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昇る沈没者  作者: 安来 光
第1章 カルソト村襲撃編
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1-4 発見

ゆっくり続けていきます。

 トレーニングを終えたカヤとアレスはミレアと一緒に≪カルソト草原≫で朝食を食べていた。


「結局アレスには当てられなかったな。≪カルソト草原≫内だったら、どうにか当てられると思ったんだけど、いや~まだまだだな。」


「全然そんなことありませんよっ!!ミレアからしたらアレス(にぃ)の≪瞬間移動(テレポート)≫とカヤさんの移動速度は同じように見えていましたから。むしろ、カヤさんの勝ちみたいなものです。」


 キラキラとした瞳でカヤのことを元気づけるミレア。実際、ミレアからしてみたら瞬間移動と同等の速度で動くカヤに驚愕していたのだ。今のミレアでは到達できない遥かなる高み。そんな目標の姿を見て、また一段とやる気を高めていた。


「まったくだ。何で、一番離れた場所に移動しても直後に目の前にいるんだよ。こっちが有利だってのに、ずっとヒヤヒヤしちゃったじゃねえか。」


(確実に以前のカヤより速くなってやがるな…。今回は≪カルソト草原≫という広さがあったから、ギリギリ勝てただけだ。次やったら、たぶん勝てねぇな。俺もたまには鍛えようかね。)


 ミレアとアレスがカヤの速さに驚愕しているなか、カヤはやはり異能力のことについて悩んでいた。物心ついた時からの周りと自分との差。異能力が存在しないこと。ただ、いつになっても頭の中にイメージが浮かばないと悟ったカヤは周囲に少しでも近づこうとトレーニングを開始する。昔から一緒に住んでいるアレスとミレアもカヤのトレーニングに付き合うようになり、そこにいつしか年の近いアンジュも加わるようになったのだ。

 来る日も来る日も異能力に追いつこうとトレーニングを続けた結果、カヤは自分では気づいていないが既に人間離れしている身体能力を手に入れていた。アレスもアンジュもミレアも異能力の有無は関係なしに素直にカヤの凄さを認めていた。


 それでもカヤは決して満足することはなかった。


(みんな凄いと言ってくれるけど、昨日も……、それに今だって結局俺は勝ててないんだ。もっと速く、もっと強く。冒険者になるなら、もっと、もっと――。)


 これがカヤの日常。しかしこの日、カヤの人生を大きく変える()()()が起こる。それは十五年間の苦悩に終止符を打つ()()へと繋がっていく。そして、()()はその()()()から数日後のこと。




 同日、場所は変わって≪異能石研究所≫と呼ばれる建物。≪カルソト村≫に場違いのように佇むその大きな研究所でその()()()は起こった。


「レイストン博士、新しく調査を開始したエリアからとんでもない量の異能力値を確認!測定不可!!あり得ません、これは一体!?」


 観測を行っていた研究員が驚嘆の声を上げた。

 異常の確認を示すアラームが研究所内にうるさく響き渡っている。そんな研究所の所長である、ハイベル=レイストン博士はその声に応えるように観測機が示す数値をじっと見つめていた。


(なんだこの数値は!?なぜ今まで気づかなかった!?)


 その数値に異能石研究第一人者であるハイベルでさえ驚きを隠せないでいた。現代の観測機では測定すら不可能な数値。前例がない発見に研究者であるハイベルの好奇心は止まらなかった。


「すぐに現地へ向かう。今までに観測されたことのない異能力値だ、何が起きるか分からん。念のため≪バリアシート≫の用意を。ゼンにも連絡を入れておいてくれ。」


 サッと白衣に腕を通しながらハイベルは各職員に指示を出していく。急に慌ただしくなった研究所内で一通り指示を出し終えるとハイベルは自身の席に隣に座る1人の女性に声をかけた。


「今までにない発見だ。もしかしたら危険な存在かもしれないが、それを判断する為にも君の力が必要だ。一緒に来てくれるか。」


 ハイベルの隣に座っている女性。ハイベルよりも年下で、紫色の髪を肩で揃えている彼女はハイベルに柔和な表情を向けて答えた。


「ええ、もちろんよアナタ。私の心はいつだってアナタと同じ。危険だなんて言っているけど、楽しみで仕方ないのでしょ、フフ。」


 髪の色と同じく紫色の口紅を塗った彼女の口から発せられる言葉を聴き、ハイベルもまた彼女の気持ちが自身のものと同様であると理解した。


 彼女の名はリア=レイストン。ハイベルの妻にして同じ異能石研究で働いている研究者だ。この発見に心躍らないわけがない。ハイベルと同じくリアの胸中もまた楽しみで仕方なかったのだ。


 ≪カルソト村≫より北。大きな山脈からなる陽の光さえ充分に届かない薄暗い谷底。人が踏み入れた形跡のない強大な自然の地に準備を終えた研究者たちが集まっていた。


 計測機器を持った研究者たちが先ほどの数値を発生させている存在がどこに埋まっているのかを確かめるために周辺を調査する。


 ハイベルとリアはその様子を眺めながら話し合っていた。


「不思議な場所だな、ここは。立っているだけで、なぜだか力がみなぎってくる。」


「そうね。私もさっきからそんな気分だわ。でも、それだけに少し怖いところ…。」


 そんな会話をしている二人のもとに声がかかる。


「博士、ここです。この真下からすさまじい反応を確認しました。」


 研究員からの声にハイベルは頷くと、ゆっくりと示された地面に手を触れる。


「ふむ、確かに下から強力なエネルギーが感じられるな。こんなものが今まで誰にも発見されなかったとは、まさしく驚愕と言わざるを得ない。」


 ハイベルは静かにそう言うと、各作業員に離れるように指示を出す。それぞれがある程度離れたのを確認したハイベルは自らの異能力を行使した。


蟻地獄(ありじごく)。」


 【土使い(サンドマスター)】であるハイベルは触れた地面の土を操るように流動させると、狙った箇所に大きな穴を作り出した。


(あれか。正体不明の異能石は…。)


 ハイベルが見つめる穴の中心に、今回の目的でもある異能石が鎮座している。直径1メートルはあろうかという巨大な石。異様な雰囲気を醸し出すその石を穴に落ちないように恐る恐る研究員たちは覗き込む。


 そんな中ハイベルは隣に佇むリアに目を向けていた。


「どうだ、リア。あの異能石の効果が分かるか?」



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