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テスト当日。

私達は森の前に集合していた。チームは勿論、中間試験の時と同じだ。


モンスターの種類はそのチームの実力にあったものが、教師側から割り振られる。


「私達は小竜ミニ・ドラゴンの討伐ですね。いくら小さいとはいえ、ドラゴンなんてあの森に住んでいるんでしょうか……?」


フィオナが配られた課題の紙を見ながら言う。


「試験のために予め捕獲されているのを何処からか連れてくるそうだ。ミニと呼ばれているが、他の種族の竜と比べて小さいだけで列記とした大人の個体だ。油断するな。」


スウォンが、フィオナの言葉に答える。

ゲームのルート通りだ。スウォンルートでは試験の課題はミニ・ドラゴンで合っている。時折、ゲームと違う展開で話が進むときがあったので警戒していたが、ここに来てルート通りに進み始めたのだろうか。


「むー、ドラゴンなんておっかないものが課題だなんて。ついてないんだぞ……。昨年はリザードだったのに。」


ルヴィナスがしょんぼりと肩を落としている。

確かにこの課題は他の課題よりも圧倒的にレベルが高い。他の生徒はスライムから、蜥蜴人リザードあたりまでが多いだろう。ここには会長のスウォンもいる。後、私も一応優等生。なので難易度が跳ね上がっているようだ。


「そうか? 丁度いい位だろう。」


「お前を基準にするな! 普通はドラゴンなんて課題は与えられないぞ。ああ、やっぱり図書室に引きこもっていれば良かった。でも変態教師はうるさいし……。」


ルヴィナスは何やらブツブツと呟いている。

ゲームの本来の流れならこのチームはルヴィナスではなくルイスだった。そして、担当教師はリィナ先生。チームのメンバーが変わった事が心配の種だが、一応ストーリ通りに進みそうな感じだ。ルヴィナスには悪いが諦めてもらうほかない。


「おやおや、ルヴィナス。そんなに落ち込んでどうしたの?」


「げっ! 変態教師。何故ここにいる⁉︎」


後ろから聞こえた声にルヴィナスがとっても嫌そうな顔で振り向き答える。……私もルヴィナス同様嫌そうな顔をしていると思う。


「俺は君達の担当だよ。可愛い生徒に励ましてあげようと思ったのに、酷い言われようだね。先生、悲しいよ。」


わざとらしくそんな事を言うキリト。

フィオナだけはおろおろしているが、ほかの私含めた三人はしら〜っとしている。


「そんな事を仰いますが課題を決めたのは担当教師のキリト先生なのではありませんか?」


一応、教師という事だからかスウォンはキリトに対して敬語を使う。腹の中ではどう思っているか知らないが。


「君たちならできると思ってね。可愛い子には旅を……っていうでしょ?」


「私達を信頼して下さっているんですね! 期待に応えられるように頑張ります!」


フィオナは歓喜極まったように目を輝かせている。疑う事がない純粋な心は尊いし、そこが彼女の可愛いところだが。お姉ちゃんは貴女のことが少し心配です……。


「うんうん、フィオナちゃんは良い子だね。頑張って。」


私とルヴィナスが呆れたように彼らのやりとりを見ていると、キリトがこちらの方に向きなおる。


「君達もしかめっ面していないで、頑張って。」


ぽんぽんと私たちの肩を叩く。その時、ルヴィナスがとてつもなく嫌な顔をしていたのは見なかった事にしよう。


「おい、出発するぞ。」


見ると、スウォンが森の方へと踏み出していた。置いていかれては困る。私達は森の方へと足を踏み出した。


「頑張ってね〜。」


キリトはそれ以上何をするべくもなく私達に手を振っていた。


問題は山積みだ。キリトは警戒しておくに限るし、ゼノは何をしでかすか分からない。ルート通りの展開とはいえここから何が起こるか分からない。このまま本来の試験が行われるとは思わないほうが良いかもしれない。


