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「貴方なら私がいなくたって大丈夫よ。」


「無理だよ。」


ゼノははっきりと言い放った。


「僕は君までいなくなったら、満たされるものがなくなる。空っぽになる。きっと満たすものを求めて色んなものを壊して破壊するよ。」


「とんでもない脅し文句ね……。まるで魔王じゃない。」


「魔王、か。ふふ。皮肉だね。」


「?」


何やらゼノは一人で笑っている。何か気に障ったのかと思ったがそんな感じでもなさそうだ。


「ねぇ、シェリア。君が死を選ぶなら僕は全力で邪魔するよ。」


あれ、なんかさっきも何処かで聞いたような台詞。


「何で私のする事に邪魔する人がうようよ出てくるのかしら……。」


思わず一人ぼやく。ゼノは私のぼやきは聞こえなかったのか一人で語り続ける。


「君は僕の同胞。唯一僕を満たせるかもしれない。それなのに君は僕の前から消えようとしている。許せないね。」


「私には貴方を満たす事は出来ないし、それに貴方に文句を言われる筋合いないわね。」


「ふふ。お互いに譲り合う気はないみたいだね。」


ゼノは挑戦的な目で見つめ私の顎をすくう。彼と目線が合う。彼の目はやはり寂しげにみえた。


「つまらないな、君は。全然表情を動かさないんだもの。」


ゼノは私が目をそらさないと興が覚めたというように手を離した。


「つまらなくて悪かったわね。でも、貴方が本気じゃないの分かってるもの。」


「……。やれやれ。仕方ないね。」


彼はどこか諦めたようにため息を吐く。


「ねぇ、シェリア。やっぱり、僕は君が死のうとしている事は許せない。他人に取られるくらいなら……」


「人を自殺願望者みたいに言わないでよね。私だって目的があるの。試験の日まではいなくなるつもりはないわ。」


ゼノから不穏な魔力の気配がして慌てて彼の言葉を遮るように言う。ここで彼に殺されたら全てダメになってしまう。


「ふーん……。試験の日ね。」


私がうっかりこぼした言葉を拾い上げるゼノ。

しまった。口を滑らせた。


「分かったよ。なら、ついでにその試験の日に僕も計画を実行に移そうかな。君の目的なんか達成できないように。」


「な! そうまでして私の邪魔したいわけ?」


彼にその日学園で何かを起こされたら、私とフィオナのラストも変わってしまうじゃないか。


「ふふ。だから、シェリア。試験の日、僕を止めてね。楽しみにしてるよ。」


ふっと虚空に姿を消したゼノ。

面倒なことになってしまった。彼が何をするつもりかわからないが、このままでは私の計画も

成り立たなくなってしまう。


「あー、もう!」


一人、空に向かって叫ぶ。

早くこの物語を終わらせてしまいたいのに。フィオナが誰かと幸せそうにしている姿なんて見たくないから。


やっぱり、私は最低だ。


ーーー


翌日のホームルーム。中間試験同様、試験内容の発表がされた。私の記憶通りで森で行われるようだ。


「今回の実技テスト、二日がかりで行われるんだね。」


ホームルームが終わるとフィオナが私の席に来て、話し始める。


「そうね。恐らく森で野営することになるからしっかり準備しないとね。」


「緊張する〜。森にいるモンスターを討伐するんだよね。私にできるかな……?」


「フィオナなら大丈夫よ。スウォン先輩の補佐をしっかりしてあげてね。」


「分かった、私頑張るよ!」


フィオナはガッツポーズをすると気合を入れていた。私はそんな彼女を目を細めて見つめる。彼女はいつも正しく前に向かって進める。それに比べて私は……。


「シェリア? どうしたの、ボッーとしてるみたいだけど、具合でも悪いの?」


私が何も言わずにいたのを訝しげに思ったのかフィオナが私に顔を近づけて様子を伺う。


……可愛い。彼女は私の天使だ。


私は近づいたフィオナのおでこにちゅっと口付ける。


「大丈夫よ。」


フィオナはびっくりした顔をしていたが、ふふと笑って良かったと一言呟いた。

