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第五話-冒険-

「いや、こっちこそ……ん?」

「あ……フィアレスさん……?」

 昨日出会った恩人・銀髪の剣士、フィアレスだ。メニューから時刻を確認すると、待ち合わせの時間まであと十数分というところだ。

「もう来てらしたんですね」

「ああ。服、買いに来てたのか」

 そう言われて、自分がまだ着替えの途中だったという事を思い出す。肩が出たままなのが気恥ずかしくなり、その時手に持っていたマントを慌てて羽織った。

「は、はい。……フィアレスさんもですか?」

「ああ。あの後、いくつかエリア回ったんだ。そんで溜まった金で装備を整えて、余りで何か服でも買おうかなと思ったんだが……パッとしたものがなくてな」

 そう言うフィアレスの服装は昨日となんら変わりがない。きっとこれが剣士の初期服なのだろうと予想する。

 こっちで話していることに気がついたか、雲雀とシンが近づいてくる。見ただけでわかる明らかな敵意を、フィアレスに向けていた。

「……あんたが、フィ、フィ……フィラメントか」

「フィアレスだ。電球か俺は」

 その言葉を無視して、シンはじろじろとフィアレスに視線を送る。

「失礼だよ……」

 セシウスが小声でシンに伝える。外見はあくまでゲーム内のパーツなのだから、値踏みするように見回しても意味はない。

「これが昨日言ってた友達か?」

「あ、はい。……なんか、すいません。フィアレスさんを、その……悪い人だと思ってるみたいで」

 うまい言い方が思いつかず、変に濁した言い方になってしまう。だが、それだけでフィアレスはなんとなく察したようだ。

「なるほど。出会い目的だと思われたんだな。実際多いからな、そういうの」

 堪えた風でもなく、苦笑しながら軽く流したフィアレスに、シンはさらに絡みつく。

「自分は違うとでも言いたそうだな」

「事実違うしな。俺は純粋に友達とゲームを楽しみたいだけだ」

「……自分は泥棒です、っていう泥棒はいない」

 と、雲雀。さっきも聞いた言葉だ。お気に入りのフレーズのようだ。

「もう、ひばりちゃんまで」

 敵意を解いてくれない二人に、さすがにセシウスもむくれてしまう。何かが起こってからでは遅いと、心配してくれているのはわかるのだが、こうも露骨に敵意を示されると、フィアレスの事を知る身としては快く思わない。

「本当にもう……ごめんなさい、変なことばかり言っちゃって……」

「いやまあ、別に。あんたのこと心配してるってのは伝わるよ。……とりあえず、外出るか」

 長話するにはこの場所は少し狭い。店外に出た方がいいだろう。

「あ、じゃあ……お金、払ってきますね」

 予算は雲雀から渡されていた。最後のマントはあまり考えずに選んでしまったが、淡い青のマントは存外悪くない。

 外に出て、とりあえず城に向かうことになった。何をするにしても、街の中央である城にいれば動きやすい。

「なあ、あんたらはいつからこのゲームやってるんだ?」

 道中、フィアレスが尋ねる。二人は全くフィアレスを信用し切っていないが、かと言って無視するのはよくないと思ったか、普通に受け答えをする。

「俺は……もう三ヶ月になるな」

「私は二ヶ月とちょい。まあ、そんな長くはないよね」

 シン――慎太郎は、高校入学直後からこのゲームを始めて、以降夢中になり続けている。受験で半年近く、大好きなゲームを封印していた反動だと本人は言う。

 一ヶ月ほどして、今度はひばりも『The Earth』を開始した。自身もそこそこゲーム好きだということで、毎日『The Earth』の出来事を熱弁する慎太郎に当てられたのだろう。

 そういう美咲自身、楽しいと語る二人の姿を見ていたところを誘われて、やってみようかなと思ってしまい、今こうして、セシウスとしてプレイしているのだが。

「あんたたちもゲーム好きだって聞いてるよ。どんなのが好きなんだ?」

 ゲーム好きの血が騒ぐのか、フィアレスはそう問う。最初に答えたのは雲雀の方だ。

「あたしは格ゲー全般かな。あと、アクションゲームとか」

 格ゲーは格闘ゲームの略、と以前教わったことを思い出す。雲雀は昔から、ゲームに限らずそういう類の物が好きだそうで、アクション映画やカンフー映画、プロレスなどを熱心に鑑賞している。

「俺はいろいろやるけど……やっぱり一番はあれだな。『DtP』」

 小さい頃からシンが繰り返しプレイしているゲームの名前だ。動物を擬人化したようなキャラクターを操作している姿を思い返す。キャラが可愛く、それでいて悲しげなストーリーが印象的で、うしろで見ていたセシウスもよく覚えている。

