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私は周りの視線に耐えきれず、ジタバタともがき始めた。


「先生!離してください。自分で歩きますから!」


「ダメだよ~。君はすぐに逃げようとするからね。しっかり捕まえとかないと。」


流石に周りの生徒がいる中、無視するのは気が引けたのか言葉に反応してくれた。そして、私にしか聞こえないトーンでつぶやいた。


「あんまり、動くと下着がみえるよ?」


「!?」


わたしは慌ててスカートを抑える。


「ふふ。大人しくしてね?」


こんのやろおおお!

変態エロ教師め!

お前なんてクビになってしまえ!


心の中で怒りが沸騰するが、直接口に出すのは止めた。これ以上周りの視線を集めたくない。




「あれー?キリト先生。女生徒を捕まえたんですね~。なんか、いかがわしい~。」


聞き覚えのある声が聞こえた。きっと、ルイス副会長だろう。

どうやら捕まった人達が集まる校庭まで来たようだ。わたしはやっと地面に降ろされた。


ビバ!地面!わたしは大地を踏みしめて生きていくよ!


私が地面との再会をよろこんでいる間に彼らは話を進めていた。


「追いかけられるのも疲れちゃってね。ルイス、これで俺たちはゲーム終了できるよね?」


「はーい。じゃあ、契約リングつけますので二人ともこちらへ来てください。」


契約リング…だと!?


「結構、本格的だったんだね。じゃあ、よろしく。」


「当たり前ですよ。約束事はきちっとしないと。じゃ腕を出して下さい。」


契約リングとはつけたもの同士を契約で縛るものだ。人間同士で約束を違わないために用いられる。上位のものになると魔族と契約するときに用いられたりもするらしい。


早い話がキリトの言うことを1つ聞く。という契約が課せられたのだ。


くっ、バックレようと思っていたのに。

これでは逃げられない。

ちなみに、契約リングの契約は絶対で破ろうとするものには腕輪の種類にもよるが電撃を食らったり、氷漬けになったり、…命を落としたりする。


「そこまでしなくてもいいんじゃ…」


「シェリアちゃん。まさか、うやむやにしようとか思ってないよね?」


見透かされていた。


「ルールだからね。シェリアちゃんだっけ?変態教師に捕まるなんてついてないね~。ご愁傷様。」


ルイス先輩が気の毒そうに言う。

そう思うなら助けてよ!


「さっきから聞き過ごしてたけど、何?ルイス。俺に喧嘩売ってるのかな?」


いかがわしいやら、変態やら言われていたのだ。文句の1つ言いたくなったのだろう。


うん。私は同意する。

この教師は変態拉致教師だと。


「何か言いたそうだね?シェリアちゃん。」


「やだなあ。そんなことないですよー。」


多少棒読みだったのはやむをえない。


「ふふふ、二人とも仲いいんですね。んじゃ、契約リングつけますね。」


ルイスは契約リングを取り出すと私たちの腕にはめ、呪文を唱えた。


「プロミス」


はめられたリングが青白く光る。

ああ、契約が完了してしまった。


「丁度、交流会も終わりの時間かな。みなさーん、鬼ごっこは終了です。全員校庭に集まってくださーい。」


ルイスが風魔法で学校全体に声を響き渡らせる。その内にぞろぞろとみんな集まってきた。


その中にフィオナとスウォンの姿もあった。

どうやら無事に戻ってきたらしい。

二人とも契約リングをつけていた。

どうやらルイス以外の人につけてもらったようだ。


ううっ、憧れの膝枕が~!


