店では、とある話題が沸騰していた。
「王女様が隣国の騎士団長と婚約するんだって???」
強烈なウォッカをがぶ飲みしていた男性はそれを聞き、マーライオンと化した。話題とは対照的な光景である。
「オレの王女様が…だと」
マーライオンの男性は落ち着いた様子で嘆く。すると、マーライオンの男性を後目にその友人らしき女性が口を開いた。
「騎士団長やめるのよね?」
「その原理だと、騎士団長が新しい王なのか?」
マーライオンの男性の言う通り、そうなるようだ。話題を提起した、店のオーナーもこっくりと頷く。
一方、別の話題である。
冒頭に登場した白髪の青年なのだが、その実力を買われ王宮直属の「王国騎士団」の前衛部隊の指揮に抜擢されたのだ。この例により、王国の軍事内情は大きく揺らぐことだろう。
-モノリス王宮、魔術軍団「テトラ」重役会議。
文字通り、魔術師だけで構成された王宮直属の軍だ。数々の個性派マジシャンが並んでいるのだが、一際目立っている「聖女」は本日欠席とのことである。
「聖女の欠席により、非常に出席人数が少ない。」
紅い髪の女魔術師は、もう一度言う。
「私じゃダメなのか?」
反応はない。すると、会議室の重厚な扉がギシリと動く。