表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昇る沈没者  作者: 安来 光
第1章 カルソト村襲撃編
6/72

1-幕間1 集会所

 深い霧が立ち込める森。そんな森の中に存在する小さな村。


 その村で暮らす住民たちはやがて来る運命に絶望しながら生活していた。偵察からの連絡も入っており、その()()がこの村に訪れるまでの時間も残りわずかであると分かっているのだ。


 村の中心に位置する集会所に村の大人達が集まっていた。


「どうする、やはりこの村を捨てて逃げるしかないんじゃないか?」


 みんな暗い表情で黙っているなか、一人が言葉を発する。


「しかし、それでは見つかった場合に少なからず犠牲が出るけぇ。犠牲を出さないためにもやはりおとなしく契約するしか…。」


「だが、契約したらば次にやってくる奴らに対しては戦うか逃げるしかない。そうなれば、結局この村は終わりだ…。」


 解決策を出す為に話し合っているのだが、どうしようもない現実に思考がどんどんと暗くなっていく。

 そんな村人の様子を黙って見ていた齢九十を超える老婆。この村において村長と呼ばれる老婆は、重々しい空気のなかゆっくりと口を開いた。


「…仕方あるまい。今を生き抜くことが最優先じゃ。契約を受け入れるしかないじゃろう。」


 彼女も契約を受け入れた先に来る未来は分かっていた。だが、それでもこう言うしかなかったのだ。みんな暗い面持ちだが、異を唱える者はいなかった。ここに集まっている者には絶望しかなかったのだ。


 ダダダダダダダッ、


 暗く静まる空気を裂くように、集会所の二階から階段をかけおりてくる音が響いた。集会所でもあり、村長の家でもある二階に住んでいるのは村の人気者であり実力者でもある一人の少女しかいない。


 集会所に集まっていた面々が何事かと、少女の方を向く。


 その少女は二階からかけ降りてくると同時にさっきまであった暗い雰囲気をふり払うかのような笑顔でみんなに話しかけた。


「お婆ちゃん、それに皆、私もしかしたら凄いこと知っちゃったかもしれない!!」


「どうしたんだい、騒々しいね。それからみんなの前では村長と呼びなと何度も言っておるだろう。」


「そんなことよりも私、行ってくるね。この村に希望を持ち帰って来れるかもしれない。絶対に私は諦めないから。」


 ドタドタと忙しなく話ながら少女は駆けだしていった。呆然としながらその様子を見守っていた村人たちは、少女が集会所から出ていった途端ガヤガヤと話し始める。


「村長、ザワロワは一体どこに?」


「ふん、私だって知らないよ。全く、何を見つけたんだか知らないが、さっきの様子を見るにただ事じゃないだろう。」


「追っかけなくていいのですか?あの様子じゃ、村の外まで行くと思いますが。」


「どうせ追いつけやしないんだ。だったら、ザワロワの言う希望とやらを信じて帰りを待つしかあるまい。」


 ザワロワと呼ばれた一人の少女。彼女の発言によって集まっている者たちにほんの少しの希望が生まれていた。この村で絶望に抗えるとしたらザワロワしかいない、と口にしないまでも皆がそう思っていたのだ。

 やがて来る絶望に対し、彼らはほんの少しだけ前を向くことができたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