会長にフィオナをみすみす取られてしまった。しょうがないけど…。


「そうだ、お願い何にしようかな?」


わたしがフィオナへの未練を断ち切れずにいると、横から呟く声が聞こえた。

そうだ、こいつのことを忘れていた。


「なかったらなかったでいいんですよ!無理して考える必要はないですよ!」


わたしは悩んでいる彼にそう告げる。

悩むくらいなら無理にしなくてもいいではないか。うんうん。


「そう言われると癪だね。でも、今は思いつかないから保留にしとくよ。」


彼はそう言ってニコリと笑うと私のそばを離れていった。

そのまま二度と来ないでくれ。



ふー


キリトが去ると思わずため息がでる。

先ほどキリトの魔法を邪魔したことでかなり疑いをかけられてしまった。

フィオナはスウォンと着々と仲を進んでいるが、私は死亡エンドへと着々と進んでいる気がする…。

どうにか疑いを晴らすことはできないだろうか。


私自身、この物語の終着点が見えなくなってきた。本来のスウォンルートの道筋と違っている所が現れてきたからだ。


ゲームの通りに物語は進むと思っていたが、違ったのかもしれない。現実は厳しいものである…。


というか、あの変態教師さんが主に邪魔になっている気がする。

絶対そうだな。


おのれ、キリト。許すまじ。

全責任を彼に押し付け、私は自分を納得させた。


「では、これにて交流会を終了しまーす。みんな仲良くなれたかな?気をつけて寮に戻ってね~!」


ルイスの一声でみんなが散会し始め、交流会は終了した。


「シェリア!お疲れ様!」


フィオナが私を見つけたのか駆け寄ってきた。後方にはスウォンの姿も見える。


「お疲れ様。フィオナ。会長に捕まっちゃったのね。」


「ええ。でも危ないところを助けてもらったからこれで貸借り無しって。スウォン先輩が言ってくれたのよ。だから、むしろこちらが感謝しなきゃいけないのよ。」


きっとスライムのことだろう。

どうやら、私の知るゲーム内容の通りに進んだようだ。


「あら、シェリアも誰かに捕まったの?青色のリングは捕まった人のリングよね?」


リングは赤と青があり、赤は捕まえた側、青は捕まった側の色だ。


「ええ、まあ…。変態教師に捕まったのよ。」


「変態教師…?」


「キリト先生のことだろう。」


フィオナの後ろについていたスウォンが口を挟んできた。


「え?キリト先生のことだったの!?キリト先生はとても優しい良い先生だから、わからなかったよ。」


「フィオナ、貴女は純真なところがいいところだけど、人を見る目は養ったほうがいいわ。」


「それには俺も同意する。」


会長も去年はキリト先生が担任だったのでよく知っているのだろう。

確かにいい先生ではあるが、時折、怖く言動が危ないときがある。

まあ、フィオナにはそんなそぶり見せないのであろう。


「?」


フィオナはよく分からないとばかりにキョトンと首をかしげていた。



ーーーー


そして、しばらくは何事もなく日々の日常が過ぎた。

朝起きて、フィオナと共に学校へと通学し、勉強をして、魔法の実技を行う。学校ではほとんど一緒の私たち。放課後だけは別々に行動する。

フィオナは放課後、スウォンに直接指導してもらっているこらだ。それが、スウォンの鬼ごっこのときの願いだったそうだ。

その甲斐あってか、着々と魔法の腕を上げている。


ま、スウォンからするとフィオナと二人きりで過ごしたいわけですね~。


放課後、フィオナを取られてすることがなくなってしまった私は、よく学校周辺の街や裏の森を散歩するようになった。

義両親の元にいた時は、ロクに外にも出してもらえなかった。

箔をつけるためにこの学園に入学させられたが、私にとって自由を謳歌する貴重な時間が取れるようになった。


だが、この頃からだろうか。少し仄暗い感情が現れるようになってのは。

フィオナが放課後、スウォンと二人で過ごすのがとても気に入らなくなっていた。


私の大切な妹。なぜ、私のことを忘れて他の人のところへ行ってしまうの?


