ある文官の回想及びその後
現王。
ソリオス・ジュリオ・ウルベリオ様は良き王である。
建国の王でもある彼は、国土を広げ沢山の利益をもたらした。
ソリオス・ジュリオ・ウルベリオ。彼の王は愚王である。
次々打ち出す政策は小国にも劣り、失策する。
「これを処理しておけ。」
議会を通った書類の束が机に積まれる。
伸ばしっぱなしの髪をギュッと色気もなく結わえて、男用の小さなサイズの官服の袖を捲る。
右手に印籠。左に用紙を積み準備する。
上質な紙の感触に触れながら、まず1枚目。
・・・王印。
・・・・外交官と国内貴族との交流。
・・・・・王都内公爵家別邸。借用費用。
・・・・・・1、0、0、0、・・・。
チラッと上司のひょろ男さん(心内あだ名である)を見る。
目を逸らされた・・・。
宴会かよっ!ゼロの数多いよっ!
・・と心で叫んで、表向き冷静に決済済みの木箱に入れた。
私は黙々と書類を仕分け誤字や書式の間違いが無いか確認していく。
上司は決済済みから何時いつまでにお金を工面するか予定を組み、そのまた上司は紛糾する議会から帰ったばかり、でしばし真っ白になっている。
あと二人ほどいたこの上級財務次官の部屋には今は三人のみ。
一人は国外へ転居。一人は心労で休職中だ。
くそう、上級だって浮かれるんじゃなかった!
報酬は大して上がらないし平事務官の時よりきついぞ!
このままじゃ嫁の貰い手もなく、いつまでたっても官舎から出られないじゃないかぁ~!
ああもう!
「インクが切れた・・。」
家から持ってきたインク壺代用品、調味料入れ。を逆さに振ってみる。
一滴もでない。良く使い切った自分。褒めて遣わす。自分でだけど、心の声だけども。
「ゃだなぁ。」
独り言が増える。
資材管理の部署まで取りに行かねばなるまい。
貴族のお坊ちゃん官僚なら自家で賄うのだろうけど、一平民の私には無理。
資材を扱う部署のふっくらしたおば様。苦手。
インクひと瓶に一刻も文句を言われる。しぶしぶ席を立ち外に向かう。黙々と仕事に向かう彼らは何処に行くのかすら聞かない。
道中の王宮の柱の陰に先ほどの議会の面々の姿が見えた。
そっと柱の陰に隠れる。偉い人と顔を会わせても碌なことにならない。
高官たちは周りに人が見当たらないのを幸いに言葉を言い交している。
「いつになったら具体案を形にするのか・・・。」
「貴方はまだいい、私の意見など話す前に遮られた。」
「ドイト卿の意見は良く聞きもせず認可されたというのに。」
うわぁ、これは見つかってはダメな話しだ。
「あの土地は毎年不作不作と、忌々しい。」
「ご本人はあんなに立派なナリであられるのに。」
そうですね、質素な身なりの割にはあの方、丸まるとしてらして。不作で領民がって説得力なくね?
暫く言い合って気が済んだのか、彼らは笑いながらそこを去った。
で、当然。資材庫の女官どのにはぶつぶつ言われ、へこへこ愛想笑いで乗り切った。
◆◆◆◆◆
日も落ちて、私はと言えば帰城時間きっかりに席を立った。
きっちり帰城時間に帰る私は同僚らに冷たい目で見られることだろう。
家に帰れば母が待つ。
木の軋む階段を上がり、自分の家の戸を開く。
母はそれを見てから足を庇うように立ち上がり夕餉の用意を始める。
夕食の今日の会話は、
「お前が城勤めになったら、もう少し楽が出来ると思ったのに。」
だった。
私が独り身だから、いつまでも子供(私)の世話をさせられる。
いや…家を出てくれて構いませんよ?ココ、官舎ですから。ね?とは、言わないけれど。無言で夕食を終え、自室に引き上げる。
「皿ぐらい洗ってくれたらいいのに。」
と背中に掛けられる声は無視。
それからも、外交と言う名の宴会。視察と言う名の旅行。
あらゆる出費を目にした。
今日も、良くわからない建設許可証。
それが、ぴたりと止んだ。
玉座の間に新王が誕生した瞬間から。
◆◆◆◆◆
ええ、武器庫で在庫確認した折に、見覚えのない物が増えていましたよ。
宝刀である王の剣が見当たらなかったりね。
でも、武官が勝手に武具を持っていくのは毎度の事でしたし、彼ら脳筋ですから数量とか適当なんです。
宝刀に至っては次期王太子がオモチャにしてましたから。母公認で。
だから、この異変は通常です!
王妃の宝石の転売ルートがいつもと違っていても。です!
愛人に貢いでいる王妃はいっつも後から書類を回してくるんです。不備ありきで。
昨年の請求処理すら致しましたよ。だ、か、らっ、これも普通、普通~。
私は全然気づきませんでしたっ。
・・・・・今度こそ。まともな官僚が入って、婿を貰えるだろうか?
潤いが足りない・・・。