 そして、その名前を聞いたフィアレスの目が輝いた。

「『DtP』知ってるのか!」

「……って事は、お前もか?」

「ああ。大好きだ!」

 つい今までつっけんどんとしていたシンが、良い反応を示したフィアレスと急接近する。今のセシウスにはあまり理解できない、恐らくはゲームの用語を交える会話をし出す。

 熱中する二人の蚊帳の外、セシウスと雲雀は、そんな男子二人を外で覗くしか出来ない。

「アホくさ」

 そんな時に吐かれる雲雀の素っ気ない一言に、セシウスは思わず笑ってしまうのだった。

 そんな話をしていると、城へと到着した。

「さて、どうする? ここから」

 腰に手を当て、雲雀が言う。エリアに出て何かをする、というのがこのゲームの基本だ。レアアイテムの回収、レベル上げ、モンスター狩りなどやれることは色々とある。

「あの、ちょっとやりたいことがあるんだけど、いいかな」

 そこで、少し遠慮気味にセシウスが言い出す。

「何だ?」

 メニューを開いて、何か必要なはないかと調べていたフィアレスが答える。

「昨日、このゲームについて調べたら、ペットが飼えるみたいなのがあったんです。そのイベントが今ちょうどやってるって……」

「支援獣か。そういや、イベントエリア開いてたな」

 と、シン。そのイベントページを開いたフィアレスが、中身を見ながら続く。

「……そういえば、こんなシステムもあったなあ」

 支援獣というのは、読んで字の如く、戦いの際に戦闘を支援してくれる仲間モンスターだ。いくつか種類があるが、どれを選んでも使えるようになるまでの世話をしなくてはならない。戦闘支援ではなく世話の方に力を入れ、電子ペットとして飼育しているプレイヤーも多い。

「でも、あのエリア結構レベル必要だよ? 今、あんたのレベルは?」

「えっと……2、かな」

 メニューを開いてステータスを見る。昨日戦って一つ上がっただけだ。パラメーター的にはほとんど誤差レベルだろう。

「そっちは?」

 雲雀がフィアレスの方に向く。

「俺は4。昨日今日と少し稼いだからな」

 ちょっと待って、と雲雀が魔法陣の方まで歩いていく。少し操作したかと思うと、こちらへ戻ってきた。

「推奨レベルは8だね。2だと……さすがに厳しいかも」

 敵の弱い序盤なら、多少のレベル差は知識や実力で覆せる。4、5差ぐらいなら属性等を把握していれば充分だが、それ以上になると、スキルやアイテムを活用しなければ厳しいだろう。

「そこはまあ、俺達がサポートすればいいんじゃないか?」

 シンが言う。二人はフィアレス・セシウスと比べれば高レベルだ。どうせここ以外のエリアに行くとしても、結局はレベル差があるので、どうせなら行きたいところへ行くのがいい。

「まあ、4レベル差なら頑張れば戦えるから、フィアレス、あんたが前に出な」

「そうだな。じゃあ、危なくなったら回復頼む」

「気が向いたら回復撃ってやるよ」

 シンの職業は弓闘士。弓を持つ職業だ。弓と言っても形はボウガンに近く、撃つ物も通常の矢ではなくビームのような光る魔法矢だ。そのためか、使える技も属性攻撃や回復技など、テクニカルな職業となっている。剣士と同じく片手には盾を装備できるため、バランスもいい。

「よし、そんじゃ行きますか」

 四人でパーティを組む。パーティのメンバー数に制限はないが、経験値は分配制のため、多すぎる人数は好まれず、だいたい三、四人が基本だ。

「ま、実力拝見させてもらうわ。せいぜい無様に死なねえようにな」

 フィアレスに向けてシンが挑発する。負けじと、フィアレスも挑戦的な目を向けて返した。

「ああ。誤解を解いてくれるように頑張るさ」

 先程からずっと、二人はフィアレスのことを出会い目的の男だと疑っている。シンと『DtP』の話をして、多少はその考えも緩んだようだが、それでもまだ完全にとは言えない。

 雲雀が装置を操作する。エリアは地の精霊石・『竜宮の』『猫目石』。四人が降り立ったのは、淡く光る岩に覆われた、洞窟の入口だった。振り返れば、そこには帰還用の魔法陣。

「洞窟エリアか……。何回か来たけど、あんまり好きじゃないな」

 フィアレスが呟く。確かに、昨日行った草原と比べると、狭く薄暗く、少しだけ怖い。

「俺は好きだな。こう……ダンジョンって感じで」

 言いつつ、シンが先行しようとする。が、その襟首を雲雀が掴んだ。首がしまって、ぐえ、と変な声がする。

「あんたが前に出ちゃ意味ないだろ。ほれ剣士、さっさと先行く!」

「はいよ」

 指名されたフィアレスが先に立つ。腰に佩いた剣を抜き、肩に担いで、薄暗い洞窟を進んだ。


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