たまに、こんな暗い感情が脳裏によぎるようになった。

その度に頭をブンブンとふって考えを振り切るのだが、ふとした瞬間にまた思い出してしまう。


これでは、ゲームのシェリアと一緒ではないか。いや、でも私は前世の記憶がうっすらあるけどシェリアであることは変わりないし。あー、もう。よく分からない。


「きっと、疲れてるんだわ。ゆっくり休むべきかな…。」


私は裏の森のベンチに腰掛けて目を閉じた。

すーっと息を吸い込む。土や水、そう言った自然の安らぐ香りがした。

私はしばらくそうして心を落ち着かせていた。


「お姉さん。大丈夫?具合悪そうだね?」


私は驚いて跳ね起きた。

全く人の気配がしなかったのだ。

私はその育ちから警戒心が強いと自負していた。人の気配に気づくように常に気にかけているし、警戒心が強い。

最近は腑抜けていた気がするが。

キリト先生は私以上の手練れなのだろう。私の魔法を看破したりする事は普通の人間には中々できない。


目を開けて前を見ると12~3歳位の少年が立っていた。


真っ黒な髪のショートカット、真っ黒な目で前世の日本人を彷彿とさせた。だが、この世界では黒色をもつ者は珍しい。闇を彷彿させる色は忌避されるのだ。だが、まれにそう言った色を持つ者もいる。きっと彼はそうなのだろう。

服装は下町の子供がよく着るような者だ。半ズボンに上は白いシャツ。サスペンダーでズボンを支えている。


「この色。怖い?」


何も言わない私を黒色が怖いと思ったのだろうか。少年が自分の髪をいじりながら私に問いかけた。


「いえ、怖くはないけれど…。」


前世の記憶で髪と目が真っ黒な人なんてごまんと見ていたのだ。恐れなどはない。

だが、何故こんなところに子供がいるのだろうか。

私の脳内で警鐘がなっていた。

この子は危険だ。


「そうだよね。怖くなんかないよね! 僕とお姉さんはお揃いだもの!」


私の言葉に喜んだのか、少年が急に頬を赤くしながら言葉をまくし立てた。私はベンチの上に座っていたが、その私の膝の上に乗るように覆いかぶさってきた。


「ちょっ、ちょっと。離れてよ。」


「僕は嬉しいんだ。君に会えて。ずっと探していたんだ。」


人の話なんて聞いちゃいない。


「先日、君を森で見かけてからずっと様子を見ていたよ。ああ、君は変わらないね。シェリア。変わらない。」


少年は私の髪を一筋すくうと、髪に口付けた。


「…! そういう事はもっと大人になってから、別の女性にしなさいよ!」


私は慌てて少年から距離をとろうと彼の体を押す。いくら男の子でも、まだ少年だ。すぐに退かせると思っていた。

だが、


ーーービクともしない。


押せども引けども少年の体は全く動かせなかった。


「…ふふ。そうだね。僕たちにはまだ時間が早すぎる。でもね、あと少しだよ。」


話が通じてるのか通じてないのかさっぱりわからない。


「あと少しで迎えに来るよ。待っていてシェリア。」


ふっと、急に膝の上が軽くなる。少年が自分から退いたのだ。


「僕の名前はゼノ。覚えておいて? いや、思い出しておいてというべきかな?」


少年はくるりと回転するとニッコリと笑った。可愛らしい笑顔だ。

わたしも通常時だったら、その愛らしい表情に飴玉の1つや2つあげたかもしれないが。

この子は普通じゃない。先ほどから冷や汗が止まらない。


「わたし、貴方のことなんて知らないし会ったことないけど?」


「時期に思い出すさ。そのために印を付けておいたもの。またね、シェリア。」


少年はそう言うとそのまま数歩走っていき、ふっと姿を消してしまった。


「なんなの、一体…。」


私は背中に伝う冷や汗が未だに止まらないことに気づき、ぶるっと体を震わせた。

嫌な予感がする。

きっとこれは、物語の分岐点だ。


私はそう直感した。

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