ああ、やっぱり私は彼女が大好きだ。フィオナが側にいると心が落ち着いていく。このままでいれたら良かったのに。私はどこで道を間違えたのだろうか。


……試験の前日。

普段と同じように授業を受けて、それが終わるとフィオナはスウォンと魔法の練習に行った。明日がテストだから特に気合が入っているようだった。

私はそれを表面上は笑顔で見送る。この時間が一番辛い。


この日、私はいつもはまっすぐ寮に帰るのを別の場所に向かっていた。


かららっ


一つの空き教室の扉を開く。


「あれ? 珍しいお客さんだね?」


閑散とした部屋の中に一人の生徒が机の上に座っていた。


「お久しぶりです、ルイス先輩。」


「そうだね〜、監禁されていたお姫様を救いだしたあの時以来、かな? 元気そうで何より。」


「その節はどうも……。」


ルイスは机から降りるとこちらの様子を伺うようにじっと見てくる。


「しかし意外だな。君がこの場所を知っているなんてね。たまたまなのか、それとも……」


「人伝に聞いたんです。ここにレアなマジックアイテムがあるって。」


「ふーん……。じゃあ、列記とした『お客さん』だね。」


ここはルイスが個人的に営業しているマジックショップ。放課後ひっそりと何処かの空き教室で不定期に行われている。取り扱いには非合法な物、ちょっとグレーな物もあるので知る人ぞ知る店だ。ルイスが作ったオリジナルなものもあるらしい。彼が別邸を持っているのもこう言った稼ぎからお金があるのだろう。

ふと、このショップのことをゲームの中であったのを思い出し、こうして訪れてみた。噂には教師まで利用していることから暗黙の了解で黙認されているらしい。


「で、何が欲しいの〜? あっまさか、恋のお悩み? ついに、お相手決めたの? それならいい惚れ薬……」


「ストップ!」


ルイスは矢継ぎ早にペラペラと喋る。止めないと永遠に喋り続けそうな勢いだ。


「残念だけど、そんな色目いたお願いじゃないのよ。」


「えー、つまんないなあ。」


ルイスは自前の収納ボックスから取り出しかけていた怪しい色の液体をしまった。

なんだあの薬……。


「ん、これ欲しい?」


私の目線に気づいたのか目を細めて悪戯げに問うルイス。


「いらないわ……。そんな怪しいモノ。」


「やだなぁ、ただの大人のお薬だよ。たまに、先生なんかも欲しがりに来るモノ。クスクス……」


やっぱりロクなものじゃなさそうだ。


「で、冗談は終わりにしようか。一体、何をお求めですか、シェリアちゃん。」


すっと表情を変えるルイス。最初から真面目にやってもらいたいものだが……。

私は必要なアイテムの名前を口にする。これがあればゼノを止められるかもしれないからだ。

ルイスは私が口にしたアイテムの名前に一瞬驚いた顔をしていた。


「へ〜、君の学年ではまだ取り扱い禁止物だけどねぇ。まっ、俺のモットーは必要としている人に必要なモノを売ることだから。いいよ。ちょっと待ってねぇ。」


ルイスは先程の箱からゴソゴソと取り出し私に渡した。


「ありがとう。代金はこれでいいかしら?」


私は小袋に入れたお金を彼に渡す。


「うん、十分だよ。君なら大丈夫だと思うけど、取り扱いには気をつけて。」


「ええ、分かったわ。」


「後これはおまけ。明日から試験だし、きっと役に立つよ。」


小瓶を渡される。なんだろう。透明な液体だ。


「魔力回復薬。試作品なんだけど、良かったらどーぞ。今、お買い物してくれた方にプレゼントしてるんだ。」


「ふーん……。ありがとう、試験の時に役に立ちそうだわ。試してみるわね。」


私は小瓶を軽く揺すって眺めてから懐にしまった。そして、そのまま部屋をあとにする。

ルイスは軽く手を振りながら私を見送っていた。


準備は整った。ゼノが一体何を仕掛けてくるかわからないが、何も対策をしないよりはマシだろう。


さぁ、この乙女ゲームを終わらせて、悪役のボスとして立派に役目を果たそう。


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