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昇る沈没者  作者: 安来 光
第1章 カルソト村襲撃編
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1-2 異能力

 異能力、それは生物が生まれる際に神より授けられし()()()。単純にスキル、または縮めて異能や能力と呼ばれるこのチカラは人族はもちろん、魔人族、亜人族、さらには知性を有する魔物にさえも与えられる。


 ≪カルソト村≫に住む人々も、当たり前のことであるが異能力を有している。異能力には実に様々な種類が確認されており、また、異能力は鍛えることで応用力が増したり、効果範囲の拡大、威力の強化といったように成長することも確認されている。


 基本的な異能力としてまず挙げられるのが【炎使い(ファイアマスター)】や【水使い(ウォーターマスター)】などといった【属性使い】。まとめて≪マスター≫と呼ばれるこれらの異能力の使い手は人類において約七割近くを占めている。所有者が多いことから軽く見られがちな異能力ではあるがシンプル故に実に多様な応用力を秘めている。

 ≪カルソト村≫に住むアンジュも【炎使い(ファイアマスター)】の所有者である。初期段階では簡単な火の操作しかできない異能力だが、アンジュは類稀なる才能と常人の倍以上の鍛錬をもって火の具現化に留まらず、自身をも火に化すことのできる同化にまで異能力を昇華している。

 

 ちなみにカヤの父親も【属性使い】である。その異能力は【土使い(サンドマスター)】。異能力研究者であり、≪カルソト村≫においてひときわ目立つ大きな研究所の所長である。


 さらに異能力には【属性使い】の他にも個性的なものが数多く存在する。例えをあげるなら【治癒士】。回復能力を有する異能力だ。鍛え上げることで、不治の病や瀕死の重傷すら治すことが可能になる神の如き異能力であるが、所有者はかなり少ない。≪カルソト村≫では病院長とミレアだけが所持している異能力。

 病院長は死んでいなければどんな状態であろうと治すことができると噂されているレベルの腕前であり、なぜこんな小さな村に住んでいるのかが不思議と言われている人物である。病院長を訪ねに遠くからたくさんの人が連日訪れている光景は珍しくない。

 

 ちなみにカヤの母親の異能力は【鑑定眼(かんていがん)】。モノに宿る情報を見抜く異能力である。鍛え具合によって見抜ける情報量が変わり、これもまた治癒士と同等に稀有な異能力である。


 誰であっても異能力を持って生まれる。また、赤ん坊の頃は自分の意思で異能力を自由に扱うことができないために異能力が暴走する事件が過去に何件かあった。そのため、現在では各病院に少なくとも一人の【不許可者(キャンセラー)】が配置されている。【不許可者(キャンセラー)】も非常に所有者が少ない。≪カルソト村≫において【不許可者(キャンセラー)】を所持しているのはたったの一名。それも、≪カルソト村≫の者ではなく外から雇い入れた者である。それほどまでに【不許可者(キャンセラー)】の異能力所有者は少ない。それは単純に珍しい異能力ということでもあるが、【不許可者(キャンセラー)】の所有者は自身が【不許可者(キャンセラー)】を有していることを明言していない場合が多いからだ。その理由としては、【不許可者(キャンセラー)】の所有者は一部の者から忌み嫌われているからだ。【不許可者(キャンセラー)】は、異能力の使用を封じることのできる異能力。この世界において異能力を使用できないことは個性を消されたも同然である。故に、一部の者は【不許可者(キャンセラー)】に対して誹謗中傷を投げ掛ける。巷では【不許可者(キャンセラー)】は悪魔であると信じている過激な団体も存在しているほどだ。

 

 話を戻すが、誰しもが自我が芽生えると同時に自身に授けられた異能力のイメージが脳内に浮かび上がる。どんなに遅くとも五歳までには皆、自身の異能力をある程度扱えるようにはなるのだ。


 この世界では当たり前のこと。異能力は誰しもが天より授かるチカラ。


 しかし唯一の例外とも言っていいカヤには十五歳になった現在でも異能力が目覚めていなかった。異例中の異例であり、原因もはっきりとしない謎の現象。アンジュやアレスやミレアが使用する異能力を毎日のように見ているカヤにとって、異能力は憧れであった。冒険者になるためにも、異能力がないのでは話にならない。カヤの中に「何で俺には何もないんだ」という想いが湧き上がっていた。


「カヤさん?険しい顔しているけど、どうしたの?」


「ん…?ああ、ごめんね。何でもないよ、ミレアちゃん。それよりもこの匂い、今夜はカレーかな?」


「カヤさん、大正解。もう少しでできるから待っててね。」

 

(表情には出さないようにしていたつもりだけど、ミレアちゃんにまでバレバレか…。)


「そんな顔してればバレて当たり前だ。あまりミレアに心配かけるなよ。」


 木のテーブルを挟んで向かい側の椅子に座るアレスが本を読みながら、カヤに声をかけた。


「あぁ、悪いな。異能力がなくても鍛えていればいつか冒険者になれる。そう決意したはずなんだけど、未だに頭のどこかで納得がいっていないらしい。」


 自嘲気味にカヤは本心を語る。


「……カヤ、何度も言っているがお前にも異能力はあるよ。俺はカヤの異能力に()()()()()()()。」


「ハハハ、冗談でそう言ってもらえるのは嬉しいけど、アレスも知っている通り俺は父さんの研究所で異能力値の検査を何度も行っている。結果は毎回決まったように(ゼロ)だ。俺のどこにも異能力の存在は認められていないんだよ。」


「…俺はそのうえで何度も言っているだろう。お前にも異能力はある、と。」



 そう言って本から顔を上げてこちらを見つめてくるアレスの表情はいつもの退屈そうな顔ではなく、至って真剣であった。


「アレス…、お前…」


「おっ待たせーー!!ミレア特製の手作りカレーだよ、カヤさん。」



 台所からミレアがカレーを持ってやってきた。ルーからは湯気が上がっており、出来立てというのが伝わってくる。ミレアは第一にカヤの前にカレーを置くと、台所に戻って自身とアレスの分を持ってきた。一つをアレスの前に置くと、ミレアはアレスの横に座り自分の分のカレーを目の前に置いた。


 カヤの家でのいつもの食卓の風景である。アレスとミレアの両親は冒険者をしており、基本的には家に帰ってこない。ミレアの提案でカヤの家に一緒に住んでいるわけだが、カヤの両親も村の研究所で朝から晩まで働いており滅多に家には帰ってこない。そういうわけで、ほとんどこの三人で生活していると言っても過言ではなかった。料理などの家事全般はミレアが全て行っている。カヤとアレスがミレアを手伝おうとすると、逆に足手まといになってしまうことは二人とも理解しているので家の中ではミレアに頭が上がらないのだった。

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