ーーー


四人で森を進んでいく。こんなに奥深くに来るのは初めてだ。本当に広いんだな。

周りは木が生い茂っていて、視界は悪い。何かの動物の声が時々する。私達以外に生徒の気配もない。薄暗いし、どこか不気味な雰囲気である。


……こういう雰囲気は正直苦手だ。フィオナはどうなんだろうかと目で彼女の方へ視線をやるが、割と気にしていないようで普段と変わらないように見える。


「フィオナ、怖くないの?」


「え、怖い? ドラゴンのことかな? それだったら、不安はあるけど……」


「いや、そうじゃなくて。えと、その。この雰囲気。」


幼い頃は怖い夢を見たとか、壁のシミが人の顔に見える、とかで私に泣きついてきた記憶があるのだが。


「やだなぁ、シェリア。もう、私も大きくなったんだよ。こんなのへっちゃらだよ〜。」


フィオナは手を口元に当て笑う。その様子は嘘偽りなさそうだ。


「……概要は聞いたが、お前らは姉妹なんだろう。その、小さい頃はどんなだったんだ?」


スウォンが私達の会話に入り込む。

どうやら昔の話が聞きたいらしい。というよりもフィオナの幼い頃の話が聞きたいと思われる。……からかってやろう。


「あら、会長。フィオナの小さい頃の話が聞きたいんですか? ふ〜ん……。」


「な、なんだその目は。別に変な意図があるわけじゃない。一般的な兄弟の話を聞きたいだけで……。」


「普段、他人に興味を示さない貴方が珍しいのではないですか? フィオナが特別なのかしら。」


「ち、ちが!」


大抵無表情で澄ましているスウォンの表情が赤く染まる。俺様という設定だが、可愛い面もあるようだ。


「僕も二人の話、気になるぞ。」


ルヴィナスまで話に乗ってくる。予想外だ。適当にスウォンをからかって流そうと思っていたのにな。


「そんな話題の種になるような、面白いものってないんだけど。それに試験中よ。無駄な話をする必要な……。」


「ふふ、少しくらい良いじゃない。私も昔話したいな、シェリア。あっ、ほら。昔、シェリアが壁のシミが人の顔に見えるって怖がって……。」


「それは、フィオナでしょ! 怖がってその日は私のベッドで寝るって聞かなくて困ったんだから。」


「え〜! 違うよ、シェリアだよ。」


むむむむ、どうやらお互いに記憶の食い違いがあるようだ。


「そういえば、一緒に料理をした事もあったね。初めて作ったクッキー。少し焦げちゃったんだけど。父様も母様も美味しいって言ってくれたの覚えてるわ。」


「……。フィオナにはそんな綺麗な思い出で残っているのね。」


「え、違った? クッキーじゃなくてケーキだったかな?」


「会長さん。」


「え、何だ急に?」


フィオナと思い出話をしている中に唐突に声をかけられて、驚いているスウォンに忠告をする。


「貴方のこと大嫌いだけど、これだけは忠告しておいてあげるわ。将来、フィオナの手料理を食べる時は注意なさいな。」


フィオナを奪っていくスウォンは嫌いではあるが、これだけは忠告しておこう。せめてもの私の優しさだ。


……フィオナは類まれなるメシマズデスクッキングなヒロインちゃんなのである。


幼い時、一緒に作ったクッキー。フィオナが作った分を食べた時の両親の顔は忘れられない。父様の笑顔が固まり、普段笑顔の母様が無表情になった瞬間。美味しかったよなどと言っていたが、アレはそんな顔ではなかった。私も一口食したが……あれは……。


カオスだ。混沌だ。


いくら愛しい妹の作ったものでもアレだけは庇えるような代物ではなかった。


「な、失礼ね、シェリア! ちゃんと美味しかったよ! 父様は全部食べてくれたわ。」


「くっ、フィオナがこうなってしまったのも、親バカ、嫁バカの父様のせいね。あの時、ちゃんと軌道修正していればこんな事には……!」


「人を病気みたいに言わないでよ〜!」


「ぷっ、ははは。」


「十分面白い話だぞ!」


フィオナと言い合っているとスウォンとルヴィナスが笑い出した。こっちは真剣なのに。

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