俺の新生活1
電車を乗り継いで数時間。ようやく涼子さんが指定したマンションに到着した。オートロック付きの7階建のマンションは高校生の、それも男の一人暮らしは過ぎるもののように感じる。涼子さんの過保護っぷりに呆れながら、これから暮らす部屋へと向かう。部屋に入るとある程度予想していたがとても広い部屋だった。2LDKって涼子さん……。まぁいい。高校の間は贅沢させてもらおう。家具一式は備え付けのものがあるから大丈夫といっていたから大丈夫として食べるものはないな。2つある部屋の1つを自分の部屋とし荷物をくずし適当に何か食べに外に出る。
「つってもいかんさん初めてくるとこだしどこに何があるか全然わかんねぇな」
ぶらぶらと辺りを散歩感覚であるいているとファミレスやラーメン、パスタと色々な店が並んでいるのが見える。どうしようか悩んでいると喫茶店に目が止まった。喫茶店か…。ここなら1人で入っても気にしなくていいか。
「いらっしゃいませ。一名様でよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。ではカウンターの席へどうぞ」
「ありがとうございます」
店に入ると店員さんが出迎えてくれて案内してくれた。それにしても綺麗な人だなぁ。綺麗な黒髪を肩まで伸ばし、キリッとした目が特徴のとても整った顔立ちをしている。
「こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたら改めてお申し付けください」
メニュー表を眺めて何にしようか考えていると正面からさっきの店員さんと店長だろうか、涼子さんと同じ年くらいの男性との会話が耳に入る。
「朝香ちゃん。せめて新規のお客様にくらいはもう少し愛想よくできない?」
「ご不満なら新しいバイトを雇って下さいよ。そろそろ私も学校が始まりますし協力できませんよ?」
「はは、そう言われるという耳が痛いな。募集はしてるんだけどなかなかね」
確かに愛想が良い感じではなかったけどクールな感じが彼女には合ってさえいると思った。しかし人手が足りないのか…。ちょうどいい。どうせバイトしなきゃならないんだ。聞いてみるか。
「あの、いいですか?」
「あぁ、ごめんね。注文だよね。何にする?」
「では、アイスコーヒーとナポリタンをお願いします」
「秋人さんも変わらないじゃないですか。お客様に対して軽い態度で」
「今更取り繕っても仕方ないからね。それにこのくらいの方がいいんだよ。ね?」
「えーっと、そうかもですね」
秋人さんと呼ばれた店長らしき人に同意を求められ思わず頷いたしまった。
「どうみてもいわせてますよね」
「あはは…。朝香ちゃんはこわいなぁ」
ジト目で店長さんを見る店員さんに冷や汗だらだらの店長の姿にくすりと笑ってしまう。2人のやりとりを他のお客さんも笑ってみている。成る程これがこの店の日常なのか。なんだかいい雰囲気のお店だな。
「っと、ごめんごめん。アイスコーヒーとナポリタンだったね。少々お待ちを」
「えっと、それともう1つお願いしたいことがありまして…」
「ん?なんだい?」
「よろしければ俺をここで雇ってもらえませんか?」
「ほんとに!?」
「はい。是非」
「ありがとー!助かるよ〜。じゃあ今から必要なものを言うから今度持ってきて」
「わかりました」
「それじゃよろしくね!えっと、ごめん、名前を教えてくれるかな?」
「橘冬矢です」
「冬矢君ね。じゃあこれ、僕の連絡先。用意ができたら連絡して」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ。よろしくね」
「はい!」
「秋人さん?話が終わったら注文、早く作ってあげて下さい」
「……忘れてた」
店員さんに言われそこでやっと思い出した店長さんの姿にまたも笑いで店が騒がしくなったのだった。